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第一章
三日月草の薬膳料理
しおりを挟むハウスキットへと向かって歩いている途中、不意に彼女が話しかけてきた。
「ねぇ、あなた名前は?」
「そういえば名乗ってなかったな。ヒイラギ クレハだ。ヒイラギでいい。君はなんていうんだ?」
「ワタシには名前なんてないわ、あるとしても種族名だけ。」
「ドラゴンてやつはそういうもんなのか?」
「ほとんどはそういうものよ。でも、もし名前で呼びたいなら……何か素敵な名前をあなたがくれないかしら?」
「それは……どうなんだ?」
「ワタシ達ドラゴンはね、強い人に名前を貰えるのが何よりも幸福で名誉なことなの。あのレッドドラゴンを倒せるヒイラギって、ワタシが今まで見てきたなかで1番強いし……。だ、だから名前をつけて欲しいな?って思ったり……したんだけど。」
彼女は少しもじもじとしながら名づけをねだってくる。正直ここまでせがまれてしまうと、断ろうにも断れない。こういう押しには弱いんだよな。
「そこまで言われるとな……。」
名前……名前か、彼女の全体の印象を捉えた名前がいいだろうな。
赤ちゃんとかに名前を付けるのなら、将来どうなってほしいかを考えたりして名前を付けるんだろうが……今回は大人の女性向けに名前を考えないといけないのだ。
彼女の全体を見て深く印象に残るのは、やはりきれいな蒼い色…蒼…青……藍。
「藍。」
「えっ!?」
「ランというのはどうだ?理由としてはその……きれいな蒼い色が特徴だからって感じなんだが……ちょっと安直か?」
「ラン……ラン!!いいわね、ワタシは今日からランよ。改めてよろしくねヒイラギ。」
「あぁ、喜んでくれてよかった。よろしく頼む。」
そんなやり取りをしていたら、あっという間にハウスキットの目の前についた。
「ここだ。」
「へぇ~、見たこと無い建物ね。でも……クンクン。とってもいい匂いがするわ。」
スンスンと鼻をならし、中から漂う食材の匂いを嗅ぎとったらしい。
さっき料理をしたばっかりだから、換気扇から残り香が漏れていたのかもしれないな。
「まぁ、入ってくれ。」
「うん、お邪魔するわ。」
「その辺に適当に座っててくれ、今から作るから。」
「わかったわ。あ、あと……ワタシ今は人間の姿だけど、胃袋はドラゴンのままだから、たくさん食べるわよ?」
「了解した。」
たくさん食べるのは想定内だ、腕が鳴る。やる気を高めながら1人厨房へ向かう。
「さて、余ってる三日月草をふんだんに使ってやるか。」
まずはサラダから作ろう。簡単なシーザーサラダだ。
三日月草の葉っぱをちぎって水で洗い、器に敷き詰めていく。そしたらそこにトマト、キュウリを盛り付けて、その上からザルで押し出した茹で玉子とクルトンをのせる。
最後にカリカリに焼いたベーコンをのせて完成だ。
次は肉料理。よく掃除をした丸鳥の中に三日月草、ニンニク、ネギ、ニラを詰める。そして皮に油を薄く塗って180℃のオーブンでじっくり焼く。皮がパリパリになって、中までしっかりと火が入ったら完成だ。
お次は三日月草とジャガイモのビシソワーズを作る。まずジャガイモを、皮を剥かずに茹でて火を通していく。
茹で上がったら熱いうちに皮を剥き潰す。潰し終わったら鍋に入れ、生クリーム、コンソメ、牛乳を入れて味を整える。
最後にさっとゆでた三日月草と、味を整えたジャガイモスープをミキサーにかけ滑らかにして、シノアで裏ごしたら完成だ。
「勢いでバッグの中にあった三日月草をほとんど使って作ったが……食べきれるかな?」
まぁ彼女自身たくさん食べるといっていたから、きっと全部食べてくれるだろう。
そうして出来上がった料理を持って、ランが待つテーブルへと向かうと何やら言い争う声が聞こえてきた。
「だからヒイラギは、ワタシのツガイだって言ってるじゃない?」
「はぁ!?急に何を言い出してるんだいアンタは!?」
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