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1章 奪う力と与える力

第3話 ジュナリュシア・キーブレスの処遇

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-数ヶ月後-

 僕は自室で本を読んでいた。数ヶ月前に住んでいた屋敷の部屋と比べると1/10くらいの部屋だった。その部屋に置いてある質素な勉強机で、キーブレス王国の歴史書を開いている。

 お母様とコレットが連れ去られた後、僕は国王の間に連行され、父直々に「穢れた血」呼ばわりされた。あのときの冷たい目は、今でも忘れることはできない。父とは数回しか会ったことはなかったが、実の息子のことをあんな目で見る男を、もはや父親だとは思えなくなっていた。
 そんなことよりも、お母様とコレットのことだ。「僕のことはいいから、お母様とコレットを助けてください!」僕は国王に対して必死に主張した。しかし、それも一蹴された。
 「スキル無しなどという無能を生んだ女に王族たる資格はない。王族を名乗る魔女である。よって国外追放処分とした」と告げられた。呆然としている僕に対して「命があるだけ感謝せよ。おまえの使用人のように火葬されたくはないだろう」と矢継ぎ早に言われた。

「コレット……僕のせいで……ごめんなさい……ぐす……」

 一人になると、血まみれのコレットのことが脳裏に浮かんでくる。僕のことを小さい頃から育ててくれたお姉ちゃんのような存在だった。その彼女が命懸けで僕を守ろうとしてくれて、命を落としてしまった。僕は、それがまだ、現実のことのようには認識できていなかった。夢の中にいるみたいだ。
 でも、あのとき指揮を執っていた金髪男や国王、ひいてはキーブレス王国への憎しみは膨れ上がるばかりだった。僕の大切な人たちを傷つけたこの国を許せない。せめて、国外追放されたというお母様だけでも僕が助けるんだ、そう思って僕は勉強を続けていた。

 僕が今いるのは、王城の外壁沿いに建てれた古びた家の中だ。僕自身の処罰は保留となり、この二階建ての小さな家に一人で住むように言い渡された。いつ、どうなるのかわからない状況で一人きりで過ごすのはとても心細かった。明日にでも突然呼び出され殺されるかもしれない。僕に才能がなくて《スキル無し》だから。
 でも、だからといって、お母様が罰せられるのは違う。コレットが殺されるのは違う。それだけはわかったから、僕は二人のために生きて、お母様を助けてコレットの無念を晴らすんだ、そう思って歯を食いしばった。

 睨みつけるように本を読みながら誓いを立てる。僕がしっかりとこの国のことを勉強して、お母様を助ける足掛かりを見つけ、行動に移すんだ。毎日勉強して、毎日訓練して、強い男になるんだ。

「ふぅ……なるほどなぁ……」

 僕は本を閉じて、それを脇に抱えて立ち上がった。キーブレス王国の歴史書を読めば読むほど気が滅入ってくるので、外に出て散歩でもしよう。誰もいない一軒家の階段を降り、玄関を開ける。

 王城の広い庭を歩いていくと、兵士たちや使用人たちとすれ違うが、みんな僕を見ると目を逸らして知らんぷりを決め込んだ。やっぱり、《スキル無し》は嫌われ者なんだなぁ、と改めて実感する。そして、誰にも取り押さえられないことで、僕に一定の自由が認められていることを再認識した。たぶん、〈王族を処刑する〉というのが政治的にまずいから、とりあえず放置しているんだろう。

「はぁ……でも、いつ、どうなるかなんてわからないんだよなぁ……だって、この国ではスキルが全てだから……」

 この1ヶ月、キーブレス王国について勉強したのだが、この国はスキル史上主義で、高ランクのスキル持ちは地位が高く、その逆もしかりだということがわかった。
 つまり、鑑定式でAランクと判定された第四王子はチヤホヤされて立派な屋敷に住み、Eランクと判定された第五王女は、僕ほどじゃないが質素な生活を強いられる。とは言っても、本来Eランクなんて奴隷落ちもあり得るらしいので、王家の血を引く王女だから、まだマシな処遇なのだという。
 そして僕は《スキル無し》つまりゴミだ。

 王宮の人たちは、同じ日に《Eランク》と《スキル無し》の王族が誕生してしまい、どうすればいいのか頭を悩ませていることだろう。今は処分を保留されているが、突然呼び出されて処刑されたり、国外追放されたりするなんてことも考えられる。

 不安で不安で仕方がないが、誰も助けてはくれなかった。

「僕……これからは一人ぼっちなんだよね……ううん!ダメだダメだ!僕が頑張らないと!」

 僕は人通りが少ない木陰のベンチに座り、また本を開いた。

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【キーブレス王家の歴史】
 キーブレス王家には、唯一無二のスキル《ギフトキー》が伝わっている。王族にはランクの大小はあれ、そのギフトキーが発現し、ギフトキーの力を使うと、他人にスキルを授けることができる。
 ギフトキーを使わない限り、王族以外の人間はスキルを得ることはできない。つまり、自然にスキルが発現するのは、王家の血を引くものだけなのだ。そのため、民たちは、キーブレス王家にひれ伏した。「我々にスキルを与えてください」、そう懇願したのだ。
 こうして、キーブレス王国は、スキル史上主義国家となり、必然的にスキルを与えられる者は厳選されてきた。今となっては、〈貴族以上の地位を持つものにしかスキルは与えない〉とキーブレス王家が決めてしまった。
 国民たちは王家に逆らうことができなくなっていった。しかし私が考えるに――
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 これが今のキーブレス王国の内情らしい。

 僕は一旦顔をあげ、本から目を離して考えを整理することにした。
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