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第ニ章

魔法の調味料

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 どうやらこのソードフィッシュの異常繁殖の原因は、このウォータードラゴンにあるらしい。
 彼女が普段からソードフィッシュを食べてくれているお陰で、食物連鎖が成り立っていたのだが……。ソードフィッシュの味に飽きてしまい食欲が出ていないらしいのだ。

 一度食材そのものの味に飽きてしまうと、それを克服させるのはなかなか難しい。だが、もしかすると……。

「味を変えればまた食べられるかもな。」

 俺はあることを思いつき、ハウスキットを展開した。

「ちょっと待っててくれ。」

 1人厨房へ向かい、大きい鍋を3つ火口に置いた。そしてそれぞれの鍋に醤油を注いでいく。

「三種類味の違う醤油を作ってやれば、まぁ当分飽きることはないだろう。」

 1つの鍋にはレモン、柚子等々柑橘系の果物を一緒に入れて火にかける。

 もう1つの鍋にはニンニクを細切りにして火にかける。
 
 最後の鍋には生姜をすりおろして火にかけた。

「あとは、氷砂糖で味をまろやかにしてっと。」

 氷砂糖で醤油の尖った部分をまろやかにしていく。こうしてやらないと、食べ続けるのが辛くなってしまうのだ。

「あとは、冷ますだけだな。」

 一度沸騰させ氷水に当てて冷ます。ちなみにこういう醤油は日が経つにつれ美味しさが増していく。
 だからこそ飽きにくい。日を追うごとにどんどん美味しくなるのだからな。

 そして、冷ました3種類の醤油を一升瓶に詰めてウォータードラゴンのもとへと向かった。

「ちょっと、ソードフィッシュにこれをかけて食べてみてくれ。」

「これなんですかぁ?」

「魔法の調味料だ。コレをかけて食べれば、また味覚の世界観がきっと変わる。」

 俺の言葉に半信半疑な様子で、首を傾げながらもウォータードラゴンは1匹のソードフィッシュにポン酢風の醤油をかけてかぶりついた。
 すると、大きく目を見開く。

「この魔物、脂っこかったのにさっぱりたべられますよぉ~!!」

 そしてあっという間に、丸一匹ソードフィッシュを食べ終えてしまう。

「他の2種類も試してみてくれ。」

 用意した残り2つのにんにく風味の醤油と、生姜風味の醤油も彼女の食欲の促進を促すことが確認できた。

 この分なら当分はなんとかなりそうだ。

「まぁ、これで暫く食いつないでくれると助かる。」

「コレがあれば、また数年は食べ続けられると思います~。」

「多分そのペースだとすぐに無くなるだろうから、また近々補充に来るよ。」

 そう伝えて、一度俺達はシュベールへと戻るべく。踵を返したのだが……不意にランがクルリとウォータードラゴンの方を振り返ると、ニヤニヤと笑いながら言った。

「あなたも早くツガイが見つかるといいわね~。それじゃあね~♪」

「う、うるさいですよぉ~!!」

 ランの言葉にぷんすか怒っているウォータードラゴンを背に、ここまで来た道を引き返した。

 しかしまだこの時、俺は知らなかった。

 ウォータードラゴンに渡した、この醤油が原因でとある抗争が起こることを……。
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