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2話
2話 ①
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どれだけ時間が経ったのか分からないけれど、すべての事がついに終わった。
私は肌を隠すように、脱がされた着物を身にまとう。手首には、縛られていた赤い跡。床には身に着けていたはずの下着が散らばっていた。夢だと思いたかったけれど、今の状況と体中に残る気だるさや、喉の枯れ、それに下腹部の違和感――男性に貫かれたという鈍痛が、これが事実であると知らしめている。
加州さんはとても涼し気な顔だった。と、言うよりも私の事を征服した喜びにあふれているのか、少しばかり機嫌がいいように見える。彼の首筋に汗が伝う、暑くなってきたのか、彼は着ていたワイシャツを脱ぎ捨てた。
「……ひっ!」
目に飛び込んできた【ソレ】に、思わず悲鳴を上げてしまった。加州さんのたくましい二の腕から、鮮やかな刺青が施されていたからだ。その刺青は、背中にもしっかりと描かれているみたいだった。加州さんはソレが見られていることに気づいたのか、小さく笑って「これか」と私に背を向けた。私は再び、小さく悲鳴を上げる。けれど、それから目をそらすことができなかった。
「鳳凰、だ。良いだろう、気に入ってるんだ。……初めて見るのか?」
私はコクコクと頷く。彼は「じきに慣れる」と笑った。
「早く服を着た方がいいな。帰ってくるぞ」
「え?」
「外から車の音が聞こえてきた」
その言葉と同時に、玄関の扉が開く音が聞こえる。私は慌てて散らばった下着をかき集めようとするけれど、寸でのところで間に合わなかった。長女の優子さんが、真っ先にリビングにやってきたからだ。
「ふー、疲れた……って、なにこれ……」
続けてやってきた文明さんも、文明さんの奥さんも、言葉を失っている。だって、目の前には半裸の男と、素肌に着物をかけただけの女と脱がされて散らばった下着。――これが男女の情事の後だと言うのは、一目瞭然だった。
「莉乃! アンタうちで何してるの! こんな、こんな男連れ込んで……うちのお父さんのこと、だましてたんじゃないでしょうね!」
「ち、違うんです優子さん!」
「姉さん、落ち着け! アイツだよ、加州の息子だ!」
青白い顔をした文明さんは、加州さんを見つめていた。加州さんは脱いでいたはずのワイシャツを着始めている。
「久しぶりだな。社長が息子に変わってから、お声かけがなくて寂しかったぜ」
「当たり前だ! ヤクザになんて頼ってたまるか!」
「ど、どうしてヤクザの息子がうちにいるのよ!」
優子さんの叫びは、耳を塞ぎたくなるような、空気を切り裂いていく鋭い悲鳴だった。
「お前たちの不良債権を引き取りに来てやったんだよ」
加州さんが私を見る。文明さんも、優子さんも、釣られるように私を見た。その怯えるような視線がなんだか恐ろしくて、私が肩を震わせ、自分の身を守る様にぎゅっと自身を抱き着ける。
「もういらないだろ? その女」
「……それは、そうだけど……」
「じゃ、遠慮なくもらっていくぜ。行くぞ、莉乃」
「え?」
いつの間にか身支度を整えていた加州さんは、私を軽々と抱き上げていた。
「わっ……!」
「もっと色気のある声出せよ、せっかくのお姫様抱っこなんだから。……ま、そういう声はさっき聞けたからいいとするか」
私を抱き上げたまま、彼は玄関に向かう。外に出ると、ピタッと真っ黒な車が門に横づけられていた。運転席から男の人が降りてきて、深々と頭を下げる。
「暁生さん、お疲れ様です!」
私は肌を隠すように、脱がされた着物を身にまとう。手首には、縛られていた赤い跡。床には身に着けていたはずの下着が散らばっていた。夢だと思いたかったけれど、今の状況と体中に残る気だるさや、喉の枯れ、それに下腹部の違和感――男性に貫かれたという鈍痛が、これが事実であると知らしめている。
加州さんはとても涼し気な顔だった。と、言うよりも私の事を征服した喜びにあふれているのか、少しばかり機嫌がいいように見える。彼の首筋に汗が伝う、暑くなってきたのか、彼は着ていたワイシャツを脱ぎ捨てた。
「……ひっ!」
目に飛び込んできた【ソレ】に、思わず悲鳴を上げてしまった。加州さんのたくましい二の腕から、鮮やかな刺青が施されていたからだ。その刺青は、背中にもしっかりと描かれているみたいだった。加州さんはソレが見られていることに気づいたのか、小さく笑って「これか」と私に背を向けた。私は再び、小さく悲鳴を上げる。けれど、それから目をそらすことができなかった。
「鳳凰、だ。良いだろう、気に入ってるんだ。……初めて見るのか?」
私はコクコクと頷く。彼は「じきに慣れる」と笑った。
「早く服を着た方がいいな。帰ってくるぞ」
「え?」
「外から車の音が聞こえてきた」
その言葉と同時に、玄関の扉が開く音が聞こえる。私は慌てて散らばった下着をかき集めようとするけれど、寸でのところで間に合わなかった。長女の優子さんが、真っ先にリビングにやってきたからだ。
「ふー、疲れた……って、なにこれ……」
続けてやってきた文明さんも、文明さんの奥さんも、言葉を失っている。だって、目の前には半裸の男と、素肌に着物をかけただけの女と脱がされて散らばった下着。――これが男女の情事の後だと言うのは、一目瞭然だった。
「莉乃! アンタうちで何してるの! こんな、こんな男連れ込んで……うちのお父さんのこと、だましてたんじゃないでしょうね!」
「ち、違うんです優子さん!」
「姉さん、落ち着け! アイツだよ、加州の息子だ!」
青白い顔をした文明さんは、加州さんを見つめていた。加州さんは脱いでいたはずのワイシャツを着始めている。
「久しぶりだな。社長が息子に変わってから、お声かけがなくて寂しかったぜ」
「当たり前だ! ヤクザになんて頼ってたまるか!」
「ど、どうしてヤクザの息子がうちにいるのよ!」
優子さんの叫びは、耳を塞ぎたくなるような、空気を切り裂いていく鋭い悲鳴だった。
「お前たちの不良債権を引き取りに来てやったんだよ」
加州さんが私を見る。文明さんも、優子さんも、釣られるように私を見た。その怯えるような視線がなんだか恐ろしくて、私が肩を震わせ、自分の身を守る様にぎゅっと自身を抱き着ける。
「もういらないだろ? その女」
「……それは、そうだけど……」
「じゃ、遠慮なくもらっていくぜ。行くぞ、莉乃」
「え?」
いつの間にか身支度を整えていた加州さんは、私を軽々と抱き上げていた。
「わっ……!」
「もっと色気のある声出せよ、せっかくのお姫様抱っこなんだから。……ま、そういう声はさっき聞けたからいいとするか」
私を抱き上げたまま、彼は玄関に向かう。外に出ると、ピタッと真っ黒な車が門に横づけられていた。運転席から男の人が降りてきて、深々と頭を下げる。
「暁生さん、お疲れ様です!」
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