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第一章
宿屋のディナー
しおりを挟む階段を下りて食堂に近づくにつれて、とても良い匂いが鼻を刺激する。
「良い匂いだ。バターのような香りがする。」
食堂の入り口をくぐり、空いているテーブルに座る。するとまもなくテーブルの上に料理が運ばれてきた。
「本日の夕食は一角牛のステーキになっております。」
俺の前に200gはあるだろうかという分厚いステーキが、熱く熱された鉄板に乗ってジュウジュウと音を立てながら運ばれてきた。メインのステーキが配膳されると、それに続いてパンとスープも運ばれてきた。
「お飲み物はいかがいたしますか?」
「紅茶で。」
「かしこまりました。食後でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで大丈夫。」
酒を頼んでもよかったが、今はそんな気分じゃなかった。
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
さて、それじゃあ冷めないうちに食べるか。
「いただきます。まずはスープからだな。」
スープカップを手に取り、口元へ運び一口飲む。
「うん、美味しい。すごくアッサリしてる。野菜ベースの出汁だな。」
野菜の甘みもスープに溶けだしていて、とても美味しい。ステーキに合わせるスープには最適だろう。
「パンはどうだろう。」
見た目は普通のバターブレットにしか見えないが……手に取ったパンを少しちぎり口へ運ぶ。
「うん、バターの香りが心地良い。そして柔らかい、良いパンだ。」
食堂の近くで鼻腔を刺激してきた香りの正体はこれだろう。ふんわりと柔らかくて食べやすい。
「さて、一角牛?だったか。どんな牛なんだろうな。」
いよいよメインディッシュを食べるべく、配膳されていたナイフで肉を切り分ける。スッと刃が沈み込み、切ったところから肉汁があふれてくる。肉自体も柔らかいし、焼き加減も完璧だ。
美味しくない要素が今のところ一つもない。
さっそくひと切れフォークで刺し口へ運ぶ。
「んむ、これはうまい!!」
塩加減も丁度よくて、歯切れもいい。脂味は甘く口のなかでじゅわっと溶けていく。A5ランクの和牛にも引けをとらない美味しさだ。
気が付けば無我夢中で食べ進めてしまい、あっという間にきれいにすべて完食してしまっていた。食べ終わったのを確認したウェイターが食後の紅茶を運んでくる。
「ふぅ、美味しかった。」
こっちの世界は美味しいものが多いな。ドーナと一緒に行ったお店の料理も美味しかったし、こっちの世界は料理の文化や技術がしっかりしているようだ。
明日の料理も楽しみだ。
食事を終えた俺は部屋へと戻り、ふかふかのベッドに背中を預けた。
「そういえばまだハウスキットを使ってないな。」
イリスから貰ったハウスキット。彼女曰く俺が日本で働いていた店を再現しているらしい。多分スチームコンベクションオーブン等、ほぼ最新に近い調理器材が揃っているはず。
「でも、そういう調理器具はもう少しこの世界の食材を知ってから使いたいな。」
この世界の食材を使って、日本の最新の調理器材をつかったら何ができるのだろうか?好奇心が、収まることを知らない。
だが、今は……。
「今はとりあえず寝よう。」
満腹中枢が刺激され強烈な眠気が襲ってきていたのだ。
「明日が楽しみだ。」
目を瞑り、襲ってくる睡魔に身を任せ微睡みの中に沈んでいった。
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