上 下
221 / 250

崇徳院VS竜神の拝み屋

しおりを挟む
 ディーナリアスは、国王陛下の元に行っている。
 私室には、ジョゼフィーネとサビナの2人。
 
「こ、国王陛下、だ、大丈夫、かな?」
 
 ディーナリアスがいない時、ジョゼフィーネはテーブルセット側のイスに座る。
 日本風かどうかはさておき、小さめの、ワッフルに似たお菓子と紅茶がテーブルには、置かれていた。
 けれど、今は手を伸ばす気になれずにいる。
 
「殿下が仰られておりましたが、危篤の報せがあれば王宮内が乱れます。今はそこまで病状は悪化されておられないと思われます」
「そ、そう……」
 
 少しだけ、ホッとした。
 ジョゼフィーネには、身内らしい身内がいない、と言える。
 実母は他界しているし、父や姉とは「身内」的なつきあいをしてきていない。
 むしろ、今ではディーナリアスやサビナのほうが距離感は近くなっていた。
 
「サ、ザヒナの……旦……こ、婚姻してる、人に、会ったよ?」
「パッとしない人でしたでしょう?」
「え、え……そ、そんなことない、と思う、けど……」
「近衛騎士隊長などやっておりますけれど、言い寄ってくる女性の1人もいないのですから、パッとしないのですよ」
 
 ジョゼフィーネは、ちょっぴり笑ってしまいそうになる。
 サビナのこれは、明らかに「ツンデレ」だ。
 ディーナリアスはわからなかったらしいが、ジョゼフィーネからすれば明らか。
 
 女性の1人も言い寄って来ないことに、サビナは安心している。
 オーウェンに言い寄る女性がいたらどうしようと、気にかけている証拠だ。
 いつも喧嘩をしていたというのも、素直になれなかったせいだろう。
 
 オーウェンのことを話題に出したので思い出す。
 ディーナリアスから「今は2人の子を育てている」と聞いていた。
 自分の侍女になったせいで、サビナは子供と一緒にいる時間が減っている。
 幸せな家庭を崩してしまってはいないかと、心配になった。
 
「こ、子育ては……?」
 
 ジョゼフィーネの心情が、顔に出ていたらしい。
 サビナが、にっこりと微笑んでくれる。
 
「元々、エヴァンが近衛騎士隊長をしているものですから、私たちは、王宮内の別宅で暮らしております。彼はともかく、私は転移ができますし、それほど離れているわけではありませんわ」
「さ、寂しく、ない、かな?」
「2人とも、今年で9歳になりました。親にベッタリする歳は過ぎましたね」
「ふ、2人、とも??」
「ええ、双子でしたの」
 
 ジョゼフィーネは引きこもりでやってきたし、人とのつきあいも避けてきた。
 さりとて、サビナの子供は、ちょっと見てみたい気がする。
 双子なんて見たことはなかったし、サビナとオーウェンの子供ならば、可愛いのではないかと思えた。
 
「落ち着かれましたら、殿下と2人で、いらっしゃいませんか?」
「い、いいの?」
「我が家は狭く、子供もうるさくしておりますが、それでも、よろしければ」
 
 こくこくと、うなずく。
 今までのジョゼフィーネからすると、考えられないことだが、彼女に、その自覚はなかった。
 ジョゼフィーネは、自分から「外」に出ようとしているのだ。
 
「た、楽しみ……ふ、双子、似てる……?」
「男の子なのですが、見分けがつきにくいほど、似ております。妃殿下は、双子をご覧になったことはございませんか?」
「な、ないよ。そんなに、似てるんだ」
「エヴァンは、時々、からかわれていますね」
 
 ということは、サビナは、ちゃんと見分けられているのだろう。
 やはり母親なんだなぁと思う。
 今世での母親が生きていたら、どんなふうだったかを考えた。
 とはいえ、生まれた時には、すでにいなかったので、わからない。
 
 ジョゼフィーネの母は、当時、26歳。
 子供を産むのに命の危険が伴う年齢と言われている。
 前世の記憶では、それほどの危険などない歳だと思われるが、この世界では違うのだ。
 いろいろ照らし合わせれば、体質自体が違うとわかる。
 
「わ、私……ちゃんとした、お母さんになれる自信、ないな……」
「私も、ちゃんとした母になれているかは、未だにわかりません」
「え……? そ、そうなの?」
「親になったのは、初めてですもの。なにが正しいか、判断がつきかねます」
 
 サビナが、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。
 
「妃殿下は、殿下との、お子を成すことを考えておいでなのですね」
「えっ? あ、あの……そ、そういう……」
 
 言われて、気づく。
 自分の子供ということは、彼との子供であるということなのだ。
 かあっと、頬が熱くなる。
 具体的に考えていたわけではないが、恥ずかしくなった。
 
「ですが、当面、殿下には黙っておかれたほうがよろしいかと」
「よ、喜ばない、から?」
「いいえ、逆です。喜び過ぎて、ぶっ倒れます。あんな図体で倒れられても、面倒ですからね」
 
 ジョゼフィーネは、まばたき数回。
 サビナが笑ったので、つられてジョゼフィーネも笑う。
 気持ちが楽になり、お菓子に手を伸ばした時だ。
 扉の叩かれる音がした。
 
 サビナの表情が、わずかに硬くなっている。
 それを察して、ジョゼフィーネも緊張につつまれた。
 立ち上がり、サビナは身構えている。
 が、ジョゼフィーネのそばから離れようとはしなかった。
 
「急ぎの用件でなければ、のちほど出直してくださいませ」
 
 扉の向こうが静かになる。
 それでも、サビナは動かない。
 目に険しさが漂っていた。
 その意味が、すぐにわかる。
 
 室内に、パッと3人の魔術師が現れたのだ。
 いずれもローブ姿だったので、魔術師で間違いない。
 動いたのはサビナが先だった。
 3人の足元から火柱が上がる。
 
 驚いて、ジョゼフィーネも立ち上がった。
 サビナに任せるのがいいのだろう、とは思う。
 ジョゼフィーネは魔術も使えないし、なにもできないのだ。
 
 火柱につつまれても、3人の魔術師は平気らしい。
 炎が消され、なにもなかったかのように魔術師が近づいてくる。
 3人から同時に、何かが飛んできた。
 手を振ったサビナの前で、氷の矢や黒い球、石のようなものが動きを止める。
 
 ジョゼフィーネには前世の記憶があったため、それが「属性」だとわかった。
 サビナは炎を使っていたので、そちら系統なのかもしれない。
 だとすると、水や氷系統は、苦手とする属性となるはずだ。
 その上、3人には炎に対する耐性がある。
 サビナのほうが不利に思えたのだけれども。
 
 ぶわっ!!
 
 強い風が3人に向かって吹き上げた。
 ローブに裂け目が入るのが、見てとれる。
 そこから血が滲んでいるのに気づいたのか、3人がサビナと距離を取った。
 その下がった先に、針のようなものが大量に飛んで行く。
 
(サ、ザビナ、すごい……強い……)
 
 3人が、一斉に飛んで逃げた。
 さりとて、けきれず、体に多くの針が突き刺さっている。
 さらに、3人の体から血が流れ出していた。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...