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2章 呪われた炎
第34話 スラム街での事件
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-時は現代に戻る-
これが2人との出会いだった。スラム街のこの小屋を見たら、つい思い出してしまった。あのときは入り口に布が被せられていたが、今はそれはなくて、小屋の中は誰も使っていないようだった。
「ディセは、ジュナ様に拾われて幸せです……」
隣のディセが感慨深そうにつぶやく。
「セッテも!セッテもジュナ様だいすき!」
「ありがと、2人とも。僕もあのとき2人に会えたことが本当に嬉しいよ。僕のメイドになってくれて、ありがとう」
僕の言葉に2人が笑顔を見せてくれて、そのままスラム街の探索を続けた。
あのとき、DとCなんていう記号で呼ばれている2人に名前をつけることになって、こんなに慕ってくれるようになるなんて、ぜんぜん想像していなかった。
今思えば、あのときは、ただただ助けたい、それだけだったと思う。お互いを支え合う2人をとても尊いと感じたからだ。そして、長い間一緒に過ごすうちに2人のことをもっと尊敬するようになった。
しっかり者のディセは一生懸命家事を覚えてくれたし、無邪気なセッテはいつも家の中を明るく、楽しいものにしてくれた。
今では2人とも大切な家族だ。この2人のこともずっと守っていきたい。そう思いながら、2人の後についてスラム街の探索を再開した。
♢
「やっぱり、いい人はなかなか見つかりませんね」
「そうだね」
僕たちはスラム街の入り口付近まで戻ってきて、今日の成果について話し合う。
「今日は一旦戻ろうか」
「帰ったらセッテがご飯作るね!」
「ありがとう、頼むよ」
僕たちが帰路につこうとすると、ざわざわと人だかりができていることに気づく。
「なんだろう?」
「行ってみますか?ジュナ様」
「そうだね、一応確認しようか」
2人に目配せしてから人だかりに近づいて行く。
「またやられたか……」
「今月で何人目だ……」
「知らねーよ、3人だか、4人だか……」
数十人が集まって、そんな会話が聞こえてくる。その人だかりの中心には、
「っ!?」
「これは……」
「ひどい……」
血溜まりが広がっていた。みすぼらしい服を着たガリガリの中年男が背中を斬られて、絶命していたのだ。恐怖に歪んだ顔で大きく口を開けている。相当な痛みと、恐怖だったんだろう……
「くそ、俺たちがスラムの人間だからって……」
「ゴミみたいに扱いやがって……」
「はぁ……死ぬときくらい自分で選びたいもんだ……」
諦めにも似たセリフが聞こえてくる。
僕たちは、目立たないように、その場から退散した。
♢
「スラム街に近づくのは、しばらく禁止にしようと思う」
僕は自宅のリビングにて、僕の従者たちに対して、そう宣言した。
「禁止、ですか。やはり、あの人斬り事件を警戒してでしょうか?」
「うん、そうだね。みんなを危険にさらすことはできない。それに、スラム街での仲間探しは難しそうだったから、しばらく行く必要もないだろうしね」
「わかりました。2人もいいですね?」
「はい、ディセも賛成です」
「セッテもわかったよ!」
「しかしご主人様、そうしますと、どうやって人材を探しましょうか?」
「そうだなぁ~。この前あんまり調査できなかった騎士団の人たちを探ってみるか。それか、もっと高い理想を追ってみるか……」
「高い理想、というのは?」
「ギフトキー持ちの王族を仲間に引き入れる、とかね」
僕はあえておどけた言い方をしてみるが、
「それは……かなり難しそうですね」
予想通り、カリンからは難しい表情が返ってきた。
「うん、だよね~。わかってはいるんだけど、ピャーねぇにスキルの授与を気軽に頼めない以上、ギフトキーを自由に使える環境は絶対必要だと思うし、ある程度従者がついてる王族を引き込めれば一気に戦力も増えるかな、と思ったんだよね」
「おっしゃることはわかります。しかしその場合、一度に多くの人間が増えて、裏切りなどのリスクも増えるかと」
カリンの言う通りだと僕も思う。そういったリスクは組織増強にはつきものだろう。
「ホントは1人ずつ面接して、いい人にだけ仲間になってもらいたいよね」
「はい、それがいいかと。まだ小さい組織ですので、初期メンバーは厳選したいと私は考えます。きっと、今いる人たちが幹部のような役割を担うことになると思いますので」
「幹部……カッコいい!セッテも幹部になれるかな!?」
真面目な話にいまいちついてこれてなかったセッテが、ワクワクするワードに反応して割り込んできた。僕は、つい笑顔になって、双子メイドの方を見る。
「うーん、そうだね。お菓子作り担当の幹部でどうかな?」
「えー?なんか違う気がする……」
さすがに誤魔化せなかったらしい、子ども扱いし過ぎたようだ。
「ディセは、幹部、頑張れると思います。セッテは置いといて」
「おねえちゃんひどい!」
「ははは。まぁ、仲間探しは焦らずに続けようか。僕の方は王城の中をあらためて探ってみるよ」
