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土方歳三はロシアで生きていた?

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 管理人は新撰組のファンである。
 小さいころから望月三起也氏の「俺の新撰組」を貪るように読み、また司馬遼太郎氏の「燃えよ剣」のばらがき歳に憧れたものだ。
 ひるがえって坂本竜馬はあまり好きではない。
 というか大ぼら吹きの詐欺師がたまたま時勢に乗って悲劇的に死んだために過大評価されただけだと思っている。
 もちろん「るろうに剣心」で一番好きなキャラは斎藤一である。
 さすがに新撰組が「悪・即・斬」の組織だとは思っていないし(言葉自体は非常に格好いいコピーだと思っているが)彼らが幕府に殉じた最後の武士などとも思っていない。
 むしろかなり泥臭い田舎の成りあがり者が後先考えずに暴れまわった結果が新撰組の実情であったと思っている。
 それでも判官贔屓というものか、時勢に逆らい滅んでいった新撰組には日本人らしい共感を覚えずにはいられないのである。

 さて土方歳三といえば新撰組の鬼副長であり、烏合の衆であった新撰組を曲がりなりにも軍事組織に育て上げたオーガナイザーとしても知られている。
 多摩の豪農の10人兄妹の末っ子で石田散薬の行商を商いながら剣術修行に取り組んだと言われているが、現代的にははっきりと親のすねかじりの半ニートである。
 しかも厨二病も発病していて少年のころから俺は武士になる!という少々痛い子でもあったらしい。
 ところが時代はそんな彼に京都という大舞台で念願の武士となる道を用意していた。

 愛刀は和泉守兼定、道場剣術には弱かったが実戦では無類の強さを発揮したとも言われる。
 しかし新撰組でもっともはやく刀に見切りをつけ、近代戦術をとりいれようとしてもの土方であった。
 悪名高い局中法度は彼によって草案され、士道に背くまじきこと、違反は切腹などという苛烈な統制はまさに鬼副長の面目躍如といったところであろうか。
 管理人は新撰組最強は道場剣術なら永倉新八、実戦なら近藤勇だったと考えているが(正直敵対関係にあった阿部十郎が剣聖榊原謙吉より上だというのだから否定する言葉が見つからない)
部隊を指揮する戦術能力で土方の右に出るものはいなかったと思う。
 逆にいえば土方しか部隊戦術を理解していなかったために戊辰戦争において新撰組は碌な活躍が出来なかったのではないかと思うほどだ。
 実際に土方は大鳥圭介とともに宇都宮要塞を陥落させ、五稜郭戦争でも二股口を守備する土方の部隊は連戦連勝であった。
 松前口が敗れたためにやむなく五稜郭に帰還したものの、土方の武名は大いに上がっていた。
 そして明治2年5月11日、一本木関門で政府軍を迎撃した土方は関門で愛刀を抜き放つと、逃げるものは斬る、と大喝して突撃を命じた。
 序盤戦、土方率いる旧幕府軍は政府軍を押したものの、衆寡敵せず次々と退却した。
 後方には土方がいるはずなのにどうしてみんな退却していくのだろうと不思議に思った兵が確認したところいつの間にか銃撃を受けて死んでいたという。
 あまりにあっけない新撰組鬼副長の死であった。

 さてここで謎が生じる。
 当時新撰組といえば政府軍首脳にとっては自分たちの命をつけ狙っていた仇敵であり絶対に許すことのできない存在だった。
 局長であった近藤勇は切腹すら許されず打ち首にされその首はさらし首にされたほどである。
 にもかかわらず戦場を支配した政府軍は土方の首をとっていない。
 味方が回収した、という記述もないし、もし回収されていたなら函館政府閣僚唯一の戦死であるだけに何らかの対応があったはずだ。
 つまり土方の死体は敵にも味方にもその存在をくらませてしまったのである。
 ところが実際の一本木関門を見てみると柵などの防御施設以外は全くの平野であり山や川に死体がまぎれるということはありえない地形である。
 戦国時代のように首をとって手柄にする時代ではなかったが、逆に死体を野ざらしにして放置しておくようなこともなかった。
 埋葬する前に死体から身元のわかるものを記録した台帳も現存している。
 となると土方の死体が消えた理由がわからない。


 そこで登場したのが土方ロシア亡命説である。
 西郷隆盛がロシアに亡命したという説は当時から有名で、これがのちに大津事件を引き起こす原因となるのだが、土方歳三がロシアに行ったという話は管理人も初めて聞いた。
 だが土方の宿舎や軍資金を提供した豪商佐野専左衛門はロシアとの貿易で巨額の利益を得ており、彼の伝手を使えば当時函館に存在したロシア領事館に逃げ込むことも不可能ではなかった。
 そして土方は新天地であるロシアに脱出したのではないか?
 残念ながら特に根拠があるものではないらしい。


 荒唐無稽な都市伝説ではあるが、管理人の土方像から見て頷ける部分があるので書いておきたい。
 土方と言えば谷三十郎や武田観流斎を切腹に追い込むなどの苛烈な統制が有名である。
 最後の戦場となった一本木関門でも逃げる者は斬ると言い放ち、兵士たちは土方が自分たちを斬ることを疑わなかったことであろう。
 逃げることは士道に背く、そう味方には強要しながら土方は割と良く逃げている。
 近藤勇が戦うことを諦めたときも、一時は奪った宇都宮要塞を奪還されたときも、会津若松が陥落したときも、最後には味方を見捨てて新たな戦場へと逃亡しているのである。
 これは明らかなダブルスタンダードだ。
 つまり土方にとって士道とは味方を統制するための方便であって、土方の精神性は結局武士にはなれなかったではないだろうか?
 そうであるならば日本に身を置く場所も戦場もなくなった土方が海外を目指す可能性は大いにある。
 土方がいさぎよく立派に散ろうとなどという考えの持ち主なら、もっとも価値ある死に場所は会津若松をおいてほかにはなかったはずなのだ。


 もしかしたら何年か後にカムチャッカあたりで和泉守兼定が発見されたりするようなことがないだろうか。
 少なくとも味方も知らないうちに銃弾を受けて死亡していた、その後消息不明などという最後より、よほど土方歳三らしい都市伝説であると管理人は思う。
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