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第一章

二人の本当の恋敵

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 一悶着ありながらも、ひとまず料理を食べてくれる様子のラン。

「それじゃあいただくわ。」

 俺の作った三日月草をふんだんに使った薬膳料理を、一口食べた彼女は思わず口を手で覆い目を大きく見開いた。

 口に合わなかったのかと思い一瞬不安になったが、そんな不安はすぐに払拭される。

「な、なにこれ美味しい。」

 ごくりと食べた料理を飲み込んだランがそうつぶやいた。どうやら美味しくなかったわけではなく、美味しすぎて言葉がなかなか出てこなかっただけのようだ。

「口にあったようでよかったよ。」

「口にあったどころの話じゃないわ!!こんなに美味しい食べ物今まで食べたことない!!」

 そして、彼女は無我夢中で料理を食べ始める。料理を美味しそうにほおばるランを眺めていると、ドーナが俺にある質問を投げかけてきた。

「そういえばヒイラギ、ランがさっきドラゴンとか何とか言ってたけど何のことだい?」

「ん?あぁ、ランはあの赤いドラゴンに襲われていた、もう一匹のドラゴンなんだ。」

「えぇ!?どっからどう見ても人間にしか見えないけどねぇ。」

 驚きながらもランのことをまじまじと見つめるドーナに、口いっぱい頬張っていた料理をゴクンと飲み込んだランが言う。

「そりゃあそういうスキルだもの、でもステータス的にはドラゴンの状態と変わらないわよ?」

 人間の状態でドラゴンと同じ能力か、どっかの誰かみたいだな。

 なーんてことを思っていると、ランの前に配膳されていた料理があっという間に無くなっていた。

「ふう、美味しかったわ。ごちそうさまでした。」

 ナプキンで口元を拭きながら、ランが満足そうに一つ溜息を吐いた。

 あの量をもう食べたのか?胃袋はドラゴンのままだと言っていたが、あの言葉に間違いはなかったらしい。

「それで、体のほうはどうだ?三日月草を料理に使ったから、少しでも回復してるといいんだが。」

「体力的にはもう万全だけど、少し見てみようかしら」

 そう言った彼女の背中から蒼色の翼が生えた。その翼はここに来る前とは違い、ボロボロになっていた翼膜が綺麗に再生し、目立つような傷はすっかり無くなっていた。

「うそ、もう飛べないと思ってたのに。」

「おぉ、きれいに治ってるじゃないか。たくさん三日月草を使った甲斐があったよ。」

「ありがとう……ヒイラギ。」

 瞳のふちに少し涙をためながら、ランは俺の手をぎゅっと握ってくる。

 そしてさり気なく上目遣いで、こちらにパチパチとウインクしてアピールしてくる。

「ちょ、近いんじゃないかい!?」

 焦ったようにドーナが彼女に詰め寄った。そして二人がまた言い争いを始めると……。

「ヒイラギお兄さんはシアの~♪」

 いつの間に起きたのかシアが隣に座って、俺にぎゅっと抱き着き顔をうずめてきた。

「ごめんな、起こしちゃったか?」

「えへへ~、大丈夫。こうしてお兄さんに撫でて貰えるから~♪」

 えへへ~とにこやかに笑うシアの頭を撫でていると、言い争っていた二人がぴたりと言い争いをやめて、こちらをじっと見ていた。

「ね、ねぇ?ワタシ達……争ってる場合じゃなさそうね。」

「そ、そうだねぇ、ここは一時休戦としようじゃないか。」

 何か通じ合った様子で二人は一時休戦の協定を結んでいた。二人の顔には何やら焦りのような表情も見受けられる。

「えへへぇ~♪お兄さんだーいすき!!」

 そんな二人を背に、シアはお構いなしに俺の胸にグイグイと顔を埋めてくる。

 そしておもむろにシアが二人の方を向くと、満面の笑みを浮かべるのだった。
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