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第一話
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私は学校の校門に向って走る。全速力だ。体育の時間だって私は、こんなに一生懸命に走ったことは無い。
言ってはなんだが、私はかなりの面倒くさがり屋だ。学校の授業だって人並み以上に聞こうなんて思わないし、親のお手伝いなんを進んだ回数も片手で数えるほどしかない。
でも……そんな私でも今、この時だけは妥協しちゃいけないって分かる。
私はトボトボと下校しようとしている女子生徒を大声で呼び止める。
「千聖!」
私の声に千聖は振り向く。
「あ、春奈どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ……はぁはぁ、久し振りの学校に来たと思ったら、これは何?」
私は、自分の携帯端末の画面を見せる。端末の画面には、チャットアプリ「ロイン」内で作った部活のグループが映し出されている。私は、グループ内に存在する猫のアイコンを指さす。猫のアイコンには一言「部活を辞めます」と書かれている。
そして、それを書き込んだのは他でもない、今私の目の前にいる鹿島高校演劇部のエース朝羽千聖なのだ。
「ねぇ、なんで⁉ 私達今度こそ、全国大会で優勝しようって言ったじゃん! もう、地区大会まで時間が無いのは分かってるでしょ!」
「……ごめんね」
「私が聞きたいのは、謝罪じゃない! 理由を教えてよ」
暫く、千聖は口を噤むがやがて、重く言葉を発する。
「春奈の……せいだよ──……」
♢♢♢
私は、自室の机に突っ伏す。押しの配信者の動画を端末で視聴するけど、正直全く頭に入らない。
チラリと時間を見ると、既に十時を回っている。ソロソロお風呂に入って寝る準備をしようと重たい体を動かすと、携帯がバイブする。見ると、電話がかかってきた。私はボタンを押す。
「何? ニーニー?」
電話をかけてきたのは、実兄である守野憂だった。
『おいおい、久し振りに声を聞いてやろうと電話かをけたというのに、なんだその覇気の無い声は。ニーニーは、お前をそんな風に育て覚えは無いぞ。我が妹』
「私も、ニーニーに育てられた覚えはない。声を聞きたかったならもう良いでしょ。切るよ」
私は通話終了のボタンを押すとするが、そこでニーニーから声が響く。
『まぁ待て妹よ。別に、ニーニーもお前を冷やかしに電話をかけた訳じゃない。ニーニーだってこの次期は部活が忙しいことは重々承知しているつもりだ』
ニーニーは演劇部の元OBだ。
「じゃ、なんでかけてきたの?」
『お前が、何か悩んでいると思ってな。愚痴ぐらい聞いてやろうと思ったのさ。が、どうやら愚痴以上に、何か悩みを抱えているようだな。せっかくなら聞くぞ』
「……いや、大丈夫。対したことじゃないから」
『……そうか。……そう言えば、ジャルの配信は見たか?』
私は首をかしげる。ジャルとは、私の好きな配信者だ。けど、何故その話題?
「いや、見てないけど」
『そうか。お前、やっぱ悩んでるだろう。しかも、かなり重め。大方、人間関係……部活の部員と何かあったな』
ニーニーの言葉に私の胸はドキリと跳ねる。
「何で分かったの!」
私は夜にも関わらずつい声を荒げてしまう。しかし、ニーニーの言葉は私の言葉と裏腹に冷めた物だった。
『別に、対したことじゃねーよ。お前が押しの配信をリアルタイムで見てないから、何かあるなと思ったが残りの奴は全部適当だ。けど、なるほどお前は部活の人間関係で悩んでるのか』
恐らく今、ニーニーは自分の端末の前でニヤリと不気味な笑みを浮べているんだろう。その顔を思い出しただけで、私の胸に悔しさがこみ上げる。
『さ、もう言い逃れは出来ない。さっさと全部吐いて楽になれ』
私は一瞬悩みを打ち明けることを躊躇ったが、ここで拒否すると次にニーニーがどんな罠を仕掛けてくるか分からないため、ここは潔く話すことを決めた。
「……実は、同じ学年の子が辞めた」
『ほぉ、それは大変だ。だが、別にそこまで珍しいことじゃないだろう。ニーニーの時だって半分が辞めたぜ』
「私以外」
私の言葉に、ニーニーは電話の向こうで笑い声を響かせる。
「はーはっはっ! マジか! 凄まじいな! 本番まで後一週間しかないだろう」
「そう。だからもう、部活めちゃくちゃ。あーもう! どうしよう!」
私は再度机に突っ伏す。
