上 下
47 / 95
2章 ダンジョンと刀

第47話 生徒会長の演技

しおりを挟む
 オレVS生徒会長の戦いが終わり、大歓声の中、訓練場から退場したオレたちは、自分たちの教室に戻って一息ついていた。着替えも終わっていて、「そろそろ帰ろうか」と話していたら、教室のドアが開く。

「先ほどは、ほんっとうに!すみませんでした!」

 生徒会長の椿先輩だった。ドアを開けたところで立ち止まり、ひたすらにペコペコと頭を下げている。後ろには鳴神先輩も控えていて、クスクスと笑っている。

「あんたに謝ってるんじゃない?」

 ポカーンと見ていたら、鈴に肘で小突かれたので、前に出る。

「えーっと?何がすみません、なんですか?」

「演技に興が乗ってしまったとは言え!あのような態度を!本当にすみませんでした!」

「演技?」

 先ほどの戦いの前のことを思い出す。クソガキの鈴に煽られてキレていたように見えたけど、あれは演技だったのだろうか?

「演技ってことは、ホントは怒ってなかったってこと?なのかな?りっくん」

「さぁ?」

「もちろんです!」

「んー?そうかなー?私の目には、双葉さんの発言にイラついてたように見えたけど?」

「栞は黙ってなさい!」

「はぁーい。ふふ……」

 鳴神先輩は、引き続きクスクスと笑っていた。

「あー、えっと、つまり演技だったとして、なんであんなことを?」

「ええ、それについて説明させてもらいたくて伺った次第です。お時間をいただけるでしょうか?」

「はい。それはもちろん」

 とりあえず、2人に椅子を用意し座ってもらってから、オレたち3人も、2人に向かい合うように腰かけた。

「それで?〈私が最強です生徒会長さん〉お話をどうぞ?」

 鈴の煽りに、また生徒会長の眉がひくつく。しかし、今度はキレずに冷静に話し出してくれた。

「ふぅー……そうですね。まず、改めて謝罪を。失礼な態度をとってしまい、すみませんでした。それに突然の手合わせに応じていただき、ありがとうございます」

 椿先輩と鳴神先輩が揃って頭を下げる。

「先ほど、咲守くんに手合わせをしてもらったのは、ここにいる鳴神栞を咲守くんのパーティに入れてもらいたく、そのための前準備と理解していただければと思います」

「鳴神先輩を?前準備?」

 鳴神先輩の方を見ると、温和そうな顔でニコリと微笑まれた。大人の女性という感じの人だ。桜先生とはまた異なる包容力をもった綺麗な人だと思う。

「りっくん?むー……前準備ってなんですか?」

「栞は本来、私のパーティの一員です。その1人が突然、咲守くんのパーティに入ったとなれば、生徒会で揉め事があったんじゃないか、と生徒たちに勘繰られることでしょう」

「ふむふむ」

「そうなると、学生の間に混乱が生じますし、学園全体の結束力低下にも繋がります」

「ほうほう?」

「なので、〈力を認めた後輩に、自分の仲間を託した〉という形を取りたかったのです。ですので、最後の握手は、私が咲守くんを認めたというのを分かり易くアピールするためのパフォーマンスでもあったのです」

「なるほど?」

「話はわかったわ。でも、そういうことなら、あなたたちがまとめてパーティに加入してくれればいいじゃない?もしくは、こっちが入るってのもありかもね?」

 たしかにそうだ。いまいち話の流れが見えてこない。鳴神先輩だけがコッチのパーティに入る理由はなんだ?

「それは……今の生徒会では難しいことなのです……お恥ずかしい話ですが、今の生徒会メンバーは、私と栞、それと副会長たち3人のグループでちょっと揉めていまして……」

「つまり、あなたたちは陸人のパーティに入ることに賛成だけど、他の3人は反対していると?」

「その通りです……」

「なんで揉めてるのか、教えてもらえますか?」

「それは、学園の運営方針に大きな違いがあるからです。私としては、〈ダンジョンを攻略することよりも学生の命を優先したい〉と思っているのですが、副会長の派閥は、〈何人か犠牲が出てもいいから、全校生徒を投入してでもダンジョンを攻略しよう〉という考えなのです」

「それはまた、絶対に分かり合えない方針ね」

「ええ……副会長派閥は、あまりに過激な考えですので、私には、彼らから生徒たちを守る責任があるのです」

「なるほどね。つまり、副会長派のやつらが好き勝手しないように、生徒会長のあなたが目を光らせておく必要がある。だから、鳴神先輩だけはコッチに譲ってくれるってことでいいかしら?」

「概ね、その理解でよろしいかと」

「わかったわ。まぁ、いいんじゃない?鳴神先輩も強いって聞いてるし、体力測定の結果がすごかったのは、わたしたちも見ているわ。陸人とゆあはどう思う?」

「んー、オレは良いと思うよ」

「ゆあも賛成。でも、揉めごとが片付いたら生徒会長さんも仲間になって欲しいよね。さっきの氷魔法すごかったもん!」

「それな!それにめっちゃカッコよかった!魔法みたいで!てか!魔法そのものだった!」

 オレはさっきの光景を思い出して、また興奮してしまった。あれはマジでカッコよかった。

「ありがとうございます。生徒会の問題を片付けたときには是非!」

「そのときは歓迎しますね!」

 オレと椿先輩が微笑み合っていると、

「ふふ、私も歓迎してもらえるように頑張りますね」

 なんて、鳴神先輩が言ってクスクスと笑う。

「あ!そういうつもりじゃ!すみませんでした!鳴神先輩のことも大歓迎です!」

 鳴神先輩を雑に扱っていると気づき、頭を下げる。

「いえいえ、こちらが入れて欲しいとお願いしてるので、そんなに畏まらないでください」

「わ、わかりました。ところで、鳴神先輩自身は、椿先輩の考えとは違うんですか?」

 さっきの話だと、生徒会長の方針は〈ダンジョン攻略よりも命優先〉だ。オレたちも死ぬ気は毛頭ないが、命懸けで戦っているという意味では方針とは異なっている。

「それは……基本的には、つばめちゃんと同じ考えです。いたずらに命をかけるべきではないと思っています」

「じゃあなんで……」

「私自身に戦う理由があるんです。私も咲守くんたちと同じだから……」

「同じ?」

「私も、東京駅ダンジョンに家族が囚われています」

「先輩も……」

 それを聞いて納得した。鳴神先輩は、オレたちの記者会見を見てオレたちの目的を知り、パーティへの加入を決めてくれたんだ。
 でも、さっき説明してもらった生徒会でのいざこざが理由で、すぐに申し出ることはできず、今に至る、ということだろう。

「わかりました。それでは、鳴神先輩のパーティへの加入、喜んで歓迎します。みんなもいいよな?」

「いいと思うわよ」

「ゆあもいいと思う」

「ありがと。それじゃあ最後に、桜先生の賛成を貰ったら正式に鳴神先輩を歓迎させていただきます」

「わかりました。その際はよろしくお願いしますね」

「はい。こちらこそ」

 ということで、今日のところは2人と連絡先を交換するにとどめ、明日改めて桜先生に相談することにした。
 翌日、桜先生が反対するはずもなく、鳴神先輩のパーティ加入が決まる。

 こうして、心強い仲間がまた1人、オレたちのパーティに加わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...