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10巻
10-2
しおりを挟む日向智樹は何と言うか、感覚派な奴だった。
見かけ真面目なくせに、中身は大雑把というか、なんというか……
フットサルの動きもそんな感じ。「なんであんな動きしたの?」と聞くと、返ってくる答えは大体「何となく」だった。
勿論それが良い結果に結びつく事もあるけれど、いずれにしても自分を省みる事をしないから、結果が次に活きる事は無かった。
まあ趣味のようなサークルだし、そこまでは……と言えばそれまでなのだけれど、じゃあ何のための練習なんだとか。負けっぱなしじゃやる気出ないとか、そう言う話にもなるもので。
結果、なんて言うか……俺は日向に好かれていないようだった。
(努力の方向性が違うんだよなあ)
俺から見るとそうなんだけど、本人にとっちゃ精一杯頑張っている。じゃあお前はどうなんだと結果を引き合いに出されると、やっぱ考え方が違うんだよなと思う。
過程の方が大事じゃね?
結果に結び付かなくても、努力の方向性が分からないままがむしゃらに走っても、何が良かったのか、悪かったのかを自分で把握出来ないなら意味がない、と思う。
まあ日向は、そんな風にぐちぐちと言いたくなるような、俺にとっては相性の悪い相手。
だからそいつの彼女がサークルに顔を出した時、正直言ってうんざりした。
別に彼女を連れて来るなとは言わないよ。
他の部員も連れてきて見学とかしてるしな。
でもなー、心象としては日向の彼女と聞いただけで関わりたく無かった。
まあだからこっちも簡単な挨拶だけして気配消してんだけど。
マネージャーの亜沙美が「可愛い彼女さん」何て褒め言葉を日向に言ったのをきっかけに、頻繁に連れて来るようになってしまった。
……面倒くせ。日向だけでも鬱陶しいのに。
とは言え関わる気が無いものだから、視界に入れないでいると、逆に変に意識するようになる。
(何か静かじゃね……?)
チラリと見ればコートの端で一人座って観戦しているようだった。
……別にどこで見ようと勝手だけど……遠くないか?
日向を見れば彼女の事は目にも入らないのか、別の部員と話し込んでいる。
(俺関係ないし……)
結局そんな光景を三日も見たら俺の神経は根を上げてしまって……
仕方がないので、それとなく「彼女さん」に近付いて、もっと皆の傍に寄ったら? なんて声を掛けてみた。
「気が散るみたいなんです……すみません。お気遣いありがとうございます」
困ったように笑う彼女に対して眉間に皺が寄る。
──なんであいつの都合に付き合ってんの?
そもそもあいつも見栄の為に呼びつけておいて、放置って冷たく無いか?
イラつき出す俺に静かな声で彼女さんが口にする。
「ご迷惑ですか?」
「……いや」
そんな事を思ってる訳じゃ無いけど……
もし日向に「彼女を放っておくなよ」とか言ってしまえば、俺のその言葉を盾に「他の部員から苦情があったから」とでも彼女に対して言い兼ねない。
俺と同じように、あいつも俺の事は嫌っているからな。
だから、
「……彼女さん、名前何て言うの?」
そんなあいつの都合に付き合うのが嫌だと思った俺は、それなら彼女さんと仲良くなれば、あいつに苦言を呈してくれるかもしれない、なんて単純に考えて。深く考えもせず三上さんに声を掛けた。
三上さんは段々と亜沙美や他の女子部員たちとも仲良くなっていき、自然とサークルに溶け込んでいった。
俺も少しずつ彼女と話すようになっていって、彼女は大分盲目的だなあ。と、かなり心配になってしまった。
「日向の一途なところが好きになったんだ?」
恥ずかしそうに話す彼女を見ては、いらっと顳顬に力が篭る。
「そんな人が自分を好きになってくれたらなあ……と」
はにかむ顔にむかつくのは何故だ。
一途と言えば響きがいいけど、結局どっちつかずの状態なんじゃないの?
腹立ち紛れに、じゃあもう幼馴染の子とは会って無いんだね? なんて、意地悪な言葉をぶつけてしまった。
この歳まで仲良くしている幼馴染と、急に距離を置くなんてありえないような気はしてた。
それでも心のどこかで、彼女から「うん」なんて嬉しそうな返事が返ってくる予感があったのと、そんな反応を聞いておきたい自分がいたから。
けれど彼女は曖昧に笑っただけで……否定はしなかった。
それを見ただけで俺は、
頭にカッと血が登った。
(何でだよ)
何で平気なんだ?
ずっと本命だった相手と、彼氏がまだ会ってるんだぞ。
しかも三上さんも、何でわざわざライバルの女に会ってやるんだよ。お人好し過ぎるだろ。
声を掛ける日向もおかしいが、応じる三上さんだって──
何で主張しないんだ……
(何で俺はこんなにイライラしてるんだ)
三上さんが笑ってるから。
……日向が好きだって。
一途で……いい奴だって。
一途イコールいい奴って訳じゃないだろうに。
付き合ってる彼女を不安にさせてる時点で……本当は日向は不誠実なんじゃないの?
はっと気づく。
でも多分それは……俺が三上さんに……日向に対して持って欲しい感情なんだって……
だからいつもこんなにイラついてたんだ。
一体いつからか、どうしてか、何て、自分でもよく分からないけれど……
(うあー、最悪……)
大嫌いな奴の彼女の事が……俺は好きみたいだ。
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