私と同じ学年の人は、私を含めて五人いた。そして、一週間前から次々と「部活」を辞めると伝えそれ以降部活に来なくなった。いや、聞いた話では何人かは学校にすら来てないらしい。
おかげで、空いた穴を埋めるために私を含めた多くの部員にしわ寄せがきている。現に本来、舞台に出るはずじゃ無かった私すら急遽舞台にでる羽目なった。
ニーニーは、ひとしきり笑った後、私に話し掛ける。
『で、別にそれで悩んでいるわけじゃないんだろう?』
「何のこと? それが私の今の悩みだよ」
『嘘つけ。中学校でドライアイスと言われたお前が、基本的に他人のことなんてどうだって良いと思っているお前が、たかが辞めた奴のことで頭を悩ませるか』
ニーニーは、私の内心を見たかのように次々と言い当てる。
『同学年の奴が辞めた。お前を悩ましている直接の理由はそれじゃない。話せ。話して、楽になれ』
……ニーニーには、かなわないなぁー。私は、私は心の中にすくう羞恥心とか、迷惑になるんじゃないのかとか、そういう気持ちをグッと乗り越えてニーニーに胸の内を明かす。
「その辞めた人たちの理由がさ、私のせいって言われたんだ」
私は今日、千聖が私に言った言葉を思い出す。
♢♢♢
「春奈の……せいだよ。いや、違うかな。春奈の凄さに耐えきれなかった私のせい、かな」
「どういうこと? 意味が分からない?」
私の言葉に、千聖は寂しそうに笑みを浮べる。
「ねぇ、春奈。気づいてる? 今の部活で誰が皆から信頼されてると思う?」
私は、千聖の脈絡のない突然の質問に頭を捻る。誰が、信頼されているかんなんて決まっている。
「千聖」
なんたって千聖は私と違って演劇部のエースだ。劇の配役だって三年の先輩達を押さえていつも主役。おまけに、私と違って性格は優しくて後輩からも慕われている。誰がどう見たって、今の演劇部の中心人物は千聖だ。
しかし、私の答えを千聖は否定する。
「違うよ。今、顧問の先生やコーチ、先輩や後輩から慕われているのは春奈。アナタだよ」
「はっ?」
私は千聖の言葉に意味が分からなかった。
千聖は、私の混乱によそにベラベラと言葉を並べる。
「私は、ただ人より少し演技が上手いだけ。その他のことはテンで駄目。知ってるでしょ。私、休日の練習になると最初から参加できない」
「それは、千聖が他の習い事もしてるからでしょ。しょうが無いよ! 誰も気にしてない!」
「違うの! 本当は、習い事のせいじゃないの……ただ、練習に行きたくないって気持ちになるの……休日になると、いつも体が重く感じてベッドから起きれない。朝ご飯を食べても、すぐにトイレに吐いちゃう……そんな……そんな弱い私が……本気で全国を狙ってるあの部活に……いて良い訳ないじゃん」
そう言い千聖は、先ほどよりも明るい自虐的な笑みを浮べる。
私は、頭が真っ白になった。どんな言葉をかけて良いか分からない。
「それに大丈夫だよ。私なんかがいなくても、演劇部はやっていける。春奈なら、きっと全国にいける。他の退部した皆も同じ気持ちだった。さっ、練習に戻ってよ。こんな、駄目な私なんか忘れてさ」
千聖は私に背を向ける。私は、暫くその場から動くことが出来なかった。
♢♢♢
「だからさ。私が悪いのかなって思って。でも、悪かったとしても、どうするべきか分からなくて」
何か言葉をかけるべきだったかも知れ無い。だけど、それがまた千聖を追い詰めるかも知れ無い。だけど──……そんな、答えの無い考えが私の頭を侵略する。気持ちが段々重くなる。
そんな、私の思考をニーニーは一言で一蹴する。
『馬鹿かお前は?』
「そうだよね。私、馬鹿だよね。千聖の気持ちも気づかなくて」
『違うそこじゃない。ニーニーがお前に馬鹿と言ってるのはお前が、その千聖とかいう女子の気持ちに気づかなかったところじゃない。お前が、何々するべきとかいうありもしない、正しさを基準に行動しようとしているところを言っているんだ! お前はいつから正しさの奴隷になった!』
ニーニーは自分の持論を捲し立てる。
『何をするべきか、なんて面白みの無い事を考えるな。言っておくが、お前がその千聖とかいう女に何を言おうと、何を言わなかろうと、多分結果は変わらなかったぞ』
その言葉に、私はそうかもしれないと思ってしまう。多分、仮に千聖にベストな言葉を投げかけたとしても千聖は私の前から去っただろう。
ただ、私はその現実を受入れたく無かっただけだということを認識させられる。
「じゃぁニーニーだったらどうするの?」
私は、ニーニーにアドバイスを願う。
