異世界転生騒動記

高見 梁川

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連載

番外編 小麦色の幼馴染

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 小麦色の幼なじみ


 短髪に髪を刈りこんだ小麦色の肌の少年がやってきたのはいつごろだったろうか。
 「ほな、行くでええっ!」
 「馬鹿! まだこっちの準備ができてなっ どわああああ!」
 「うっひゃああっ! 気持ちえええ!」
 少年は微塵の躊躇もなく、木の枝からロープを使って飛び降りる。
 日焼けした健康的な少年の足が、見る間にエルンストの目の前に近づいてきて――――。

 ゲシッ!

 見事にエルンストの下顎を捉えた。
 「ぐわっ!」
 脳を揺らされ、ぐらぐらと揺れ動く視界に平衡感覚を失ったエルンストは、どう、と後ろ向きに倒れこんだ。
 「悪い、悪い、ちょうど足場になりそうなところに顔があったからさ」
 「て、てめえ…………」
 エルンストは薄れゆく意識のなかで、無邪気な笑みを浮かべる少年を罵った。
 「エル兄! しっかりしてええ!」
 

 少年を連れてきたのは妙な口調の行商人だった。
 「あんちゃん、うちのセリーナと仲良うしてや!」
 「うちの姪の子なんだから、いじめたりしたらただじゃおかないよ?」
 「イエス! マム!」
 ギロリとリセリナおばさんに睨まれて断れる子供がいるだろうか?
 リセリナおばさんは、あの英雄ジーナ様の子でノルトランドでも指折りの戦士なのだ。
 正面からリセリナおばさんの命令を断れる人なんて、国王陛下くらいしかいないんじゃないだろうか?
 「うちがセリーナや! よろしゅうたのむわ」
 そういって手を差し出した少年は、元気で溌剌とした笑みを浮かべていた。
 目鼻立ちがすっきりしていて、人懐こそうな笑顔は、仲間でも人気が出るだろうな、と思えるものだった。
 その予想は確かにあたった。
 たちまちセリーナは子供たちの間で人気者になり、というかガキ大将となった。
 予想外であったのは、エルンストが考えていた以上にセリーナが悪戯っ子であったということだった。

 「おい、馬鹿、やめろ」
 「みんな! ミリアーナお姉さんを覗きにいくぞ!」
 「おおおおおおおっ!」
 街で美人の呼び声も高いミリアーナお姉さんの入浴を覗きにいくわ。
 
 「汚物は焼却……じゃなくて爆発だっ!」
 「うわっ! 汚ねえ!」
 「に、逃げろ! 糞まみれにされるぞ!」
 どこからか手に入れてきた馬糞を撒き散らすわ。
 
 「この畑のイチゴは私がもらったああ!」
 「甘ああああいっ!」
 「うめ、うめ」
 「ばか、こんなところ見つかったら……!」
 「こらああっ! 餓鬼ども! そこを動くな!」
 「ほら、やっぱり見つかったああああ!」
 鬼のような顔で農家のおじさんに怒られるわ。
 結局掴まった奴から芋づる式に見つけられた子供たちは、尻が痛くて座れないほどの折檻を受けた。
 それでもセリーナは懲りるということを知らないらしい。
 「さあ、次は何をする?」
 「お願いだから勘弁してくれ!!」

 ある日、そのセリーナが父親に連れられて外国へ帰るという話を聞いた。
 トラブルメーカーがいなくなって平和な日が戻るという安堵とともに、なんだかかけがえのない相棒を失ってしまうような寂しさをエルンストは感じた。
 「見送りくらいはしてやるか……」
 
 エレブルーの街からマウリシアへと伸びる関所で、手形の確認を待つ旅人の長い列。
 そのなかにいるはずの見慣れた小麦色の少年をエルンストは探した。
 ――――いない。
 あの目立つ金髪と小麦色の肌がどこにも見当たらないのだ。
 もしかしたらもうすでに旅立ってしまったのだろうか? 
 いや、関所の開門時間を考えれば、まだセリーナはここにいるはずなのだが……。
 「おーい! セリーナ!」
 ひどく心細い感覚に駆られてエルンストはあたりを見回す。
 「……友達甲斐のないやつやな。ここ、うちはここや!」
 聴き慣れた闊達で張りのある声に振りかえったエルンストは、硬直した。
 一目で見惚れた。
 大胆に肩を開けた上着に、ミニスカート。おそらくはウィッグであろう、ショートカットであった髪型はポニーテールに結いあげられている。
 どうしてこんなに可愛い娘に気がつかなかったのか! 
 いや、待て。これはセリーナのはずだ。つまり罠だ!
 「その顔、まだうちが女の子なん疑ってるやろ?」
 「これが疑わずにいられるか!」
 「ずうっと男やと思うとったもんなあ……なんでやろ? このままずっと男だと思われるの、いやだってん……」
 馬糞を平気で撒き散らすあのセリーナが、頬を赤く染めて俯く姿にエルンストは感動さえ覚えた。
 「すごく綺麗だ。今度来るときは最初から女の格好で来いよ」
 「ま、考えといたるわ」

 結局、翌年にセリーナはまた少年の姿で現れた。
 近所の悪童たちを引き連れていたずらして回るのも変わらんかった。
 ただ、帰るときだけはいつも着飾って見せつけてくるのも変わらなかった。
 セリーナの艶姿を自分だけが独占していることが、何ともいえずうれしかった。
 それでも水遊びのときに、セリーナにちゃんとツイテナイのを確認したのは内緒だ。
 それがエルンストにとって最初で最後の恋だった。


 「今でも思い出すぞ。俺のために着飾ってくれたあの可愛いセリーナの姿を見せてやれないのが残念だ」
 「うぎゃああああっ! エル兄のいけずぅ! バルドもはよう忘れてえええ!」
 「ぬぐぐぐ……だが、僕だってええ!」
 「バルドの阿呆!」

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