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大久保利通暗殺事件

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大久保利通。
日本史を習ったものなら誰もが知る名であり、西郷隆盛、木戸孝充と並ぶ明治の元勲として当時の最高権力者として君臨したことは有名である。
彼が道半ばで暗殺に倒れたことは日本の近代化が非常に中途半端に終わり、のちの軍国主義を招く軍閥の要因ともなった第一の原因であると管理人は考えている。
彼の死に比べれば坂本竜馬の死など取るに足りない。
唯一大村益次郎の暗殺が大久保の次くらいに惜しまれるくらいであろうか。


大久保利通は1830年9月26日大久保利世の子供として生まれた。
貧乏な下級藩士の家であったが、利通は幸運にも藩校造士館で西郷隆盛や海江田信義らと知己を得ることができた。
武術は弱かったが学問や弁論では右に出るものがいなかったという。

その後利通は藩の記録書役助として出仕するがお由羅騒動に父とともに連座して罷免され謹慎処分を受ける。
しかし島津斉彬が藩主の座につくと処分を解かれ再び復職し御蔵役に就任した。
優秀な頭脳を評価された利通は西郷とともに徒目付として斉彬を補佐するが、斉彬の病死によって失脚するかに思われたが藩校の同級生であった税所篤の尽力で島津久光に接近し
その地位を保つことに成功する。
このとき盟友西郷は桜島に流罪となって死をも覚悟せねばならない立場となっていた。
このあたりに利通の合理主義的な思考を垣間見ることができるだろう。
情実は公儀に先んずるべからず。
この姿勢は利通の生涯を通じて変わることはなかった。

久光の側近として京都に上洛した利通は小松帯刀らとともに藩の財政を切り盛りする御小納戸頭取に就任する。
このとき名を一蔵から利通に改名。
1867年には西郷らと図り四侯会議を開催しようと画策するが徳川慶喜によってこの会議がつぶされると、公武合体から倒幕へと大きく政治スタンスを変えていく。
抜群の政治力に物を言わせて倒幕の密勅を引き出した利通は王政復古のクーデターで徳川幕府にとどめをさし、なお影響力を残そうとする慶喜に辞官納地をすすめるなど
政治工作では利通の独壇場であったと言えるだろう。
もっともそれは圧倒的なカリスマで薩摩武士の上に君臨する西郷隆盛の武力を背景にしたものでもあった。


だが1871年からの外遊で諸外国の列強を視察した利通は帰国して親友である西郷と正面から対立することになる。
いわゆる征韓論論争である。
韓国、ひいては清国と対立するには時期尚早であると考えた利通が強硬派である西郷を追放したと思われているこの征韓論だが、残念だがそんな単純な話ではない。
なぜなら西郷たちが下野した後、利通は韓国釜山で軍艦に空砲を打ち鳴らさせ、測量するなど韓国を挑発したあげく江華島事件を起こして謝罪と開国を要求しているのである。
その強硬姿勢からは西郷の征韓論を批判した姿をうかがうことはできない。

管理人は政敵江藤新平をはじめとする日本居残り組との単純な権力闘争であったのではないかと考えている。
そして西郷は利通を守るために自ら身を引いたのではないだろうか。
そうした意味でも西郷は情の人であり、利通はどこまでも理性の人だった。


1873年利通は内務省を設立、自ら初代内務卿に就任すると矢継ぎ早に学制、地租改正、徴兵令を実施していく。
富国強兵を主張し殖産興業に力を注いだ。
江藤新平が佐賀の乱をおこすと待ってましたとばかりに自ら兵を率いてこれを撃滅。
元参議江藤は斬首にされる。
江藤が挙兵する前からすでに討伐命令を作成するなど利通らしい血も涙もない謀略であった。

親友である西郷が西南戦争を引き起こしても利通はいっさいその態度を変えることなく黙々とその討伐にあたった。
士族最大の反乱となった西南戦争では火力で圧倒的に優位にたつ政府軍が総合力で優位に立ち、一部の戦線では敗退することもあったが海軍力を持たない士族は補給が滞ると次第に
疲弊していく。
ある西郷の知己が西郷の死を情死と表現したが、西郷はまさに士族という行き場を失った武士と、そして残された日本を導いていく利通のために自分の身を犠牲にしたのであった。

西郷の死後、もはや大久保利通に対抗することのできる政治家はいなかった。
ただ一人対抗可能であった木戸孝充は西南戦争のさなかに病死してしまっていた。
官僚中心の霞が関行政の基礎を築いたのは間違いなく利通であり、同じ薩摩の盟友である西郷を平気で処断した利通は当時大村益次郎と並んで同じ藩の出身者を特別扱いせず孤高を貫く
数少ない政治家であった。
もし彼があと十年生きていてくれたなら、薩摩と長州で陸海軍が牛耳られ、西園寺公望や桂太郎、山形有朋といった元老に政治が壟断されることもなかったであろう。
初代総理大臣となった伊藤博文などは大久保利通の前では一書生のように震えあがったとも伝えられる。
のちに死んだ利通の遺産を調べたところ、国内のインフラ整備のために私財を投じており借金しか残っていなかったという。
利通は国家の将来へのビジョン、政治能力と組織力、また優秀な部下を育成する能力にまで恵まれている稀有の文官であった。
十年の間に人材育成と官僚組織の充実が進み藩閥の解体が実現すれば太平洋戦争はなかったのではないか?
そんな可能性がもっとも高い政治家は大久保利通をおいてほかにない。
山本五十六とか永田鉄山などは瑣末な枝葉にすぎないのだ。


あと10年
利通はそう側近に語っていた。
自分がいなくては日本は列強に追いつくことはできない。
創業の10年は終わった。これからは殖産興業の10年であり、最後の10年で世代交代を実現する。
そんな理想を利通は前日福島県令山吉盛典に語っていた。

しかし明治天皇に謁見するため霞が関を出た利通の馬車を暗殺者6人が取り囲み馬の足を斬る。
そして御者を殺害後利通は馬車の外に引きずり出された。
もともと武術の弱かった利通である。
無礼者、と一喝すると泰然と書類を風呂敷に包み逍遥として暗殺者の白刃を受け止めた。
1878年5月14日、まだ47歳という若さで日本史上でも特筆すべき宰相は亡き親友の待つあの世へと旅立っていった。
暗殺者の計画は複数のルートから警視総監である川路利良の耳に入っていたが、戊辰戦争で何ら活躍のなかった石川藩士を利良が軽視したことは痛恨事以外の何物でもなかった。
その後の治安維持で手腕を発揮し、決して無能な官僚ではなかった川路利良のこの判断には魔がさしたのか、あるいは別の思惑があったのかと管理人は疑っている。
実際のところ自らの屋敷に明治天皇を招いた利通は不敬の輩として天皇を絶対視する複数の勢力に狙われていたのである。
事件後、政府の要人に護衛が配置されることが決定したが、すべては後の祭りであった。



第92代総理大臣麻生太郎はこの大久保利通の玄孫にあたる。
安部晋三総理とともに、麻生氏が先祖の名に相応しいご活躍をされることを、管理人は願ってやまない。
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