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第六十五話 ワラキア公の素顔
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ポーランドからブダへ入国したフリデリカ一行は、ヴラドとの謁見を控えて事実上の軟禁状態にあった。
フリデリカの顔色は青白く、まるでこれから死刑台に昇る死刑囚のようであり、気分は最悪の一言に尽きた。
ハンガリーに入国してからというもの、決して好意的とは言えない視線にさらされて身も心も疲れ果れきってしまったようだ。
故国からわざわざ自分に付き添ってくれた侍女たちにも申し訳ないと思う。
それにしても先ごろまで敵国であったとはいえ、敵意が妙に生温かく感じるのは気のせいなのだろうか?
いよいよヴラド三世との対面を目前に控えたフリデリカは頭の片隅から消えない疑念に頭を振った。
どうせこれ以上考えても仕方がない。
結局のところ、自分の生殺与奪の権利はこれから会う男、愛すべき主人にして恐るべき虐殺者たるヴラド三世が握っているのだから。
「遠路はるばるよう参られた、フリデリカ殿」
「殿下のご厚意に感謝いたします」
フリデリカは予想と違ったヴラドの闊達で明るい面差しに面食らっていた。
血色のよさそうな肌に大きな瞳は愛敬に富んでおり、美丈夫とまではいかないが、確実に水準以上の容姿である。
そしてとうてい十字軍を殲滅し、ハンガリー王国を亡国に追い込んだ男とも思われないなんとも優しい声音だった。
(意外だわ。こんな優しそうな男が、あの有名な虐殺を行った串刺し公なの?)
当年とってヴラド三世弱冠十七歳。
つまるところ実はフリデリカにとっては年下である。
史実と違い、今のヴラドに味方に裏切られ続けた猜疑心の塊といった暗い影はない。
体躯は人並み以上に大きいものの、明るく均整のとれた肢体を持つヴラドはごく普通の好青年にも思えるのだった。
もっともそのころ、ヴラドは深刻な葛藤に苦しんでいた。
(胸、でかっ!!!)
なんなのあの胸、Hカップ近くあるんじゃないの?
いやいや、だって顔立ちはハーマ○オニー似なのに、峰不二子ばりのエロエロセクシーってもう犯罪だろ?
しかもそこはかとなく、いじめてオーラを醸し出している風なのもまたたまらん。
くっ………ポーランドの巨乳は化け物かっ!
「いつまであの娘の胸を凝視しておるか! この破廉恥魔ァァァ!」
「へぶし!?」
ヘレナの頭突きを鳩尾に食らって悶絶する俺を見たポーランド王国の面々が、まるで樹氷のように凍りついた。
現実を否定するかのように、思わずフリデリカは頭を振る。
非道で名高いヴラド三世が、実は幼女に手も足も出ないなんてそんな馬鹿なことがあるはずは……。
「そんなに! そんなに汝は胸が好きなのか?! 妾だって汝が言うから三食欠かさずミルクを飲んでおるのじゃ! その妾の気も知らず!」
「誤解! 誤解だってば! 俺はヘレナの平坦な胸だって大好きだよ?」
「貴様っ! 地獄に落ちろおおおおお!!」
「げにゅっ!」
再びヘレナの頭突きが顎に炸裂して、今度は舌まで噛んでしまった。
それにしても誰も俺を助けてくれる臣下がいないのはどういうわけなのだろうか。
「「「今のは殿下がお悪い」」」
至極ごもっともな意見である。
「ごめんなさい…………」
「プッ!」
フリデリカは他国の王家では決して考えられない、あからさまでおおらかな痴話喧嘩に思わず噴出していた。
まるで愛しい義父と義母の喧嘩のような気安さであった。
もしかすると自分の運もそれほど捨てたものではないのかもしれない、とフリデリカは思い直す。
同時に、ワラキア宮廷に入ってからの微妙な敵意についても完全に納得がいった。
要するにあの愛らしい幼女の焼き餅であったらしい。
さぞやあの姫君は宮廷の人々にも愛されているのだろう。
それは相変わらずじゃれ続けている二人を見守る側近たちの瞳を見ても明らかだ。
(…………私もあんな風に等身大な笑顔を向けられたなら)
ヴワディスワフ二世の庶子、そんな色眼鏡でしか誰も自分を見てくれなかった。
このワラキア宮廷で、誰がヘレナをローマ帝国の皇女として腫れものに触るような扱いをするだろうか。
きっとそんなことはなく、ヴラドに恋する愛らしい少女として、大事にされているのに違いない。
そしてそれはきっと、ヴラド自身の少女や臣下に対する日頃の等身大な接し方の賜物なのだろう。
いつしか恐怖と落胆で満たされていたフリデリカの胸には希望の光が膨らみ始めていた。
もしかしたら、ヴラドこそはフリデリアの理想の伴侶であるのかもしれなかった。
「うわっ! ヘレナ! そこは駄目だって! お婿にいけなくなっちゃう!?」
「こんな! こんな下品なものがあるから汝は妾に×××××して〇〇〇〇するのだ!」
やっぱり考え直してもいいだろうか?
