上 下
76 / 95
2章 ダンジョンと刀

第76話 全てを見通す

しおりを挟む
 やつの右手に槍の神器がおさまった。

『嬢ちゃん!咲守!』

「はい!」
「はい!」

 オレたち2人は同時に走り出した。

 やつが槍の尻をドン!と地面に叩きつける。すると、地面から槍と同じくらいの細い岩が無数に飛び出してきた。

 オレたちはそれらを叩き折りながら前進する。スピードは緩めない。ガキン!双剣と薙刀がヤツの槍に届く。両手で持って防がれたが、ここまで接近すれば岩の槍は出せないだろう。

「らぁぁ!!」
「やぁぁ!!」

 連撃。ひたすらに、槍目掛けて攻撃を叩き込んだ。いや、胴体を、首を、狙っているつもりだった。しかし、吸い寄せられるように槍に防がれる。2人では手数が足りない。だけど、オレたちは2人じゃない。

「背中がガラ空きなのよ!」

 鈴が天井越しに後ろに回り込んで二丁拳銃を連射する。全弾、鎧武者の背中に命中した。
 ヤツは苦しそうに悶え、オレたちから距離を取るために大きく横に跳躍、槍を投げつけてくる。槍が地面に突き刺さり、岩の槍衾が地面から飛び出してきたことで、オレたちは前進する足を止められた。

 岩の槍を叩き折ったときには、ヤツの腕には、鎖鎌が握られていた。三本目の神器だ。

 左手で鎖を持ち、右手で鎌を持つ。右手を鎌のすぐ下の鎖に持ち替えて、頭の上で振り回し始めた。ヘリのプロペラのように高速回転する。

 鋭い風切り音。そして、鎌の周りには、緑色の光る刃がいくつも顕現しはじめた。

『風の刃だ!飛ばされる前に撃ち落とせ!』

「ラジャー!」

 オレは双剣を3セット惜しみなく投げつける。

 ゆあちゃんは矢を、鈴は光弾を撃ち込んだ。

 ヤツの風の刃はオレたちの攻撃を受け、霧散する。

 そこでヤツに動揺が見られる。自分の鎌の方を見て、なぜ対応されたのか不思議がっているようにも見えた。

 鎌が右手から飛んでくる。オレはそれを余裕で弾いた。鎖で引き寄せようとするが、そこに――

「させません!」

 ガキン!栞先輩の薙刀が鎖を打って地面に叩きつける。そして、そのまま抑え込んだ。
 鎌はヤツの手の中には戻らなかった。

 鎧武者が両手から鎖を離す。すかさず、両手をガラスケースにかざした。すると、両手の指の中に4本ずつ、計8本のクナイが収まった。

 忍者のように低く構え、オレたちとの距離を測る。

 そして、高速で腕を振って4本のクナイを投げつけてきた。クナイは、曲線を描くように左右からオレたちを狙う。

「ゆあちゃん!」

「わかってる!グランシールド!」

 グランシールドがオレたちを包み込むように展開。ヤツのクナイは、あっけなくグランシードに弾かれて壁や地面に突き刺さった。突き刺さった場所から、シューっと煙が上がる。溶けているのだ。

「毒でしょ。わかってるんだから。あんた、武士みたいな見た目のくせに姑息よね」

 ピク……

 鎧武者が鈴の言葉に反応する。

「……」

「なによ?プライドでも傷つけられたわけ?なら、正々堂々やりなさいよ!卑怯者!」

「……」

 鎧武者が残ったクナイを真横に投げつける。残りの4本が同時に壁に突き刺さり、壁を溶かしていた。

「なんだ?」

「鈴ちゃんの言葉で心を入れ替えた的な?」

『油断すんな。的場』

「は、はい」

「あとは、双剣だけですね」

「そのはずですが……なにか……」

『いや……違うな……おまえら、最後だ。次で終わる』

 ヤツは、ゆっくりと歩いて、最初に正座していた位置に移動した。ガラスケースの中にはまだ一本、神器が残っているのに、それを引き寄せようとはしない。

 ヤツが壁を叩くと、壁が反転し、一本の刀が現れた。

「師匠……」

『ああ、7本目だ』

 師匠が見たことがない、7つ目の神器が姿を現したのだ。

「……」

 オレたちは息を呑む。想定してない神器の登場に?いや、違う。

「本当に刀なんですけど、キモっ」

「いや、そこは、〈すごっ〉だろ?オレ、鳥肌立ってるもん」

「わ、ホントだ。りっくん、荻堂先生のこと好きすぎでしょ」

 ゆあちゃんがオレの腕を見て、変なことを言い出す。

「好きってか、もう普通に憧れるよ。だって、見てない武器の種類まで当てちゃうんだぜ?あの人」

「そうですね。〈あいつの身のこなし、あれは剣士のそれだ〉でしたっけ?内心、なにこの人カッコいいって思ってました」

 栞先輩がクスリと笑う。

「笑ってて草。ま、あいつの予想が当たったのは癪だけど、あれなら、いけそうね」

「ああ!」

『おまえら、最後は必殺の一撃がくる。咲守、前に出ろ』

「はい!」

 オレは言われた通り、みんなの前に出て構える。

 ヤツもゆっくりと近づいてきた。7メートル、6メートル、ぴたりと止まる。そして腰を低く落としてゆく。

『咲守』

「はい」

『集中しろ。俺はもう黙る』

「わかりました」

 全身に力を込め、精神を集中させる。修行中の師匠の言葉を思い出していた。

〔あのクソは、剣士だ。それも一流。油断したら一撃で胴を斬り飛ばされる〕

 油断してません。ジッとヤツをみる。ヤツは腰を落としきり、刀を左手に持ち替えた。

〔ヤツが最後に放つ一撃、それは、居合いだ〕

 なんでわかるのか。本当に居合いがくるのだろうか。
 ヤツは、左手の刀を腰あたりで固定し、やや後方に腰をひねる。右足をジリジリと前に出し、右手を刀に添えるように置いた。

