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第一章
実技試験
しおりを挟む地下に向かって歩いていくと、しだいに冒険者達の威勢の良い声と、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえてきた。
「今日もやってるねぇ。冒険者ならここで時間を潰すよりも、森のゴブリンでも倒してほしいもんだよ。」
そうぼやくようにドーナは言った。そして彼女は闘技場の入り口に立つと、そこにいた冒険者たちへと向かって口を開いた。
「練習に精を出しているところ悪いんだけどねぇ、場所空けてくれないかい?」
彼女に声をかけられると、先ほどまで練習に精を出していた冒険者達がいそいそと片付けを始め、観客席に登っていった。どうやら実技試験を見学するつもりらしい。
「さて、それじゃあ実技試験を始めようか?内容は簡単だ、どちらかが戦闘不能になるまで戦う。たったそれだけだよ。」
ドーナは闘技場の真ん中に立つと俺に向かって軽く言った。観客席にいる冒険者達はその言葉に若干引いている。
「おいおいあのルーキー、ドーナさんに目ぇつけられたのかよ。」
「可哀想に……せめて死なないよう祈るだけだな。」
観客席からは嫌な予感のする話し声が聞こえてきた。
そんな声を気にする余裕もなく、目の前でドーナが攻撃的な構えを取った。
「それじゃあいくよ?」
彼女はさぞかし楽しいのだろう、笑みがこぼれて止まらない様子だ。
そんな彼女だが、自然に自分の構えに移行できることを見るに相当な場数を踏んでいるようだ。
さっきのヘッジとか言う男とは比べ物になりそうもない。
観察しながらも体に染みついた構えをとった俺を見て、彼女は試合開始だと言わんばかりの勢いで地面を蹴り、こちらに一直線に向かってくる。
速い……。
彼女は俺が瞬きをした瞬間に思い切り踏み出し、姿勢を極端に下げ、体重移動と瞬間的な加速で驚異的スピードを実現しているようだ。
「フッ!!」
受けは間に合わないと踏み、彼女の拳に手を添え力の向きを変える。そして自分自身も回転しながら添えた手に遠心力を加え、ドーナを後ろの壁まで吹き飛ばす。
するとドオォォォン!!という音と共に大地が揺れ、一帯に激しい土埃が舞った。
なんて威力だ…あれを喰らわせる気でいたのか?
冷や汗が一つ頬をつたう。そして舞い上がった土埃の中からドーナが姿を現す。
「いやァ~、やるねぇ?初手を防がれたのは初めてだ。ったく楽しいねぇ、これだから戦いはやめられないよ!!」
くつくつと笑いながらドーナは指をバキバキと鳴らす。彼女の拳が叩き込まれた壁は、がらがらと石材が崩れ落ちている。
「おいおい、あのルーキー、ドーナさんの攻撃を防ぎやがったぜ!!」
「元白金級冒険者のドーナさんの攻撃を防ぐか。まぐれ、それとも実力か?この試合見ものになってきたな。」
観客席でこちらの戦いを見ていた冒険者がざわざわと騒ぎ始める。そしてある事実が発覚した。
「元白金級冒険者だったのか?」
「あぁ、そんなのは昔の話だよ。それより続きをやろうじゃないかい?」
異世界初の対人戦が元最上級冒険者とは、なんともまぁ豪華な出迎えだな。
ため息を一つ吐きながら俺は、受けの構えから攻めの構えに切り替えた。
「構えを変えたねぇ?」
「こっちの方が対応しやすそうだからな。」
「言うねぇ、じゃあ防いでみなッ!!」
彼女はニヤリと口角を吊り上げ再び強く地面を蹴り、俺への距離を詰める。
瞬く間に近付くお互いの間合い。そしてドーナがこちらの間合いに入った瞬間……。
「ここだ!!」
思い切り左足で踏み込み、ある場所で拳をピタリと止めた。
「~~ッ!!」
危険を察知して急停止したドーナの顔の目の前には、俺の拳が突き付けられていた。
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