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第一章

ミースは見たッ……

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 俺の魔力が回復し始めたころ、ドーナはふと思い出したように言った。

「あ、そういや今回のことギルドにはなんて報告しようか。ヒイラギの秘密もあるし……。」

「ドーナが倒したってことにしちゃダメか?」

「まぁできないことはないけど、それだと手柄が全部アタイに入っちまうよ?」

「別に構わないさ。手柄とかそういうのには興味ないから。」

「そう言ったってねぇ~……。」

 どうするべきかドーナがこめかみを押さえていると、突然後ろから声がした。

「あらら?またいい感じですかぁ~お二人さんっ♪」

「みっ、ミースっ!?なっ、なんであんたがここにいるんだいっ!?」

 後ろを振り返ると、後ろ手に短剣を携えたミースがくすくす笑いながら立っていた。

「さぁ~?なんででしょうねっ?もしかしたらお二人の甘酸っぱ~い恋の匂いに誘われちゃったのかも?な~んてっ、フフッ♪さてさて、驚異のほうは取り除かれたみたいなのですし?お邪魔なようなので私は失礼しま~す!!」

 言いたいことだけ言うと、まるで嵐のごとくミースは走り去っていった。

「はぁ~、ったくだからって無茶するよ、帰ったらきつく言っておかなきゃねぇ。」

「ミースは元金級の冒険者だったのか?」

「そうだよ、昔はあれでブイブイ言わせてたんだけどねぇ。」

 意外な事実発覚だな。まさかミースが元金級の冒険者だったとは。

「ミースのことだから、当たり障りのないように報告してくれると思うけど、いらん噂まで流されそうだねこりゃあ。」

「当分ギルドに顔を出せそうにないな。」

「ホントだよ。」

 そんなことを話しているうちに魔力が回復し、俺は動けるようになった。

「ありがとう、おかげで動けるようになった。」

「そ、それは何よりだよ。さ、さてとアタイはギルドに戻って誤解を解きに行こうかねぇ……。」

 そして歩き出そうとしていたドーナの腕を、俺は反射的につかむ。

「ど、ドーナ良かったらお礼をしたいんだが……ついてきてくれないか?」

「お、お礼って別に大したことはしてないんだけど……。」 

「いや、今までさんざんよくしてもらったからな。これは俺のだ。もちろん受けてくれるよな?」

「うぅ、そういわれると受けざるを得ないよねぇ。痛いとこついてくるよ本当に……。」

 そしてハウスキットのあるほうへと歩き出そうとすると、今度はドーナに手を掴まれた。

「ま、まだ完全に魔力は回復してないんだろ?アタイが支えるよ、転ばれちゃあ困るからね。」

 そう顔を真っ赤にしながら言ったドーナ。そんなに顔を真っ赤にするぐらいなら、やらなければいいのにな。
 内心そう思いつつも彼女のやさしさに甘え、人生で初めて恋人同士のように手を繋いで、俺たちはハウスキットのほうへと向かう。

 そしてハウスキットのある場所にたどり着くと、シアが中から飛び出してきた。

「お兄さ~ん!!おかえりなさいっ!!」

「あぁ、ただいま。」

 抱き着いてきたシアの頭を撫でていると、シアは俺がドーナと手を繋いでいることに気が付いた。

「あっ!!お姉さんもいるっ、シアもお手々繋ぎたいっ!!」

 シアとも手を繋ぎ俺たちはハウスキットの中へと入る。先にドーナとシアにソファーに腰掛けてもらい、俺は二人に飲み物を差し出した。

「ドーナはお腹減ってたりするか?」

「正直なところ朝から食べてないから、かなり腹は減ってるね。」

「そうか、なら都合がいい。お礼もかねて何か作ろう。少しシアと一緒に待っててくれ。」

 頭の中で作るメニューを考えながら、俺は厨房へと向かうのだった。
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