 居合いそのものの構えだった。

 知っている。それは、何度も、何度も師匠とシミュレーションして、何度も受けてきた技だ。

〔咲守、居合いがきたら、ヤツが動く数コンマ一秒前に飛び出せ、数コンマだ。早すぎてもいけねー。警戒されてチャンスが無くなる。必ず、ギリギリで動け。そして、止めろ〕

「ふぅぅぅ……」

 深呼吸して、息を止める。

 ピリピリと空気が凍りつき、なんの音も聞こえなくなった。

 ピク……ヤツの指が動く。違う。まだだ。必殺の一撃を放つ瞬間、そこには全身から発せられる特有の匂いがある。師匠にさんざん叩き込まれただろ。見誤るな。

 ここだ!!
 ヤツの殺意の匂いを感じ取り、それを合図に、思い切り飛び出した。

 ヤツとの距離が縮まる。刀はまだ抜ききれていない。

〔なぁ、咲守、あいつの神器、それぞれ属性が違うよな?〕

〔はい〕

〔最後の属性、なんだと思う?〕

〔んー?〕

〔炎だ〕

 ヤツが抜き切った鞘からは、炎が吹き出していた。オレの胴体を焼き切るつもりで一閃を放ったのだろう。

 オレたちは、お互いに前進した真ん中あたりでぶつかり、オレはヤツの刀を受け止めていた。

 よこなぎの一閃を、双剣で挟むように受け止め、そして左手を剣から離し、ヤツの手首を掴んだ。

 炎が両手を焼こうと燃え上がり、右頬が熱い。でも、全部、師匠の想定通りだった。

「捕まえた」

『やれ!嬢ちゃん!』

「はい!」

 栞先輩が後ろから飛び込んでくる。ヤツが離れようと足に力を入れるが離さない。

「諦めろ!おまえの負けだ!」

 オレは右手に残った剣をやつの腹に突き刺す。そして――

「やぁぁ!!」

 ズバッ!栞先輩の薙刀がやつの首をとらえた。

 ガコン!鈍い音がする。兜が胴体から剥がれ落ちたのだ。ヤツの兜は二本の角があるため転がらない。胴体も動かない。

『消えるまで油断すんなよ。おまえら』

「はい……」

 そのまま、しばらく待つ。刀から発せられていた炎が徐々に弱くなり、消えていく。

『武士なら、必殺の一撃を止められて、首を落とされたら終わりだろ』

 師匠がぼそりと呟く。すると、ヤツの体が、サラサラと光の粒になり始めた。

「……やった!やったよ!鈴ちゃん!」

「ちょっと、抱きつかないで」

「いいじゃんいいじゃん!」

 オレはまだ緊張を解かない。この距離で何かされたら死ぬからだ。

 ジッと警戒していると、刺していた腹から抵抗がなくなり、掴んでいた腕も光になって、胴体が消えた。

 兜を見る。鬼の仮面と目があったような気がしたが、そいつも、おとなしく光の粒となって消えていった。

「師匠……」

『ああ、おまえらの勝ちだ』

「ふぅぅ……よっし!!」

 オレは我慢してたガッツポーズを取る。

「やりましたね!」

 すぐに栞先輩が近づいてきて、ハイタッチを求められた。

「はい!」

 パチン!とすぐに答える。

「ゆあもゆあも!ほら鈴ちゃんも!」

「はぁ……はいはい」

 パチン!パチン!2人ともハイタッチをキメた。

「よっしゃー!!勝ったー!!」

 オレはもう一度雄叫びをあげる。今度は遠慮しない。全力で腹から声を出した。

「うっさ」

「あはは!テンション上がるよね!」

「すごいです!本当に陸人くんは!あれを見切るなんて!」

 オレたちは興奮冷めやらぬ中、しばらくワイワイと騒ぎ続ける。

 今日この日、また、新たなダンジョンが攻略されたのだった。



=============
【あとがき】
いつも本作を読んでいただきありがとうございます♪

長い準備期間の末、ついに池袋駅ダンジョンのボスを討伐することができた陸人たち。最後の最後まで荻堂の作戦がカチっとハマったところは流石と言わざるを得ませんね。

どうだったでしょうか?楽しんでもらえたでしょうか?

「面白い!」と思っていただけましたら、〈ファンタジー小説大賞〉の投票にご協力いただけないでしょうか!

タイトルの近くに投票ボタンがあるので、そちらからポチリとしていただけると嬉しいですm(__)m

「応援してやってもいいぞ」という方は、なにとぞよろしくお願いしますm(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...