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第一章

カグロの調理

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 ハウスキットの中へと入った俺は、いつものようにロッカールームへと向かった。そして自分のロッカーを開けて、ハンガーにかかっていたコックコートを手に取った。

「確か、もうボロボロになっていたはずなんだが。」

 殴られ蹴られの毎日を送っていたせいで、生前俺が着ていたコックコートはボロボロになっていたはずだったのだが、そこには新品同然のコックコートがあった。試しに袖を通すと新品だからかやはり少し硬い。

 コックコートに着替え前掛けを締めると一段と気合が入った。

「やっぱり、この格好が一番気合いが入る。」

 着替え終わった俺はシアと一緒に厨房へと向かう。 厨房の電気をつけて中に入ると、シアがしきりに鼻を鳴らし始めた。

「ふわぁぁ、ヒイラギお兄さん。ここいろんな匂いがするっ!!」

 それもそのはずだ。ここには塩や砂糖などの調味料や、スーパーなどでは手に入らない香辛料等々がたくさんそろっている。

「それじゃあシアはここに座っててくれるか?今から料理を作る。危ないから近づいちゃダメだぞ?」

「うん、わかった。」

 危ないのでシアには盛り付け台に備えてある椅子に座ってて貰う。高温の油が跳ねたりして、やけどなんてされたら大変だからな。

「それじゃあまず、カグロからいこうか。」

 俺はマジックバックからカグロをとりだし、流し場に置いた。まずは「水洗い」から始めよう。 

 カグロの表面を流水で軽く洗う。これにより海水に住んでいて真水に弱い細菌を殺菌できるのだ。次は鱗を落とす。どうやらカグロはカツオと同じく胸ビレのところに大きな鱗があるので、それを包丁で鋤きとる。裏側も同様だ。

「そしたら頭を落としてっと。」

 魚の背骨の関節を狙って包丁で頭を落とす。関節を狙わないと上手く包丁が入らず、最悪包丁が欠けてしまう恐れがあるので注意しなければならない。

「次はお腹を裂いて内臓を取り出して。」

 カグロのお腹に切れ目を入れ内臓を取り出す。ちなみにカツオの内臓は「酒盗」という酒のつまみになる。クリームチーズなんかと一緒に食べると最高に酒が進むんだ。

 さすがにこいつでそれを作ろうとは思わないが……。

「あとは血合いに切り込みを入れてしっかりと水で洗う。」

 魚の血合いは中骨のすぐ下にある。そこに切り込みを入れて水で洗っていく。なるだけキレイに血合いは洗って取った方がいい。血合いが残っているまま三枚おろしをしてしまうと身に血がしみ込んでしまう。

「そしたら最後にキッチンペーパーで水気をしっかりとって「水洗い」終了だ。」

 一般的な料理店ではこれが1年目、つまり新入社員の仕事だ。とにかく朝はこれをひたすらやらされる。

「それじゃあ三枚に下ろしていこうか。」

 水気をふき取ったまな板に水洗いを終えたカグロを置き、三枚に下ろす。あんまりにも大きいサイズの魚の場合は五枚下ろしのほうがやりやすい場合がある。

「これで良し、あとは柵取りしてたたきにしよう。」

 三枚に下ろした身を柵取りする。柵取りとは三枚に下した身の血合い骨に沿って包丁を入れて、腹身と背身に分けることだ。小さい魚なら骨を抜いて刺身にすればいいんだが、身割れしやすい魚や大きい魚は柵取りをしたほうが良い。

「よし、カグロの下処理終了っと。今日はとりあえず半身あればいいだろう。残りはラップにくるんでバッグに入れておこう。」

 今日使わない身をラップでくるみバッグの中に放り込む。バッグの中の時間は止まっているから、冷凍するよりも鮮度が落ちないはずだ。

「そういえば、冷凍庫とかもそのまま再現されてるが……中身はどうなってる?」

 おもむろに冷凍庫を開けると、そこには大量の食材がしまわれていた。

「冷凍庫の中身もそのまんまか。」

 俺が死ぬ前までの冷凍庫の在庫がそのまま反映されていた。この中には使えるものがたくさんあるから、ありがたいことではある。
 この様子だと冷蔵庫も在庫はそのままだろう。それならもちろんあれもあるはずだ。

「さてじゃあたたきにしようか。」

 皮と身の表面を直火であぶり、焦げ目がついてきたら火から離してすぐ串を抜く。そして、ビニール袋に入れすぐに氷水で冷やす。串に刺したまま氷水で冷やす人もいる。だがそれだと水っぽくなりやすいので俺はこうしている。

 そしてしっかりと冷ましたカグロのたたきを切り付けて皿に盛りつける。

「さぁ、次は野菜を切ろう。」

 使った調理器具を洗い、冷蔵庫のあるほうへと向かうのだった。
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