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2章 呪われた炎

第35話 王族の兄弟たちについて

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 バン!勢いよく玄関の扉が開く。

「わたくしが来てあげましたわよ!」

「いらっしゃいピャーねぇ」

 自宅の玄関にて待っていたら、勢いよく金髪縦ロールが飛び込んできたので、僕は靴を履いて立ち上がった。

「あら!ジュナ!玄関でお姉様を待ってるとはいい心掛けですわ!褒めてあげましてよ!」

 ぐしぐし。ピャーねぇは嬉しそうに僕の頭を撫で回す。

「ははは、今日はお出かけしようと思って待ってたんだ」

「お出かけですの?どこにいくのかしら?」

「とりあえず王城の中をお散歩とかどうでしょう?お姉様」

 これは、仲間探しの一環でもある。散歩がてら、いい人がいないか探しつつ、ピャーねぇからも目を離さない。一石二鳥だ。

「あらー!お姉様だなんて!いいですわよー!素直になったジュナにお姉様をエスコートする権利を与えますわー!」

「ありがと、ピャーねぇ、じゃ、いこっか」

「あっ!ちょっと!お姉様!お姉様でしてよ!」

「はいはい」

 ということで、僕はピャーねぇと2人で王城の中を散歩することにした。



 散歩といっても、王城の中は小さな町くらいの大きさがある。全部見て回ろうと思うと、とてもじゃないが1日じゃ時間が足りない。とりあえず、王子や王女たちの屋敷がある方向に向かってみることにした。

 ギフトキー持ちのまともな王族がいるかは謎ではあるが、国王には僕を含めて20人くらいの子どもがいるのだから、その中に良い人がいる可能性は捨てきれない。まずは、遠目からでも王子、王女たちのことを観察して、人柄を確認したいと思う。

「手を繋いでさしあげてもよろしくってよ!」

「うーん……ん?そうだね、繋ごうか」

 ぎゅ。

「あら……」

 僕は考えごとをしながらピャーねぇの手を握って、また歩き出す。

 もし、ギフトキー持ちの王族が仲間になってくれれば、ピャーねぇに組織のことを明かさずに戦力の増強が容易になるのだが、どうだろうか。それが理想だ。ピャーねぇを国盗りに巻き込むのは気が引けるし、反対されると思う。それか、やっぱり、ピャーねぇに組織のことを打ち明けるべきなのか?

「うーん……」

 僕は、何度も考えたことを繰り返し考えて、頭を悩ませていた。そんな僕の斜め後ろから、「今日のジュナは男らしいですわ……」なんていう、しおらしい声が聞こえてきた。

「へ?」

 振り返ると、僕に握られた手を見つめながら、赤い顔でモジモジしているピャーねぇがいた。

「……もしかして、恥ずかしかった?」

「そそ!そんなことありませんわー!平気ですわ!」

 赤い顔をしているのに、キッと鋭い目になり、わかりやすく照れ隠しをするピャーねぇ。

「ふふ……」
 可愛くってつい笑ってしまった。

「なに笑ってますの!怒りますわよ!」

「ごめんなさい、お姉様」

「あら……いい心がけではありませんこと?その調子でお姉様とお呼びなさい」

「へいへい、ピャーおねぇさまぁ」

「あっ!こら!この子ったらもう!」

 なんだか僕の方も照れくさくなって、可愛い姉のことをからかいながら、散歩を続けることにした。



「ピャーおねぇさまって、王族の兄弟と何人話したことある?」

「……」

「あれ?ピャーおねぇさま?」

「いつもの呼び方でいいですわ」

 僕がずっとふざけていると、ピャーねぇはムスっとして呼び方の修正を求めてきた。

「じゃ、ピャーねぇ。ピャーねぇって、クワトゥルのバカ以外だと誰と話したことがある?」

「お口が悪くてよ。そうですわね、兄弟の皆さんとは、軽く挨拶した程度の方がほとんどですわ。なぜそのような?……あ!仲良しなのはジュナだけでしてよ!ふふん!」

「そっかぁ」

「あら?」

 ピャーねぇは、なにか期待はずれといった顔をする。

「(小声)嫉妬かと思ったのに……違ったのかしら……」

「何か言った?」

「いいえ、なんでもなくってよ。それで、どうして兄弟のことを聞いたんですの?」

「いや、なんとなく。僕とピャーねぇ以外にまとも、というか良心がある王族って何人いるのかなって気になって」

「な、なんて上から目線な子どもなんですの……」

「ピャーねぇも割とそうだけどね。だってさ、この前のギフト授与式のときにも思ったけど、第二王子も、結構アレな感じだったよね。ちょっとトラブったら、すぐにクワトゥルのこと見捨てたし」

「アレって……まぁ、そうですわね……」

「てことは、第一、第三もSランクだし、たぶんおんなじような人だと仮定して、他の人はどうなのかなって。優しい人とか、常識がある人っていないのかな?」

「そうですわねぇ。たしかに、Sランクのギフトキー持ちの方には、あまりいい噂は……聞きませんわね……」

 思い出すようにしてから、予想通りの回答をするピャーねぇ。

「だよねぇ。そういえば、結局Sランクって、国王と、第一、第二、第三以外だと誰がいるんだっけ?」

「他にはいなかったと思いますわよ?」

「そうなんだ?」

「ええ、Sランクの方が生まれたら噂になると思いますし」

「そっかぁ。でもさ、小さい頃にやったスキル鑑定式で欠席してた子いたよね?その子とかは?」

「さぁ?きっと後日鑑定してBかCだったのではなくって?Sなら少なくとも耳には入りますわよ」

「そっかぁ。ま、あんまり高ランクだと傲慢になりそうだから、Cくらいの人の方がまともな可能性が高いかな」

「ジュナ……あなたほんとに生意気なガキですわね……」

「ピャーねぇも割とそうだよ」

 僕たちが軽口を叩きながら散歩を続けていると、前方に何人かの集団がざわざわと話し合っているのを見つけた。その人たちは二手に分かれていて、それぞれ偉い人を守るような布陣で相対しているように見えた。話し合い、というよりも、言い争っているようにも見える。

「なんだろう?揉め事かな?」

「でしたら、わたくしが仲裁してあげますわ!」

「待ちなさい」

 グイ。走り出しそうになるピャーねぇをステイさせる。手を繋いでいるので簡単に止めることができた。

「なんですの?」

「あれ、明らかに身分が高そう。というか、たぶん王族、王城内だし」

「たしかにそうかもですわね?で、なんで止めるんですの?」

「ピャーねぇが行ったらもっと揉めるでしょ。止めるにしても、もうちょっと様子を見てからにしよう」

「高貴なわたくしが出ていけばすぐ解決しますのに。めんどうですわねー……」

 この子は……本気でそう思ってるのが困ったものだ。
 僕はピャーねぇの手を引いて、植栽の裏のベンチに腰掛けて揉めごとの会話を盗み聞きすることにした。
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