『その女を、というか、辞めた奴全員どんなことをしてでも部活にこさせる。大会が終わるまで与えられた役を真っ当させる。脅迫してでも、拷問してでも。例え、それが原因で精神が崩壊しても、自殺をしようとしてでもだ。だって、そっちのほうが面白みがあるだろう』
私はニーニーにアドバイスを求めたことを後悔する。
高校を卒業し進学を機に一人暮らしを始め最近あえていなかったから忘れていたが、ニーニーは他よりもずれているんだった。
多分、今言った発言も冗談じゃなく本気でするだろう。というか、演劇部の時に似たようなことをしていたような……いや、さすがに拷問とかはしていなかっただろうけど……。
けれど、ニーニーと話して私の心は少しだけ上をむいた。
『で、お前は辞めた奴をどうしたい? というか、部活をどうしたい?』
ニーニーは、私に語りかける。不思議なことに、さっきまでは中々自分の本心を打ちあっけられなかったのに、今は簡単に打ち明けられる。
「無責任に辞めていった千聖達には、責任を取って貰う。ついでに、部活は全国に行く。そうじゃないと、私は、私がやってきたことを肯定できないから」
今まで休日を潰してまで練習に参加して、与えられた仕事は全てやった結果、私のせいで私の同期は皆辞めた。そんな汚名被った私を、私は肯定できない!
『その発言は面白みがある。ま、せいぜい頑張れ。あれだったら、俺の友達を頼れ。きっと、お前の力になってくれる』
「そうだね。そうする。少なくともニーニーよりかは優秀だからね。そうする」
『調子に乗るなよ妹』
「ハハハハ、ありがとうニーニー」
『どういたしまして』
そこで通話が切れる。
私は、鞄の中に入っているノートを引っ張りだすと白紙のページを開く。そして、そこに千聖達に責任を取らせる作戦を立てる。
言ってはなんだが、私はかなりの面倒くさがり屋だ。学校の授業だって人並み以上に聞こうなんて思わないし、親のお手伝いなんを進んだ回数も片手で数えるほどしかない。
でも……そんな私でも今、この時だけは妥協しちゃいけないって分かる。
私はトボトボと下校しようとしている女子生徒を大声で呼び止める。
「千聖!」
私の声に千聖は振り向く。
「あ、春奈どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ……はぁはぁ、久し振りの学校に来たと思ったら、これは何?」
私は、自分の携帯端末の画面を見せる。端末の画面には、チャットアプリ「ロイン」内で作った部活のグループが映し出されている。私は、グループ内に存在する猫のアイコンを指さす。猫のアイコンには一言「部活を辞めます」と書かれている。
そして、それを書き込んだのは他でもない、今私の目の前にいる鹿島高校演劇部のエース朝羽千聖なのだ。
「ねぇ、なんで⁉ 私達今度こそ、全国大会で優勝しようって言ったじゃん! もう、地区大会まで時間が無いのは分かってるでしょ!」
「……ごめんね」
「私が聞きたいのは、謝罪じゃない! 理由を教えてよ」
暫く、千聖は口を噤むがやがて、重く言葉を発する。
「春奈の……せいだよ──……」
♢♢♢
私は、自室の机に突っ伏す。押しの配信者の動画を端末で視聴するけど、正直全く頭に入らない。
チラリと時間を見ると、既に十時を回っている。ソロソロお風呂に入って寝る準備をしようと重たい体を動かすと、携帯がバイブする。見ると、電話がかかってきた。私はボタンを押す。
「何? ニーニー?」
電話をかけてきたのは、実兄である守野憂だった。
『おいおい、久し振りに声を聞いてやろうと電話かをけたというのに、なんだその覇気の無い声は。ニーニーは、お前をそんな風に育て覚えは無いぞ。我が妹』
「私も、ニーニーに育てられた覚えはない。声を聞きたかったならもう良いでしょ。切るよ」
私は通話終了のボタンを押すとするが、そこでニーニーから声が響く。
『まぁ待て妹よ。別に、ニーニーもお前を冷やかしに電話をかけた訳じゃない。ニーニーだってこの次期は部活が忙しいことは重々承知しているつもりだ』
ニーニーは演劇部の元OBだ。
「じゃ、なんでかけてきたの?」
『お前が、何か悩んでいると思ってな。愚痴ぐらい聞いてやろうと思ったのさ。が、どうやら愚痴以上に、何か悩みを抱えているようだな。せっかくなら聞くぞ』
「……いや、大丈夫。対したことじゃないから」
『……そうか。……そう言えば、ジャルの配信は見たか?』
私は首をかしげる。ジャルとは、私の好きな配信者だ。けど、何故その話題?
