恐怖体験や殺人事件都市伝説ほかの駄文

高見 梁川

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宣伝のために海に流した小瓶が、ハイジャックから救った奇跡

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 奇跡的な偶然というのは確かに存在する。
 しかしこの話は、もはや奇跡という確率では済まされないように管理人は思う。



 かつてイギリスにジョン・パーミントンという人気作家がいた。彼の書く小説は評判も上々で、売れ行きも決して悪くはなかった。
 ある日彼が、最新作「海の英雄」を書き上げた時、この小説をもっと効果的に宣伝する方法はないものかとあれこれ考え始めた。
 そしてこの時彼が思いついた方法というのは、小説の一部を抜粋して紙に書き、それをビンに入れて海に流すという方法であった。
 流されたビンは海流に乗って色々な場所にたどり着き、国境を越えて多くの人々が読むかも知れない。
 まさしくロマンチックで夢のある宣伝方法である。
 小説の一部を入れたビンは全部で2000個ぐらい用意され、それぞれが海に流された。
 そしてこの、手の込んだ宣伝方法が効果を上げたかどうかはわからないが、最新作「海の英雄」は、確かにかなりの売れ行きを示したのである。

 そしてそれから16年後、偶然にも小説と同じ名前の「海の英雄号」は実在し、ポーツマス港から大西洋に航海に出ていた。
 この「海の英雄号」は、大西洋からマゼラン海峡を通過して太平洋へ渡り、そしてインドへと向かう予定であった。
 しかしこの航海中に大変な事件が起こってしまったのである。
 日ごろから船長と仲の悪かった、ある下士官の一人が謀反を企て、水夫たちと一緒にその船を乗っ取ってしまったのだ。
 船長や航海士の多くは殺され、船は航路を変更してアマゾン川をさかのぼることとなった。
 乗客数十名は人質としてそのまま連れ去られた。
 そしてところは変わり、この事件とほとんど同じ時刻、すぐ近くの海域ではブラジルの砲艦「アラグリア号」が航海中であった。
 午前8時、「アラグリア号」の水兵が、水温を調べるために海水にバケツをつけて水を汲み上げている時に、波に漂う小さなビンを発見した。何だろうと思い、ビンを拾い上げてみると中には小さな紙切れが入っていた。
 どうやら紙切れには英語で何か書いてあるらしいが、水兵は英語が読めない。
 そこで艦長に報告し、この紙切れを艦長に手渡した。艦長がその紙切れを読んでみると、「海の英雄号」からの緊急発信であった。

「船で反乱が起こった。私は奴らに殺されるかも知れない。一等航海士も船長も殺されて海に投げ込まれた。私は二等航海士であるが、船をベレンへ向けるために生かされている。至急救助願う。現在位置は〇〇。海の英雄号。」

 アラグリア号の艦長が確認を取ったところ、「海の英雄号」は、実在する船であることが分かった。
 メッセージに示されている現在位置もこの場所から近い。
「これは本物の救助信号だ!」
 アラグリア号の艦長はそう確信し、すぐに海の英雄号の救助に向かった。
 そして2時間後、海の英雄号は発見された。
 武装したハイジャック犯も、アラグリア号の乗組員は本職の軍人であるため到底敵わず、圧倒的な力でその反乱は鎮圧され、他の乗客も救助することができた。

「この、ビンに入った手紙を発見してすぐ救助に飛んできたんだ! いったい誰がこんな機転を利かせたんだい?」

 アラグリア号の艦長はそう言いながら二等航海士にその紙切れを見せた。
 だが当の二等航海士は、そのようなメッセージは書いた覚えがないという。書きたくても常に見張らていたので、手紙を書いてビンに入れるような余裕はなかったらしい。
 そこで生き残った者、全員に聞いても誰も見覚えがないという。他の乗客の命を救った大変なメッセージであるのに、結局誰が書いたのか、分からずじまいだった。

 だがそれから1年後、イギリス本国で叛乱を起こしていた一部の軍人は軍法会議にかけられていた。
 そこで事情聴取の過程で驚くべき事実が明らかとなる。
 手紙の送り主は、海の英雄号の乗組員の誰でもなく、16年前にジョン・パーミントンが、自分の小説「海の英雄」の宣伝のために・・あの時流した2000個のビンのうちの一つだったのだ。

 このビンが海流に乗ってブラジルの方まで流されていき、16年前に書かれた小説と全く同じ事件があった場所まで流れつき、そして小説のタイトルと実際の船の名前も同じ、そしてそのビンに入っていた小説の一部が救助を求める内容であったこと・・・これらの天文学的な確率ともいえるような偶然が重なり、海の英雄号は救助されたのである。

 この驚くべき偶然はイギリス本国でも報道され、大変な反響を巻き起こした。
 海に流した手紙に返事が返ってきた。そんな感動の秘話を管理人は幾度も聞いたことがあるが、16年後に大西洋を横断して同じ船名の「海の英雄」号を救うにはどれほどの天文学的な確率になるのだろうか。
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