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第百五話 二人の巨星
しおりを挟む 邪王を討伐してからは、それなりに穏やかな日々が続いた。
もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。
そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。
月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。
「ユーカ、呼び出して悪かった」
「ごめんね、ユーカ」
「いえ、大丈夫です」
ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。
「ジークさん? ハミルさん?」
何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。
「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」
「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」
まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。
「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」
「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」
『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。
「俺達と」
「僕達と」
「「結婚してくださいっ」」
しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。
「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」
ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。
皇魔歴九千六十四年のある日。
「母さんっ! これ見て!」
「なぁに? ルーク?」
ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。
「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」
そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。
邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。
(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)
今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。
その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。
「見ーつけたっ」
「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」
「うん」
クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。
「ふふっ」
「? どうしたの? ユーカ?」
「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」
もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。
「そうだったな」
「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」
「そうは見えなかったよ?」
実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。
「ユーカ、愛してる」
「大好き。愛してるよ。ユーカ」
同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。
「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」
「さぁ、部屋へ戻ろう」
「続きはベッドでゆっくり、ね?」
最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。
「えっと、お、お手柔らかに?」
深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。
(完)
もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。
そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。
月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。
「ユーカ、呼び出して悪かった」
「ごめんね、ユーカ」
「いえ、大丈夫です」
ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。
「ジークさん? ハミルさん?」
何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。
「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」
「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」
まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。
「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」
「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」
『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。
「俺達と」
「僕達と」
「「結婚してくださいっ」」
しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。
「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」
ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。
皇魔歴九千六十四年のある日。
「母さんっ! これ見て!」
「なぁに? ルーク?」
ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。
「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」
そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。
邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。
(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)
今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。
その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。
「見ーつけたっ」
「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」
「うん」
クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。
「ふふっ」
「? どうしたの? ユーカ?」
「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」
もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。
「そうだったな」
「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」
「そうは見えなかったよ?」
実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。
「ユーカ、愛してる」
「大好き。愛してるよ。ユーカ」
同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。
「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」
「さぁ、部屋へ戻ろう」
「続きはベッドでゆっくり、ね?」
最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。
「えっと、お、お手柔らかに?」
深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。
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