「いや、見てないけど」
『そうか。お前、やっぱ悩んでるだろう。しかも、かなり重め。大方、人間関係……部活の部員と何かあったな』
ニーニーの言葉に私の胸はドキリと跳ねる。
「何で分かったの!」
私は夜にも関わらずつい声を荒げてしまう。しかし、ニーニーの言葉は私の言葉と裏腹に冷めた物だった。
『別に、対したことじゃねーよ。お前が押しの配信をリアルタイムで見てないから、何かあるなと思ったが残りの奴は全部適当だ。けど、なるほどお前は部活の人間関係で悩んでるのか』
恐らく今、ニーニーは自分の端末の前でニヤリと不気味な笑みを浮べているんだろう。その顔を思い出しただけで、私の胸に悔しさがこみ上げる。
『さ、もう言い逃れは出来ない。さっさと全部吐いて楽になれ』
私は一瞬悩みを打ち明けることを躊躇ったが、ここで拒否すると次にニーニーがどんな罠を仕掛けてくるか分からないため、ここは潔く話すことを決めた。
「……実は、同じ学年の子が辞めた」
『ほぉ、それは大変だ。だが、別にそこまで珍しいことじゃないだろう。ニーニーの時だって半分が辞めたぜ』
「私以外」
私の言葉に、ニーニーは電話の向こうで笑い声を響かせる。
「はーはっはっ! マジか! 凄まじいな! 本番まで後一週間しかないだろう」
「そう。だからもう、部活めちゃくちゃ。あーもう! どうしよう!」
私は再度机に突っ伏す。
私と同じ学年の人は、私を含めて五人いた。そして、一週間前から次々と「部活」を辞めると伝えそれ以降部活に来なくなった。いや、聞いた話では何人かは学校にすら来てないらしい。
おかげで、空いた穴を埋めるために私を含めた多くの部員にしわ寄せがきている。現に本来、舞台に出るはずじゃ無かった私すら急遽舞台にでる羽目なった。
ニーニーは、ひとしきり笑った後、私に話し掛ける。
『で、別にそれで悩んでいるわけじゃないんだろう?』
「何のこと? それが私の今の悩みだよ」
『嘘つけ。中学校でドライアイスと言われたお前が、基本的に他人のことなんてどうだって良いと思っているお前が、たかが辞めた奴のことで頭を悩ませるか』
ニーニーは、私の内心を見たかのように次々と言い当てる。
『同学年の奴が辞めた。お前を悩ましている直接の理由はそれじゃない。話せ。話して、楽になれ』
……ニーニーには、かなわないなぁー。私は、私は心の中にすくう羞恥心とか、迷惑になるんじゃないのかとか、そういう気持ちをグッと乗り越えてニーニーに胸の内を明かす。
「その辞めた人たちの理由がさ、私のせいって言われたんだ」
私は今日、千聖が私に言った言葉を思い出す。
♢♢♢
「春奈の……せいだよ。いや、違うかな。春奈の凄さに耐えきれなかった私のせい、かな」
「どういうこと? 意味が分からない?」
私の言葉に、千聖は寂しそうに笑みを浮べる。
「ねぇ、春奈。気づいてる? 今の部活で誰が皆から信頼されてると思う?」
私は、千聖の脈絡のない突然の質問に頭を捻る。誰が、信頼されているかんなんて決まっている。
「千聖」
なんたって千聖は私と違って演劇部のエースだ。劇の配役だって三年の先輩達を押さえていつも主役。おまけに、私と違って性格は優しくて後輩からも慕われている。誰がどう見たって、今の演劇部の中心人物は千聖だ。
しかし、私の答えを千聖は否定する。
「違うよ。今、顧問の先生やコーチ、先輩や後輩から慕われているのは春奈。アナタだよ」
「はっ?」
私は千聖の言葉に意味が分からなかった。
千聖は、私の混乱によそにベラベラと言葉を並べる。
「私は、ただ人より少し演技が上手いだけ。その他のことはテンで駄目。知ってるでしょ。私、休日の練習になると最初から参加できない」
「それは、千聖が他の習い事もしてるからでしょ。しょうが無いよ! 誰も気にしてない!」
