79 / 1,052
第ニ章
いざシュベールへ
しおりを挟む朝ごはんを食べ終えた後、俺たちは出発の準備を始めた。ハウスキットをマジックバッグにしまい、森から出て、先日買った大きな馬車を出す。
「グレイス、この馬車引っ張れそうか?」
「このぐらいだったら全然余裕っすよ~。」
「そうか、それじゃあ頼むな。」
グレイスに馬車の装備を着けて試しに少し引っ張らせてみると、軽々と引っ張ってくれている。この分なら問題なさそうだ。
「よし、みんな乗っていいぞ~。」
「シアがいちばーん!!」
シアが元気にはしゃぎながら、とててて~っと馬車に駆けこんでいった。
「それじゃあアタイ達も行こうか。」
「そうね、そうしましょ。」
そのあとにドーナとランの二人が続いて入っていく。
「後は俺が手綱を握ればいいか。」
「お願いするっすよ~、この道を真っ直ぐ行けばいいんすよね?」
「あぁ、そうだ。頼んだぞ。」
「任せてくださいっす!!それじゃあ行くっすよ~。」
グレイスが一歩大きく踏み出すと同時に、ガラガラと馬車が動きだしシュベールへと進み始めた。
そして、シュベールへと向かって進むこと30分ほど経っただろうか。グレイスがある異変を察知した。
「ヒイラギさん、さっきから何人かつけてきてるっす。」
「わかってる、取りあえずこのまま進んでくれ。相手の出方を見よう。」
「了解っす。」
ほんの10分ほど前から、何者かがこの馬車をつけてきているのだ。
「みんな、さっきからつけられてるから警戒しておいてくれ。」
「わかったわ……って言っても、ただの人間に負ける気はしないわね。」
「馬車を狙う手口……最近ギルドに届け出があった盗賊の手口にそっくりだねぇ。」
盗賊……確かに依頼書で見た気がするな。面倒事は勘弁して欲しいんだが……。
それからすこし進むと、開けた場所に出た。
仕掛けてくるならここだろうなと予想していると。
「オイ!!その馬車置いてけ!!さもねぇとぶっ殺すぞ!!」
ぞろぞろと10人ぐらいだろうか、男たちが茂みの中から出てきて馬車の前に立ち塞がった。
「グレイス、ちょっとここで待っててくれ。」
「え?あ、はいっす。」
俺は1人で盗賊達の前に立った。
「この馬車を渡すつもりはない。お帰り願おうか。」
「ギャハハ!!おめぇこの人数相手にどうしようってんだよ?」
「ワイバーンが馬車を引っ張ってるのには驚いたが、それを見た限りテメェ魔物使いだろ?雑魚じゃねぇか!!」
どうやらこの盗賊たちは、俺の事を魔物使いという職業と勘違いしているらしいな。
「頼みのワイバーンは馬車引っ張ってて動けねぇってのに、おめぇは1人だろぉ?おとなしくその馬車おいてった方が身のためだぜぇ?」
勘違いも甚だしいな。
「はぁ、わかった。なら死にたいやつから先にかかってこい。」
相手は大人しく馬車を渡さなかったら、こちらを殺してでも奪い取るつもりだ。ならばこちらも遠慮はいらない。
「へへぇ、じゃあ死ねや!!」
血気盛んな男が一人、飛び出してくると上段から雑な大振りの剣擊が落ちてきた。
しかしその攻撃は、半歩右にずれただけで空を切ることになる。そして流れるように俺は手刀を男の首に押し当てた。
「内断。」
この技は人に対して、かなり有効な殺人技だ。手刀で頸動脈を押し潰し…螺切る技。言っていることは簡単だが、実践してみると結構難しい。
皮膚と筋肉に守られた頸動脈を螺切るにはどうするか?この技を取得するためには、ある程度の医学も学ばなければならない。
そして頸動脈を切られるとどうなるか……答えは簡単である。
「ぐぼぇあっ!!」
首で大量の内出血を起こし、最終的に皮膚が耐えられなくなり弾けとぶ。
倒れる男に目もむけず、俺は固まっている残りの盗賊たちに視線を送る。
「さぁ、次はどいつだ?」
「な、舐めやがって全員で行くぞ!!」
なるほど全員で来るか、物量は力になりうるが……。統率がとれていなければ意味はない。
正面から振り下ろされる剣を懐に潜り込み無力化し、腕をつかんで地面に顔面を叩きつける。
これで1人。
そして仲間がやられて、一瞬体が固まっているやつの頸動脈を螺切る。
これで2人。
そして残りの盗賊も攻撃を避け、流し、必殺の一撃を叩き込み仕留めていった。
「……終わったな。」
盗賊たちを片付け、一つ大きなため息を吐いているとグレイスが馬車を引いてこちらに歩み寄ってきた。
「ヒイラギさん、お疲れさまっす。 」
「あぁ、先へ進もう。」
この場所にとどまるのはあまり気分の良いものではない。
初めて人間を殺めた感触が残る手で、馬車の手綱を握り先を急ぐのだった。
126
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる