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4 王子たちの戯れ
4 王子たちの戯れ ①
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城の中で最も静かで人が少ないところはごく限られている。
大人しい性格のミサキにとっては、静かな図書室と人があまり来ない温室がお気に入りのスポットになっていた。少し前までは慣れるために色々魔王城の中を探索して歩いていたが、ミサキを見つけるたびに仕えている兵士や給仕たちにひそひそと噂話をしているのがなんとも居心地が悪く、ミサキが城の中を出歩くことはめっきりと減っていた。
最近では、図書室で借りた本を温室や自分の部屋で読んで日々を過ごすことが多い。
本ばかり読む生活だが、飽きることはなかった。歴史の本屋この世界に代々語り継がれている伝承、寓話……いずれも元の世界では呼んでことのない物語ばかりで、ミサキには新鮮だった。そして、自分好みの恋愛小説もある。……約束とした『子どもを為す』までの間、読み尽くすのが難しいほど積みあがっている本の背表紙を食い入るように見つめていると、誰かが軽くミサキの肩を叩いた。
「ひぁあっ!」
「……変な声を出すのはやめてください。紛らわしい」
振り返ると、仏頂面のセルゲイが立っていた。その表情や声色から、彼の機嫌が良くないことが伝わってくる。
「まったく、貴女も本好きですよねぇ」
そして、嫌味のような小言まで飛んでくる。彼のイライラは最高潮な様子だ。
「え、あ……そ、そうですね」
「毎日毎日飽きることなく。ミハイル様もそうですが、たまにアレクセイ様の趣味にも寄り添っていただいてもいいものを」
「アレクセイの、趣味?」
大雑把な彼に、そんな根強く習慣となったものがあるなんて、ミサキはうまく想像できなかった。ミサキの中では、彼は細かいことと長く集中することが苦手な……『小学生の男の子』に近い。
「ええ、ありますよ、もちろん」
「へえ、どんなことですか?」
それは、自分にもできることなのだろうか? ミサキがわくわくしながらセルゲイに問うと、セルゲイは胸を張った。彼は、自分が仕える王子の話をするときはいつも自慢げだ。
「例えば、ドラゴンレースとか」
「……ドラゴン?」
「ええ、ドラゴンを操縦してゴールを目指すのです。アレクセイ様はここ数年、続けて賞金王に輝いておりますし。ミサキ様もいかがですか?」
「む、む、無理です……」
根っからのインドア派であるミサキはブンブンと激しく首を横に振る。もしアクティビティな人間だったとしても、その未知なレースへの参加は尻込みしただろう。
セルゲイは、何かを思い出したかのように手を合わせた。
「そうだ、私は貴女とお喋りをしに来たのではないんだ。ミサキ様、アレクセイ様は見ておりませんか?」
「アレクセイですか? いいえ」
今日は一度も、王子兄弟には遭遇してはいない。
「そうですか、てっきりミサキ様のところに行ったのだと思っていたのですが」
「アレクセイ、居なくなったんですか?」
「ええ、よく執務中でも散歩に出かける方なので気にはしていなかったのですが……最近は長く席を外すことも多く、帰ってきたらイライラしていて」
「はぁ……」
「もしアレクセイ様を見かけましたら、私が探していたとお伝えください」
「はい、わかりました」
セルゲイはスタスタと図書室を出て行こうとして、くるりと振り返った。
「ああ、忘れていた」
「ん? 何ですか?」
「もしアレクセイ様が貴女の体を求められたら……その時は私の伝言を忘れても構いませんから」
「……! セルゲイさんのすけべ!」
「アレクセイ様と貴女の子作りは国の一大事ですよ、それでは」
セルゲイは今度こそ、キビキビと図書室を出て行った。残されたのは、無数の本と顔を真っ赤にさせたミサキだけだった。その熱を払うように、頭をブンブンと振り続け……気づけばグルグルと目が回っていた。
