上 下
1 / 977
チュートリアル

プロローグ

しおりを挟む

「遅いぞ、速くしろこのゴキブリ野郎!!」

「はいっ!!」

 ここはとあるホテルの中にあるレストランの厨房である。そこで俺こと「ひいらぎ 暮葉くれは」は働いていた。

「遅いつってんのがわかんねぇのか?あァ!?」

 怒鳴り散らす料理長から手加減のない拳が飛んでくる。

「がッ…す、すみません。」

 俺は左の頬にモロに叩き込まれた拳の衝撃を受けて尻餅をついてしまった。

 すると……。

「オラッ!!休んでねぇでフライパン振りやがれ!!」

 尻餅をついている俺をギロリと睨み付け、料理長はさっきまでコンロで煙が出るほど熱されていたフライパンを放り投げてくる。

 それは俺の腕に命中してしまう。

「があぁぁぁッ!?ッぐぅぅぅ‥」

 煙が出るほどに熱されていたフライパンは腕の皮膚を簡単に焼いた。あまりの痛さに悲鳴をあげてしまう。

 苦しむ俺に料理長は下卑た笑みを浮かべこちらを見下しながら言った。

「いいか?これから俺が遅いと感じたらこうなるからな?」

 そしてギャハギャハと笑いながら裏にある休憩室まで戻っていった。現在の時刻は12時40分過ぎ、ランチ営業の稼ぎ時なのにも関わらず料理長は1人で休憩に向かってしまった。

 この厨房には調理を担当する人物が俺と料理長しかいない。つまり料理長がいなくなれば俺は1人で厨房を回さなければなくなってしまうのだが……。これに関しては日常茶飯事なのであまり気にすることではない問題は……。

「いっ痛つつ、はやく冷やさないと!!」

 俺は激痛が走る腕を持ち上げ流し場に行き流水で腕を冷やした。すると、まるで剣山で刺されたかのような激痛が腕に走った。

「ッツ!!いってぇぇ!!」

 それも当然で、あの温度のフライパンを受けてしまった腕の皮膚は剥がれ肉が見えていた。

 しかし時の流れは非情で、そうこうしているうちにどんどんお客さんの料理のオーダーが溜まっていく。俺は応急処置もしないまま、痛みが走る腕でフライパンを振り、できた料理を盛り付け、溜まったオーダーをこなしていき何とかランチの営業を終えた。

「ハァッハァッ……。な、なんとか終わった……か。」

 いつも以上に疲れた。早く片付けて休憩に入ろう。

 そうしていつものように片付けをしようとすると床に赤黒い液体が大量にこぼれているのを見つける。

「やば、なに溢したこれ……兎に角見られたら不味いな。」

 この光景を見られてしまったが最後、とても嫌なことが待ち受けているのは間違いない。それを現実にしないためにも俺は動き出した。濡れた雑巾でせっせと床を拭く。しかし、床に溢れている液体は拭いても拭いてもなくなる気配がない。

 おかしい……。

 そしてよくよくその液体が零れている場所を辿ってみると、その液体の源泉は俺の腕から溢れ出した血液だったのだ。焼けて剝がれた皮膚からは今もとめどなく生暖かい血液が流れ出てきていた。

 防衛本能で脳から出ていたアドレナリンとエンドルフィンのおかげで痛みを感じなかった上、大量のオーダーに追われていたからすっかりこの火傷のことを忘れてしまっていた。

「止血っ……止血しないとヤバいっ。」

 急いで止血をしようと立ち上がろうとするが、目の前がぐらりと揺らぎ倒れ込んでしまう。

「か、体が……動かない。」

 大量に血を流したせいか、もう倒れてしまった体はピクリとも動かせない。今まで散々殴られ、蹴られの毎日を送ってきたがこんなに血を流したことはなかった。

 そして体を動かすことができないまま、意識が朦朧としていく……最後、意識が途切れる間際に感じたのはただひたすらに冷たいという感覚だけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...