「違うの! 本当は、習い事のせいじゃないの……ただ、練習に行きたくないって気持ちになるの……休日になると、いつも体が重く感じてベッドから起きれない。朝ご飯を食べても、すぐにトイレに吐いちゃう……そんな……そんな弱い私が……本気で全国を狙ってるあの部活に……いて良い訳ないじゃん」
そう言い千聖は、先ほどよりも明るい自虐的な笑みを浮べる。
私は、頭が真っ白になった。どんな言葉をかけて良いか分からない。
「それに大丈夫だよ。私なんかがいなくても、演劇部はやっていける。春奈なら、きっと全国にいける。他の退部した皆も同じ気持ちだった。さっ、練習に戻ってよ。こんな、駄目な私なんか忘れてさ」
千聖は私に背を向ける。私は、暫くその場から動くことが出来なかった。
♢♢♢
「だからさ。私が悪いのかなって思って。でも、悪かったとしても、どうするべきか分からなくて」
何か言葉をかけるべきだったかも知れ無い。だけど、それがまた千聖を追い詰めるかも知れ無い。だけど──……そんな、答えの無い考えが私の頭を侵略する。気持ちが段々重くなる。
そんな、私の思考をニーニーは一言で一蹴する。
『馬鹿かお前は?』
「そうだよね。私、馬鹿だよね。千聖の気持ちも気づかなくて」
『違うそこじゃない。ニーニーがお前に馬鹿と言ってるのはお前が、その千聖とかいう女子の気持ちに気づかなかったところじゃない。お前が、何々するべきとかいうありもしない、正しさを基準に行動しようとしているところを言っているんだ! お前はいつから正しさの奴隷になった!』
ニーニーは自分の持論を捲し立てる。
『何をするべきか、なんて面白みの無い事を考えるな。言っておくが、お前がその千聖とかいう女に何を言おうと、何を言わなかろうと、多分結果は変わらなかったぞ』
その言葉に、私はそうかもしれないと思ってしまう。多分、仮に千聖にベストな言葉を投げかけたとしても千聖は私の前から去っただろう。
ただ、私はその現実を受入れたく無かっただけだということを認識させられる。
「じゃぁニーニーだったらどうするの?」
私は、ニーニーにアドバイスを願う。
『その女を、というか、辞めた奴全員どんなことをしてでも部活にこさせる。大会が終わるまで与えられた役を真っ当させる。脅迫してでも、拷問してでも。例え、それが原因で精神が崩壊しても、自殺をしようとしてでもだ。だって、そっちのほうが面白みがあるだろう』
私はニーニーにアドバイスを求めたことを後悔する。
高校を卒業し進学を機に一人暮らしを始め最近あえていなかったから忘れていたが、ニーニーは他よりもずれているんだった。
多分、今言った発言も冗談じゃなく本気でするだろう。というか、演劇部の時に似たようなことをしていたような……いや、さすがに拷問とかはしていなかっただろうけど……。
けれど、ニーニーと話して私の心は少しだけ上をむいた。
『で、お前は辞めた奴をどうしたい? というか、部活をどうしたい?』
ニーニーは、私に語りかける。不思議なことに、さっきまでは中々自分の本心を打ちあっけられなかったのに、今は簡単に打ち明けられる。
「無責任に辞めていった千聖達には、責任を取って貰う。ついでに、部活は全国に行く。そうじゃないと、私は、私がやってきたことを肯定できないから」
今まで休日を潰してまで練習に参加して、与えられた仕事は全てやった結果、私のせいで私の同期は皆辞めた。そんな汚名被った私を、私は肯定できない!
『その発言は面白みがある。ま、せいぜい頑張れ。あれだったら、俺の友達を頼れ。きっと、お前の力になってくれる』
「そうだね。そうする。少なくともニーニーよりかは優秀だからね。そうする」
『調子に乗るなよ妹』
「ハハハハ、ありがとうニーニー」
『どういたしまして』
そこで通話が切れる。
私は、鞄の中に入っているノートを引っ張りだすと白紙のページを開く。そして、そこに千聖達に責任を取らせる作戦を立てる。
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