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1章 ダンジョンと鍵

第28話 VSグランタイタン

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 ゴーレムとの初戦闘を済ましてから、オレたちはこの一年で作り上げた地図通りにダンジョンを進み、4回、ゴーレムに遭遇した。そのうち、2回は戦わずにやり過ごし、2回は余裕で倒して先に進んだ。

 そして、ボス部屋の前までやってくる。オレたちの目の前には、10メートルはありそうな巨大な石の扉がそびえ立っていた。扉の大きさに合わせるように天井もとても高く、ここが特別な場所であることは誰の目にも明らかだった。

 巨人が作ったのかと思えるほど巨大な扉には、読めないルーン文字が刻まれていて、扉の枠がほんわりと白く発光している。そして、その扉には、人間が触れれる高さに鍵穴のようなマークが刻まれているのだが、そこに鍵穴は開いていない。
 扉の前には、魔法陣のようなものが、水を流す側溝のように地面に深く彫り込まれていた。

「何度も来たけど、この先に進むのははじめてね」

「ああ、ボスの情報を手に入れるのに時間がかかったからな」

「だね。りっくんのお父さんには感謝しないと」

「だな」

 目白駅ダンジョンは、攻略作戦が何回も実行されたダンジョンだ。当然、ボスと戦っているパーティが複数存在する。しかし、その戦いの情報は厳重に秘匿されていた。だが、オレのお父さんは防衛大臣だ。ダンジョン攻略の担当官に話を聞いて、オレたちにこっそり教えてくれたのだ。ボスの特徴、そして、ボス部屋への入り方を。

「よし、準備しよう」

 2人に声をかけてから、オレたちは周りを探索し、4体のゴーレムをボス部屋の前まで誘導してきた。魔法陣の上まで誘導し、ゆあちゃんが2体、オレと鈴が1体ずつ、そいつらを倒す。
 すると、いつもは光の粒となって消えるそいつらは、身体を消すことはせず、ボロボロと土となって崩れていった。崩れきった後、その土が金色に輝き出し、魔法陣に流れ込んでいく。
 しばらくしたら、魔法陣全てに金色の土が行き渡り、魔法陣が光り輝いた。眩しすぎて目を開けてられないほどの光量だ。

「ちょっと!これホントに大丈夫なんでしょうね!?」

「そのはずだけど!」

「ダメだったら、りっくんのお父さん呪うからね!」

 ゆあちゃんが物騒なことを言い終わる前に光が収束していく。そして、魔法陣の真ん中に金色の棒が直立していた。さっきまで全体に広がっていた金の土は無くなり、あの、真ん中の棒に集結したのかと想像させる。

「あれが?」

「ああ、あれが鍵になるらしい」

 オレは金の棒に近づき、それを引き抜く。あっさりと抜けたそいつは、剣のようにデカい鍵だった。

「これをあの扉にさすと開くらしい」

「ホントに鍵になるなんて……」

「ゆあ、作戦通りやるだけよ。深呼吸して」

「う、うん……すぅはぁ、すぅはぁ……よし!ゆあはいつでも大丈夫!」

「鈴もいいな?」

「ええ」

 オレたちは、心の準備を整えてから、巨大な扉の前に立つ。2人の顔を見て、オレは、穴がない鍵穴に大きな鍵の先端を触れさせた。
 すると、扉の鍵穴が光り出し、鍵が吸い込まれていく。半分くらい差し込めたところで、ガチリ、と右に回したら動かなくなった。
 鍵が差し込まれた場所から光が広がり、扉全体のルーン文字が次々に光り輝いていく。巨大な扉のすべての文字が光ったあと、ゴゴゴゴゴ、と地響きが始まって、扉の真ん中に亀裂が入る。

「りっくん、もう下がった方がいいかも」

「ああ……」

 オレは鍵から手を離し、数歩後ろに下がった。
 扉が奥に向けて、ゆっくりと開きだす。観音開きになった石の扉が、大きな地響きを立てて動いていった。

 その先に広がっていたのは、ダンジョンとは思えないほど、美しい空間だった。地面には緑が広がり、ところどころ花々が咲いている。天井は、無い。青い空が広がり、小鳥が飛んでいた。

