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121 約束のない来客

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何事もなく家に帰った。はずだった…忘れようとしていた頃合いだった。


「平民よばわりした者の家に来るのに大層な馬車で来ないでください迷惑です。相手の都合に合わせられないのですか。」

イザーク様が家の入口に立ち塞がって護衛を睨んでいる。買い物帰りで家に入ろうとしたら馬車が止まってその家紋や護衛の人間を見て露骨に不機嫌な顔をしている。

「ミカエラ、中に入って下さい。」
「揉めるならその馬車片付けてもらって中でしてください。変な噂を立てたくないんです。」
「…お言葉に甘えさせていただきます。さっさとその目立つ馬車片付けて入ってください。」

家に入るとイザークはアリアに何か指示を出していた。気にしないで着替えてきたらいいと背中を押されたので部屋に移動してゆっくりと着替える。来客用の着替えではなく部屋にある膝上のミニ丈ワンピースになるようなシャツと下着を隠すようなショート丈のパンツで足を出す。楽な服装。

家の中での普段着だ。作業用のタンクトップではないだけ気を使っている。リビングに向かうとアリアがお茶だけ出してさっさと引っ込んでしまっている。さし湯を沸かす魔道具や給水ポット、お茶っ葉まで揃えているから逃げている。

「アリアには用意だけしてもらって下がらせました。巻き込むのも可哀想なので。」
「仕事しているんで終わったら教えてください。」
「な、なんだその格好は!!!!はしたないにも程がある!!」

イザーク様と少しだけ似ているような方だが、知らないし誰だろう。

「連絡もなしに人の家に押しかけておいて服装に文句を言う筋合いないですよ、兄上。ミカエラ、気にしないでください。」
「血縁の方だったのですか。お客様でもない方に服装を言われても…イザーク様、家具を破壊したりしたら怒りますから。」

仕事しよう。関わりたくない。つい先日伯爵の相手で怪我したし。顔に面倒臭いと出てたのかもしれない。

「話はすんでないぞ。」
「連絡もなしに勝手に押しかけられて茶を出す以上に何か?仕事があるんです。茶を飲んだらお引取りを。私には私の仕事があるんです…お家騒動を家に持ってこないでください。」

「すみません。」

原因は私だろうけれど、勝手にやってきたのは向こうだ。私が相手する必要も理由もない。仕事の邪魔だけはしないで欲しい。
ミカエラは仕事のために地階の工房に降りて行った。 イザークはため息を付いて異母兄を見る。

「何の用ですか。彼女の言うことが真っ当でしょう。」
「平民如きに何故私がそこまでする必要がある。」
「彼女は女男爵です。それにミカエラ個人ではリンドブルム大公や双子の王子とも個人的に懇意にしています。非常識な貴族が来たと愚痴を言われたらどうするのです。ミカエラは2人の地位は知らずただのこの国の偉い人程度の知識しかないので影響も何も知らず愚痴を言いますよ。貴族の顔とお名前なんて覚えてないにしても彼女が身体的特徴を伝えるだけで貴族には十分でしょう。」
「……それは。そんなすぐに両殿下に会えるわけないだろう。」
「別に会えなくてもリンドブルム大公に変な貴族がアポなしでやってきて失礼だったともらせば彼の方なら双子王子にまで話を持っていくと思いますけれどね。それでなんのようです。」

 どれだけ異母兄が言おうが彼女がイラッとしたら雑談の中で話すかも知れないし、こちらとしては拒むつもりはない。自業自得です。と、言い切れる。

「お前の婚姻はこちらで考える。遊ぶのはほどほどにしておけ。」
「お断りいたします。今まで好き勝手にしろと言っていたのはそちらでしょう。呪い持ちだと避けていたのでは??それを今から婚姻は本家で考えるというのはどうされました。ロズウェル侯爵家に一任するとまで投げていたのはそちらでしょう。」
「何を!!!!」
魔力が溢れて風が巻き起こるが、防犯用の核石が反応して魔力を打ち消した。さすがエルフの核石。異母兄を監視対象として見ているようだ。




 イザーク様の家って平民は平民、貴族は貴族と見ているというか、貴族以外は差別対象ということなのだろうか。それでイザーク様は呪い持ちだからあぁいう家だと下に見られていたとか。イザーク様は別に私のことを庶民だからと気にしていないのに。

 ドンと何か音がした。喧嘩はやめてほしいんだけれども。この家ヘラルド様が多分大金で下さった家だし。

 仕事を中断して作業場から顔を出すと異母兄という方が立ち上がっていた。

「ミカエラ、すみません。騒がしかったですか?」
「騒がしいも何も魔力で何かしましたか???ヘラルド様にもらった家だから綺麗に使いたいんですが。それ以上揉めるならユーリ様に取りに来てもらうかヘラルド様に泣きつきますよ。」

 面倒くさいから伯爵家より上の人たちになんとかしてもらうことしか思いつかない。何よりこれ以上の応対が本当に面倒臭い。さっさと帰ってくれないだろうか。このお貴族様。

「私の家ですが、作ってくださったのはヘラルド様なので、くれぐれも傷つけないようにしてください。」
「イザーク様もこれ以上ややこしくなるなら侯爵家で家族会議を開くなりなんなりして解決してください。私の家は会議室でも内密の相談部屋でもないんです。」

 貴族様らしい言い方もあるんだろうけれど、こっちの言い分はめんどくさいから帰れ。それだけだ。ミカエラはそう思いながらため息をつかないようにして部屋に戻る。仕事にならない。気になるから寝よう。外に出られないなら寝るしかない。
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