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111 帰宅

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 仮病の胃もたれで帰りの馬車に乗る。なのにイザーク様の膝枕に加えて毛布をかけられたり、胃薬を飲まされたり、コルセットを外されたりして完全に体調悪い人になってしまった。困ったのでとりあえず彼の膝を枕にしていることもあり、顔を埋めて逃げておこう。後で何を言われるかわからないけれど、今は仮病の胃もたれで甘えて怒られる点数を減らしておけばいい。というよりなぜイザーク様を護衛から外すことをあっさり了承されたのだろう。正式に外されたと言っても私のところに貸出中っていうだけで解雇というわけでもないだろうし。あくまでも出張先みたいな扱いだと思いたい。

「甘えてくれているので嬉しいですけれど、本当に食べ過ぎで気持ち悪かったのですか???」
「…あの場にいたくなかったので適当に言いました。お腹空いてます。」

 離れようとしたら頭をそのまま軽く押されて横になるようにと手で指示されてしまった。化粧がつくと思ったがこのお貴族様は化粧で服が汚れても買い直せばいいとか新しく仕立てたらいいとか思っているに違いない。汚さないように気をつけているけれど。

「まぁ、あそこにいて変に失言をするよりはさっさと帰ったほうがいいですからね。先約とは???」
「…イザーク様ですけれど。先約ではなかったのですか???」
「…確約じゃなかったのですか。」

 重かった。ゴロンと見上げる形で姿勢を変える。この顔も見慣れたのは見慣れたけれど…確約かどうかは自信がない。素っ裸に近い姿も見られたり(湯上がり等)しているけれど悲鳴はあげていない。近くにあったものを投げるか寝室なら軽く蹴るくらいだ。

「確約はしてないですよ。」
「残念です。それと少し前に話していた贈り物なのですが…」
「ありましたね、そんな話。お気になさらないでいいですよ???そういうの興味ないので。」
「貝殻の内側を使った装飾をしていたでしょう?」
「はい。」
「赤い珊瑚と野菜みたいな翡翠が手に入ったのですが、興味ありませんか?」

 野菜みたいな翡翠???なんだそれは。野菜と宝石なんて全く関係ないだろう。というよりお金どれだけかけたんだ。宝石なんて珍しい色というだけでかなり高価になるはずなんだけれど。それでも金額を聞くのは流石に失礼だし。

「あります。」
「では、原材料として提供するのでおそろいの指輪を作ってください。余ったらご自由に。」
「…がんばります。というか、なんで私変なのに好かれるのですか。向こうの人私の言葉理解してましたよね。」
「それ、私も含まれてます????」
「多少は含んでいますけれど、どう見ても平凡な庶民で手に職があるだけなのに何故でしょう。」

 私、好かれるようなことをした覚えが全くないのだ。困ったことに無自覚どころか本当に何もしていない。さっきの人なんて結構失礼な人だし。お腹も痛くないので毛布を反対側の椅子に置いてゴロンと横になる。もっと食べたかった。料理美味しかったのに残念だ。

「もっと食べたかった…」
「ユーリ様が手配してくれるでしょうし、料理長の目の前であれだけ幸せそうに食べていたら後日でも作ってくれますよ。」
「ちゃんとお金払うので作って欲しいです。起きていいですか?」
「私の膝の上になりますが。」

 そうなるとどっちでも良くなりそうだ。それに私が体調不良を起こしていないとわかっているから気分で勝手に姿勢を変えてくるだろう。



 その頃、城ではユーリ様がヘラルド様も参戦させて無理やり話を終わらせようと部屋が凍りつくような舌戦を繰り広げていたことを後日魔導師団や第三騎士団、レオンハルト様から聞いた。レオンハルト様はそれよりも御婦人方に囲まれて身動き取れずに警備ができず早々に家に帰されたらしくそれはそれで凹んだと王城の移動で教えてもらった。レオンハルト様は顔が良すぎるから。それはそれで大変そうだ。

「顔の良さを活用して美女を籠絡しておねだりでもして情報収集をしたら色々得られそうですね。女性の嫉妬で敵対グループが潰しあったり。」
「…向こうが競合してこっちを囲い込みに来ると本当に怖いんだよ。」

 遠い目で言われた。
 それは大変そうだ。ミカエラは魔道具を作る手伝いをする。

「ミカエラさん、誰かと交際されているのですか??」
「え?」
「好奇心なんですけれど。」
「…彼氏はいます。」

 一応言っておいた方がいい。ミカエラは顔を逸らして濁す。誰とは言わないけれど。
レオンハルト様が何で驚いた顔をしているのだろう。ユーリ様経由で聞いていないのだろうか。ユーリ様だから言わなかったとか。それでも先約はイザーク様だ。結婚する気はないけれど。周りの独身貴族からは残念だけど、別れたら連絡してほしい。と、すごく言われた。
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