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2話
2話 ⑤
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「まあ、そこそこですね。忙しいのは仕事があるってことなんで、別にいいんですけど……」
乾いた笑いを見せるフジイさんは、頭を掻いた。その瞬間、どこからともなく、お腹が鳴る音が聞こえてきた。それは私からではなく、フジイさんから聞こえてきたもので、フジイさんは今度は恥ずかしそうにはにかんでいた。
「良かったら、夕食食べていきませんか? 今ちょうど作っているところなんですけど」
「え? いいんですか?! ……でも、暁生さんにバレたら殺されそうだな。莉乃さんの手料理食うなんて」
彼はそう言いながらも「まあ、遠慮なくいただきます」と食卓テーブルについた。私は「簡単なもので悪いんですけど……」と、豚のショウガ焼きとお味噌汁、ご飯をテーブルに乗せる。冷凍しようとご飯をたくさん炊いておいて良かった。きらりと目を輝かせたフジイさんは「うまいっす」っと繰り返しながら、どんどん勢いよく掻き込んでいく。その光景を見ていると、何だかこちらまで嬉しくなっていく。
(……あっ、そうだ)
私は炊飯器を開ける。ご飯の量はまだまだ十分すぎるほどある、私はそれでおにぎりを握ることにした。けれど、具材はあまりないから質素なものになってしまった。握る終わるころにはフジイさんは食事を終えていた。
「あの、フジイさん!」
満足そうにお腹を撫でるフジイさんに、私は包みを渡す。
「これ、加州さんに渡しておいてもらえませんか? ……お口に合わなければ捨ててもいいですから」
「これ、なんですか?」
「おにぎりです、今握ったんですけど」
「おにぎり!?」
フジイさんの顔がパッとはなやぐ。その声は大きくて、耳の奥が痛くなった。
「いやぁ~、暁生さん喜びますよ! 莉乃さんが作ってくれたおにぎりなんて、今日は食事がとれるかもわからなかったし。ありがとうございます!」
フジイさんはおにぎりの包みとランドリー袋を持って玄関に向かう。その途中で「あ!」とさらに大きな声をあげた。
「そう言えば莉乃さん、生活で不自由にしていることはないですか?」
「え?」
「暁生さんに聞いてくるように頼まれたんですよ。莉乃さんの様子……まあ、ここに来たときよりは顔色は良く見えるし、元気そうだとは思うんですけど」
私はフジイさんに、彼のクレジットカードをお借りしていくつか買い物をしたことを伝える。
「そんなの、気にしないでドンドン使ってください! あの人が置いていったものなんですから。それ以外に困ってることはないですか? ストレス感じたりとか……何でも言ってください! 俺伝えておくんで」
「ストレスって程じゃないんですけど……私、こんなに広いところで、こんなに長い時間一人でいたことがなくて」
振り返ると、殺風景なリビングが広がっている。朝から晩まで、ここで一人きりで過ごす。慣れていくのと同時に、心に積もるある感情があった。
「ちょっと寂しく感じますね。……贅沢な悩みなんですけど」
「そうですよねぇ。俺だってずっとここにいろって言われたら、頭おかしくなっちゃいますもん。わかりますよぉ」
フジイさんはちらりと腕時計を見て「やべ!」と言いながら慌てて靴を履き始めた。
「じゃあ、俺もう行きますんで! 晩飯とおにぎり、ありがとうございました!」
「はい、あの、お気をつけて!」
フジイさんはあわただしく出て行ってしまった。私はフジイさんの使った食器を片づけて、再び一人分のご飯を作る。久しぶりに人と話したから、少しだけもやもやしていた気分がすっきりしていた。
それから数日経ったある晩、私は違和感を覚えて目を覚ました。広いはずのベッドなのに……何だか狭く感じる。私が目を開けると、そこにはいないはずの人が、目の前にいた。
乾いた笑いを見せるフジイさんは、頭を掻いた。その瞬間、どこからともなく、お腹が鳴る音が聞こえてきた。それは私からではなく、フジイさんから聞こえてきたもので、フジイさんは今度は恥ずかしそうにはにかんでいた。
「良かったら、夕食食べていきませんか? 今ちょうど作っているところなんですけど」
「え? いいんですか?! ……でも、暁生さんにバレたら殺されそうだな。莉乃さんの手料理食うなんて」
彼はそう言いながらも「まあ、遠慮なくいただきます」と食卓テーブルについた。私は「簡単なもので悪いんですけど……」と、豚のショウガ焼きとお味噌汁、ご飯をテーブルに乗せる。冷凍しようとご飯をたくさん炊いておいて良かった。きらりと目を輝かせたフジイさんは「うまいっす」っと繰り返しながら、どんどん勢いよく掻き込んでいく。その光景を見ていると、何だかこちらまで嬉しくなっていく。
(……あっ、そうだ)
私は炊飯器を開ける。ご飯の量はまだまだ十分すぎるほどある、私はそれでおにぎりを握ることにした。けれど、具材はあまりないから質素なものになってしまった。握る終わるころにはフジイさんは食事を終えていた。
「あの、フジイさん!」
満足そうにお腹を撫でるフジイさんに、私は包みを渡す。
「これ、加州さんに渡しておいてもらえませんか? ……お口に合わなければ捨ててもいいですから」
「これ、なんですか?」
「おにぎりです、今握ったんですけど」
「おにぎり!?」
フジイさんの顔がパッとはなやぐ。その声は大きくて、耳の奥が痛くなった。
「いやぁ~、暁生さん喜びますよ! 莉乃さんが作ってくれたおにぎりなんて、今日は食事がとれるかもわからなかったし。ありがとうございます!」
フジイさんはおにぎりの包みとランドリー袋を持って玄関に向かう。その途中で「あ!」とさらに大きな声をあげた。
「そう言えば莉乃さん、生活で不自由にしていることはないですか?」
「え?」
「暁生さんに聞いてくるように頼まれたんですよ。莉乃さんの様子……まあ、ここに来たときよりは顔色は良く見えるし、元気そうだとは思うんですけど」
私はフジイさんに、彼のクレジットカードをお借りしていくつか買い物をしたことを伝える。
「そんなの、気にしないでドンドン使ってください! あの人が置いていったものなんですから。それ以外に困ってることはないですか? ストレス感じたりとか……何でも言ってください! 俺伝えておくんで」
「ストレスって程じゃないんですけど……私、こんなに広いところで、こんなに長い時間一人でいたことがなくて」
振り返ると、殺風景なリビングが広がっている。朝から晩まで、ここで一人きりで過ごす。慣れていくのと同時に、心に積もるある感情があった。
「ちょっと寂しく感じますね。……贅沢な悩みなんですけど」
「そうですよねぇ。俺だってずっとここにいろって言われたら、頭おかしくなっちゃいますもん。わかりますよぉ」
フジイさんはちらりと腕時計を見て「やべ!」と言いながら慌てて靴を履き始めた。
「じゃあ、俺もう行きますんで! 晩飯とおにぎり、ありがとうございました!」
「はい、あの、お気をつけて!」
フジイさんはあわただしく出て行ってしまった。私はフジイさんの使った食器を片づけて、再び一人分のご飯を作る。久しぶりに人と話したから、少しだけもやもやしていた気分がすっきりしていた。
それから数日経ったある晩、私は違和感を覚えて目を覚ました。広いはずのベッドなのに……何だか狭く感じる。私が目を開けると、そこにはいないはずの人が、目の前にいた。
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