「はぁ……」
ミサキは数冊の本を抱えて、図書室を後にする。頭を振りすぎたせいか、頭痛がする。
「ミサキ、今よろしいですか?」
「……ん?」
振り返ると、ミハイルが片手を上げてミサキに話しかけていた。ミサキが胸元に抱えた本を見て、ミハイルは感嘆の声をあげた。
「ああ、図書室の帰りですか?」
「はい、気になる本が沢山あって」
あれ以来、ミサキはミハイルと図書室で出くわすことが多くなった。勉強家の彼はよく調べ事のために訪れるらしく、そこでミサキとは本の話をすることも増えた。ミサキが読んできた本の中には、ミハイルのおすすめも多く混ざっている。
「あそこ、気に入っていただけてよかったです」
その言葉に、ミサキは小さく微笑み本をぎゅっと抱く。頰を赤らめたその表情を見たミハイルは、ピタッと動くのをやめた。
いつも、戸惑ったりどうしたらいいのか迷っていたり……抱いていない時のミサキの表情は、眉を潜めていることが多い。そんな彼女の素に近い表情を見るのは、ごく稀だった。
その珍しい表情を見たミハイルは、胸にじんわりと染み込んで行く。
「……ミハイル?」
「え?」
動かなくなるミハイルの様子を心配したのか、ミサキが彼の表情を覗き込んだ。彼は感じた温かさを忘れるように、ニコリと微笑む。
「大丈夫です、ご心配おかけしました」
「そう……ミハイルはどうしてここに?」
「私ですか?」
周囲を見渡し、彼は邪魔する者がいない事を確認する。……ミハイルとミサキの子作りを反対するアレクセイ派の家臣はいない。
そして微笑みながら、ミサキの腕を掴んだ。そして、そのまま引きずるように近くの部屋……ミハイルの執務室にミサキを引き入れる。
「仕事していのですが、少し時間ができたので……貴女を抱こうと思って」
「……え?」
ミハイルのニコニコと微笑む表情は崩れない。本気で、彼は『ミサキを抱く』と言っているのだ。
「で、でも仕事中ならご迷惑になるんじゃ……」
「時間ができたと言ったでしょう? それに……」
大人しい性格のミサキにとっては、静かな図書室と人があまり来ない温室がお気に入りのスポットになっていた。少し前までは慣れるために色々魔王城の中を探索して歩いていたが、ミサキを見つけるたびに仕えている兵士や給仕たちにひそひそと噂話をしているのがなんとも居心地が悪く、ミサキが城の中を出歩くことはめっきりと減っていた。
最近では、図書室で借りた本を温室や自分の部屋で読んで日々を過ごすことが多い。
本ばかり読む生活だが、飽きることはなかった。歴史の本屋この世界に代々語り継がれている伝承、寓話……いずれも元の世界では呼んでことのない物語ばかりで、ミサキには新鮮だった。そして、自分好みの恋愛小説もある。……約束とした『子どもを為す』までの間、読み尽くすのが難しいほど積みあがっている本の背表紙を食い入るように見つめていると、誰かが軽くミサキの肩を叩いた。
「ひぁあっ!」
「……変な声を出すのはやめてください。紛らわしい」
振り返ると、仏頂面のセルゲイが立っていた。その表情や声色から、彼の機嫌が良くないことが伝わってくる。
「まったく、貴女も本好きですよねぇ」
そして、嫌味のような小言まで飛んでくる。彼のイライラは最高潮な様子だ。
「え、あ……そ、そうですね」
「毎日毎日飽きることなく。ミハイル様もそうですが、たまにアレクセイ様の趣味にも寄り添っていただいてもいいものを」
「アレクセイの、趣味?」
大雑把な彼に、そんな根強く習慣となったものがあるなんて、ミサキはうまく想像できなかった。ミサキの中では、彼は細かいことと長く集中することが苦手な……『小学生の男の子』に近い。
「ええ、ありますよ、もちろん」
「へえ、どんなことですか?」
