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戦艦武蔵のその後

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    シブヤン海で航行中の武蔵。喫水線が深く沈没寸前であることが見て取れる。


 旧帝国海軍の大和型戦艦弐番艦武蔵……このところ艦隊コレクションという美少女育成ゲームで旧海軍の艦船名が知られてきたのはよいことなのか?
 まあ、管理人的にはありである。巫女風の衣装の金剛級の姉妹など思わず課金したくなる可愛らしさといえよう。
 とはいえ現実の帝国海軍は悲惨である。
 戦死率は陸軍を大きく上回り、管理人の大叔父も海軍に出征して戦死している。
 陸軍第二師団歩兵第弐九連隊としてガダルカナルに参戦した祖父は生きているにもかかわらずである。
 特に制空権を完全に失った大戦末期はひどかった。
 米軍のような射撃統制レーダーをもたない日本の軍艦は対空射撃指揮所から人力で発射を指令していたために、簡単に囮にひっかかり、無防備な死角を作り出してしまうのが常だった。
 しかも日本の機銃は米軍のようなベルト給弾式ではなく弾倉式であったために弾を入れ替えるのにしばしの時間が必要だった。
 もちろん弾倉も無限ではないから水兵が人力でエイホ、エイホと運んでいたので機銃掃射で水兵が戦死するとたちまち射撃が停止してしまう体たらくで会った。
 率直に言って日本の戦艦の対空能力は米軍のアトランタ級軽巡洋艦にすら及ばぬものであったのである。

 まあそれはともかく、世界戦史上もっとも多くの魚雷や爆弾を浴びたと記録されているのが帝国海軍の誇る戦艦武蔵である。
 レイテ沖海戦において武蔵は被害担当艦として味方を突入させるため米軍の攻撃機を一手に引き受け、実に魚雷20本、爆弾直撃17発、至近弾数知れずという被害を受けたにもかかわらず
一向に沈まなかったというモンスターぶりを発揮した。
 このときの教訓から米軍は次の大和攻撃において魚雷を左舷に集中させたと伝えられる。



 ところがここからが問題である。
 沈没の瞬間水蒸気爆発を起こした大和と違い武蔵は浮力を失うまで浮き続けており、すでに総員退艦して無人となった武蔵に無駄弾を撃つのも馬鹿らしいと思った米軍は見張りを立てて
いる間にいつの間にか沈んでいたらしい。
 これは米軍の公式記録にも残されている事実である。
 武蔵が海中に没したのを誰もその目で見ていないのだ。


 その後大和プロジェクトで海中に無惨な姿をさらした大和が発見され装備品の一部が引き上げられた。
 そして武蔵も引き上げようと言う企画が持ち上がった。
 しかし付近をソナーで探索しても武蔵らしい金属の塊すら発見されずに終わった。
 このころからある噂がささやかれ始める。

 大和型戦艦は非常に水密区画が堅牢でありなかなか浮力を失わない設計になっていた。
 そのため水中で浮力が釣り合ってしまい今も海流に流されるままにフィリピン沖を漂っているのではないかというのである。
 この都市伝説はかの松本零士先生も御存じなようで、超時空戦艦まほろばの中で武蔵の眠りを妨げるなかれ、と現在も墓標のように漂う武蔵が描写されている。
 近年でも漁をしていた漁船が大きな黒い塊が海中を進んでいったという目撃情報もある。
 現実にはいかに大和型の水密区画が堅牢であったとしても金属の腐食には耐えられず、現在も水中を漂っている可能性は皆無に等しいと思う。
 しかし戦後しばらくの間漂っていたという可能性はないとは言えない。
 もしもそうであるならば、いつかほぼ完全な姿で海底に眠る武蔵がフィリピン沖のどこかで発見される日が来るのかもしれないが、孤軍奮闘の末撃沈された武蔵の眠りが妨げられないことを願いたい。


※ 2015/3/2 ポール・アレン氏のプロジェクトにより水深千メートル以上の深海で武蔵の船体が確認された。サルベージすることは難しそうだが、この発見を喜びたい。
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