 周囲を見渡すと、円形にレンガの壁で囲われているのがわかる。西洋の城にある円柱型の塔、その屋上にいるような景色ではあるが、野球場ほど広いので、そんな場所ではないと感じられる。

 そして、美しい景色の中に、異形が居座っていた。

 円の中心、そこに向かって小鳥が飛んでいき、木の枝に止まるように着地したのは、ゴーレムの肩の上だった。巨大な黄土色のゴーレムが座っているのだ。あぐらをかいているのにバカでかい。10メートルはあると思う。だって、さっき開いた扉よりも巨大だから。

「あれが、グランタイタン……」

 鈴が息を呑む。オレとゆあちゃんも同じような顔をしているのだろう。

「みたいだな……」

「聞いてはいたけど、大きすぎない……」

 オレたちは今からアイツと戦う。右手が震えるが、左手で抑えて、恐怖自身も抑え込んだ。

「大丈夫!作戦通りやろう!」

「うん!」

「了解!」

 オレが双剣を構えて前に出る。2人はサポートだ。

 巨人がそれに応えるように、ゆっくりと動き出す。肩に留まっていた小鳥たちが飛び立ち、散り散りになっていった。

 グランタイタンが膝を地面につけ、立ち上がった。デカい。20メートル近いのではと思ってしまう。データでは15メートルだったはずだ。

「大きすぎだよ……」

「大丈夫!ゆあちゃんには近づけさせない!扉の近くにいて!いつでも退避できるように!」

「わかった!りっくんも気をつけて!」

「任せろ!鈴!どうだ!?」

 オレたちには秘策があった。それが鈴のスキルだ。

「ええ!確認した!ある!あるわ!」

 〈グランタイタン〉、今まで多くのパーティが挑んできたこいつには、どうにもならない問題があるとされてきた。
 あまりの巨体。それはいい。頑強な身体。それも問題ではない。動きもそこまで早くなく、ボス部屋までの道もボス部屋への入り方も判明している。

 では、なぜ倒されていないのか?

 それは、コイツが〈絶対に倒せない〉〈どれだけ攻撃しても倒れない〉と言われているからだ。過去の記録では、20人で1時間以上戦ったが、やつの見た目や動きに変化はなかった、と記録されている。

 でも、それがもし、あまりにHPが多いから、変化がないように見えただけなら?ちゃんとHPは削られていたのに、挑戦者の体力切れで倒せないと判断したなら?
 オレたちは、そう、仮説を立てた。そして、その仮説を確認する方法をオレたちは持っている。

「ある!あいつにもHPバーが!バカみたいに長いHPバーが5本!」

「さすがだ!鈴!おまえ最高だよ!」

 鈴の《分析》スキルだった。

 鈴の《分析》スキルの効果は、〈敵のHPを確認できる〉。それだけだ。それだけだが、HPを確認できるということは、いつ倒せるかわかるということだ。

「まずはオレが斬り込む!HPの減り具合を観測してくれ!」

「任せなさい!絶対死なないでよね!」

「当たり前だ!よし!いくぞ!」

 オレは双剣を持った手で腿を叩いてから走り出した。怯えるな。これまで、長い期間準備してきたじゃないか!

 まずは、いつものように2本まとめて双剣を投げる。ブーメランのように回転しながら、巨人の足元に命中した。ガキンッ!と鈍い音がして返ってくる。その双剣2本を空中でキャッチして、そのままの勢いで同じ場所に切り込んだ。やつの足元には小さい傷がつくだけで効いてるようには見えない。

 上空から巨大な手が迫ってくるので、それを避けて距離を取る。

「鈴!どうだ!効いてるか!?」

 ここからはデバイスでの通信だ。右耳につけたデバイスから鈴の声が聞こえてくる。

「減ってる!少しだけど!ミリだけど!HPバーは減ってるわ!」

「ってことは!」

「コイツは倒せる!」

 ゾワっと鳥肌が立つ。オレたちの仮説が確信になった瞬間だった。

「よし!今日ここで!オレたちがこのクソ巨人を倒すんだ!ゆあちゃん!鈴!攻撃開始!」

「うん!いっくよー!」
「当たり前じゃない!」
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