それは、自分にもできることなのだろうか? ミサキがわくわくしながらセルゲイに問うと、セルゲイは胸を張った。彼は、自分が仕える王子の話をするときはいつも自慢げだ。
「例えば、ドラゴンレースとか」
「……ドラゴン?」
「ええ、ドラゴンを操縦してゴールを目指すのです。アレクセイ様はここ数年、続けて賞金王に輝いておりますし。ミサキ様もいかがですか?」
「む、む、無理です……」
根っからのインドア派であるミサキはブンブンと激しく首を横に振る。もしアクティビティな人間だったとしても、その未知なレースへの参加は尻込みしただろう。
セルゲイは、何かを思い出したかのように手を合わせた。
「そうだ、私は貴女とお喋りをしに来たのではないんだ。ミサキ様、アレクセイ様は見ておりませんか?」
「アレクセイですか? いいえ」
今日は一度も、王子兄弟には遭遇してはいない。
「そうですか、てっきりミサキ様のところに行ったのだと思っていたのですが」
「アレクセイ、居なくなったんですか?」
「ええ、よく執務中でも散歩に出かける方なので気にはしていなかったのですが……最近は長く席を外すことも多く、帰ってきたらイライラしていて」
「はぁ……」
「もしアレクセイ様を見かけましたら、私が探していたとお伝えください」
「はい、わかりました」
セルゲイはスタスタと図書室を出て行こうとして、くるりと振り返った。
「ああ、忘れていた」
「ん? 何ですか?」
「もしアレクセイ様が貴女の体を求められたら……その時は私の伝言を忘れても構いませんから」
「……! セルゲイさんのすけべ!」
「アレクセイ様と貴女の子作りは国の一大事ですよ、それでは」
セルゲイは今度こそ、キビキビと図書室を出て行った。残されたのは、無数の本と顔を真っ赤にさせたミサキだけだった。その熱を払うように、頭をブンブンと振り続け……気づけばグルグルと目が回っていた。
「はぁ……」
ミサキは数冊の本を抱えて、図書室を後にする。頭を振りすぎたせいか、頭痛がする。
「ミサキ、今よろしいですか?」
「……ん?」
振り返ると、ミハイルが片手を上げてミサキに話しかけていた。ミサキが胸元に抱えた本を見て、ミハイルは感嘆の声をあげた。
「ああ、図書室の帰りですか?」
「はい、気になる本が沢山あって」
あれ以来、ミサキはミハイルと図書室で出くわすことが多くなった。勉強家の彼はよく調べ事のために訪れるらしく、そこでミサキとは本の話をすることも増えた。ミサキが読んできた本の中には、ミハイルのおすすめも多く混ざっている。
「あそこ、気に入っていただけてよかったです」
その言葉に、ミサキは小さく微笑み本をぎゅっと抱く。頰を赤らめたその表情を見たミハイルは、ピタッと動くのをやめた。
いつも、戸惑ったりどうしたらいいのか迷っていたり……抱いていない時のミサキの表情は、眉を潜めていることが多い。そんな彼女の素に近い表情を見るのは、ごく稀だった。
その珍しい表情を見たミハイルは、胸にじんわりと染み込んで行く。
「……ミハイル?」
「え?」
動かなくなるミハイルの様子を心配したのか、ミサキが彼の表情を覗き込んだ。彼は感じた温かさを忘れるように、ニコリと微笑む。
「大丈夫です、ご心配おかけしました」
「そう……ミハイルはどうしてここに?」
「私ですか?」
周囲を見渡し、彼は邪魔する者がいない事を確認する。……ミハイルとミサキの子作りを反対するアレクセイ派の家臣はいない。
そして微笑みながら、ミサキの腕を掴んだ。そして、そのまま引きずるように近くの部屋……ミハイルの執務室にミサキを引き入れる。
「仕事していのですが、少し時間ができたので……貴女を抱こうと思って」
「……え?」
ミハイルのニコニコと微笑む表情は崩れない。本気で、彼は『ミサキを抱く』と言っているのだ。
「で、でも仕事中ならご迷惑になるんじゃ……」
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