双子メイドのおかげでほんわかした空気になったので、今日の会議は終わり、ピャーねぇがくるのを待つことにした。
これが2人との出会いだった。スラム街のこの小屋を見たら、つい思い出してしまった。あのときは入り口に布が被せられていたが、今はそれはなくて、小屋の中は誰も使っていないようだった。
「ディセは、ジュナ様に拾われて幸せです……」
隣のディセが感慨深そうにつぶやく。
「セッテも!セッテもジュナ様だいすき!」
「ありがと、2人とも。僕もあのとき2人に会えたことが本当に嬉しいよ。僕のメイドになってくれて、ありがとう」
僕の言葉に2人が笑顔を見せてくれて、そのままスラム街の探索を続けた。
あのとき、DとCなんていう記号で呼ばれている2人に名前をつけることになって、こんなに慕ってくれるようになるなんて、ぜんぜん想像していなかった。
今思えば、あのときは、ただただ助けたい、それだけだったと思う。お互いを支え合う2人をとても尊いと感じたからだ。そして、長い間一緒に過ごすうちに2人のことをもっと尊敬するようになった。
しっかり者のディセは一生懸命家事を覚えてくれたし、無邪気なセッテはいつも家の中を明るく、楽しいものにしてくれた。
今では2人とも大切な家族だ。この2人のこともずっと守っていきたい。そう思いながら、2人の後についてスラム街の探索を再開した。
♢
「やっぱり、いい人はなかなか見つかりませんね」
「そうだね」
僕たちはスラム街の入り口付近まで戻ってきて、今日の成果について話し合う。
「今日は一旦戻ろうか」
「帰ったらセッテがご飯作るね!」
「ありがとう、頼むよ」
僕たちが帰路につこうとすると、ざわざわと人だかりができていることに気づく。
「なんだろう?」
「行ってみますか?ジュナ様」
「そうだね、一応確認しようか」
2人に目配せしてから人だかりに近づいて行く。
「またやられたか……」
「今月で何人目だ……」
「知らねーよ、3人だか、4人だか……」
数十人が集まって、そんな会話が聞こえてくる。その人だかりの中心には、
「っ!?」
「これは……」
「ひどい……」
血溜まりが広がっていた。みすぼらしい服を着たガリガリの中年男が背中を斬られて、絶命していたのだ。恐怖に歪んだ顔で大きく口を開けている。相当な痛みと、恐怖だったんだろう……
「くそ、俺たちがスラムの人間だからって……」
「ゴミみたいに扱いやがって……」
「はぁ……死ぬときくらい自分で選びたいもんだ……」
諦めにも似たセリフが聞こえてくる。
僕たちは、目立たないように、その場から退散した。
♢
「スラム街に近づくのは、しばらく禁止にしようと思う」
僕は自宅のリビングにて、僕の従者たちに対して、そう宣言した。
「禁止、ですか。やはり、あの人斬り事件を警戒してでしょうか?」
「うん、そうだね。みんなを危険にさらすことはできない。それに、スラム街での仲間探しは難しそうだったから、しばらく行く必要もないだろうしね」
「わかりました。2人もいいですね?」
「はい、ディセも賛成です」
「セッテもわかったよ!」
「しかしご主人様、そうしますと、どうやって人材を探しましょうか?」
「そうだなぁ~。この前あんまり調査できなかった騎士団の人たちを探ってみるか。それか、もっと高い理想を追ってみるか……」
「高い理想、というのは?」
「ギフトキー持ちの王族を仲間に引き入れる、とかね」
僕はあえておどけた言い方をしてみるが、
「それは……かなり難しそうですね」
予想通り、カリンからは難しい表情が返ってきた。
「うん、だよね~。わかってはいるんだけど、ピャーねぇにスキルの授与を気軽に頼めない以上、ギフトキーを自由に使える環境は絶対必要だと思うし、ある程度従者がついてる王族を引き込めれば一気に戦力も増えるかな、と思ったんだよね」
「おっしゃることはわかります。しかしその場合、一度に多くの人間が増えて、裏切りなどのリスクも増えるかと」
カリンの言う通りだと僕も思う。そういったリスクは組織増強にはつきものだろう。
「ホントは1人ずつ面接して、いい人にだけ仲間になってもらいたいよね」
「はい、それがいいかと。まだ小さい組織ですので、初期メンバーは厳選したいと私は考えます。きっと、今いる人たちが幹部のような役割を担うことになると思いますので」
「幹部……カッコいい!セッテも幹部になれるかな!?」
真面目な話にいまいちついてこれてなかったセッテが、ワクワクするワードに反応して割り込んできた。僕は、つい笑顔になって、双子メイドの方を見る。
「うーん、そうだね。お菓子作り担当の幹部でどうかな?」
「えー?なんか違う気がする……」
さすがに誤魔化せなかったらしい、子ども扱いし過ぎたようだ。
「ディセは、幹部、頑張れると思います。セッテは置いといて」
「おねえちゃんひどい!」
「ははは。まぁ、仲間探しは焦らずに続けようか。僕の方は王城の中をあらためて探ってみるよ」
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