そう思いつつ、久しぶりにフリデリカは声をあげて笑った。
フリデリカの顔色は青白く、まるでこれから死刑台に昇る死刑囚のようであり、気分は最悪の一言に尽きた。
ハンガリーに入国してからというもの、決して好意的とは言えない視線にさらされて身も心も疲れ果れきってしまったようだ。
故国からわざわざ自分に付き添ってくれた侍女たちにも申し訳ないと思う。
それにしても先ごろまで敵国であったとはいえ、敵意が妙に生温かく感じるのは気のせいなのだろうか?
いよいよヴラド三世との対面を目前に控えたフリデリカは頭の片隅から消えない疑念に頭を振った。
どうせこれ以上考えても仕方がない。
結局のところ、自分の生殺与奪の権利はこれから会う男、愛すべき主人にして恐るべき虐殺者たるヴラド三世が握っているのだから。
「遠路はるばるよう参られた、フリデリカ殿」
「殿下のご厚意に感謝いたします」
フリデリカは予想と違ったヴラドの闊達で明るい面差しに面食らっていた。
血色のよさそうな肌に大きな瞳は愛敬に富んでおり、美丈夫とまではいかないが、確実に水準以上の容姿である。
そしてとうてい十字軍を殲滅し、ハンガリー王国を亡国に追い込んだ男とも思われないなんとも優しい声音だった。
(意外だわ。こんな優しそうな男が、あの有名な虐殺を行った串刺し公なの?)
当年とってヴラド三世弱冠十七歳。
つまるところ実はフリデリカにとっては年下である。
史実と違い、今のヴラドに味方に裏切られ続けた猜疑心の塊といった暗い影はない。
体躯は人並み以上に大きいものの、明るく均整のとれた肢体を持つヴラドはごく普通の好青年にも思えるのだった。
もっともそのころ、ヴラドは深刻な葛藤に苦しんでいた。
(胸、でかっ!!!)
なんなのあの胸、Hカップ近くあるんじゃないの?
いやいや、だって顔立ちはハーマ○オニー似なのに、峰不二子ばりのエロエロセクシーってもう犯罪だろ?
しかもそこはかとなく、いじめてオーラを醸し出している風なのもまたたまらん。
くっ………ポーランドの巨乳は化け物かっ!
「いつまであの娘の胸を凝視しておるか! この破廉恥魔ァァァ!」
「へぶし!?」
ヘレナの頭突きを鳩尾に食らって悶絶する俺を見たポーランド王国の面々が、まるで樹氷のように凍りついた。
現実を否定するかのように、思わずフリデリカは頭を振る。
非道で名高いヴラド三世が、実は幼女に手も足も出ないなんてそんな馬鹿なことがあるはずは……。
「そんなに! そんなに汝は胸が好きなのか?! 妾だって汝が言うから三食欠かさずミルクを飲んでおるのじゃ! その妾の気も知らず!」
「誤解! 誤解だってば! 俺はヘレナの平坦な胸だって大好きだよ?」
「貴様っ! 地獄に落ちろおおおおお!!」
「げにゅっ!」
再びヘレナの頭突きが顎に炸裂して、今度は舌まで噛んでしまった。
それにしても誰も俺を助けてくれる臣下がいないのはどういうわけなのだろうか。
「「「今のは殿下がお悪い」」」
至極ごもっともな意見である。
「ごめんなさい…………」
「プッ!」
フリデリカは他国の王家では決して考えられない、あからさまでおおらかな痴話喧嘩に思わず噴出していた。
まるで愛しい義父と義母の喧嘩のような気安さであった。
もしかすると自分の運もそれほど捨てたものではないのかもしれない、とフリデリカは思い直す。
同時に、ワラキア宮廷に入ってからの微妙な敵意についても完全に納得がいった。
要するにあの愛らしい幼女の焼き餅であったらしい。
さぞやあの姫君は宮廷の人々にも愛されているのだろう。
それは相変わらずじゃれ続けている二人を見守る側近たちの瞳を見ても明らかだ。
(…………私もあんな風に等身大な笑顔を向けられたなら)
ヴワディスワフ二世の庶子、そんな色眼鏡でしか誰も自分を見てくれなかった。
このワラキア宮廷で、誰がヘレナをローマ帝国の皇女として腫れものに触るような扱いをするだろうか。
きっとそんなことはなく、ヴラドに恋する愛らしい少女として、大事にされているのに違いない。
そしてそれはきっと、ヴラド自身の少女や臣下に対する日頃の等身大な接し方の賜物なのだろう。
いつしか恐怖と落胆で満たされていたフリデリカの胸には希望の光が膨らみ始めていた。
もしかしたら、ヴラドこそはフリデリアの理想の伴侶であるのかもしれなかった。
「うわっ! ヘレナ! そこは駄目だって! お婿にいけなくなっちゃう!?」
「こんな! こんな下品なものがあるから汝は妾に×××××して〇〇〇〇するのだ!」
やっぱり考え直してもいいだろうか?
そう思いつつ、久しぶりにフリデリカは声をあげて笑った。
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