異世界転生騒動記

高見 梁川

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8巻

8-3

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「ではレイチェルよ。もはや王宮に汝の居場所はない。どこへなりと落ちるがよい。ただし、せめて己に恥ずかしい真似だけはやめておけ」
「御忠告、感謝いたします。元老様」
「――慣れぬ裁判に疲れたであろう。しばし休息を取ることを許す」

 元老の一人はレイチェルの頑固がんこぶりに苦笑しながら、使者をマーガレットのもとへ走らせたのだった。




 マーガレットがひそかにレイチェルを保護するのと時を同じくして、ウィリアムはアントリム辺境伯領を目指し馬を駆った。
 今回レイチェルが被った汚名は致命的である。
 まともな人間であれば、レイチェルと言葉を交わすことさえ忌避きひするだろう。
 オーガストはいずれリッチモンド公爵こうしゃく家を継ぐ男であり、レイチェルに味方するということは、彼を敵に回すのに等しい。
 生まれてから何ひとつ不自由なく王女として育てられたレイチェルが、誰の援助もなく暮らしていくことは不可能である。
 そんなレイチェルを助けられる人物を、ウィリアムは一人しか知らない。
 不眠不休でウィリアムは駆け続け、三頭の馬を潰した。
 襲い来る睡魔すいまと戦いながら、ようやく見えてきたガウェイン城に向け、ウィリアムは最後の気力を振り絞る。
 全身を汗に濡らした馬に乗った、息も絶え絶えのウィリアムを、門番は警戒も露わに誰何すいかした。

「下馬して名を名乗れ! ここを誰の城と心得る!」
「ウィリアムだ。先触れのない訪問はびる」
「……こ、これはウィリアム殿下!」
「バルドに取りついでくれ、頼む!」

 今にも倒れそうなウィリアムの懇願こんがんに、門番は慌ててバルドのもとへ使いを走らせた。


「――いったい何があった? ウィリアム?」

 ウィリアムがアントリムにやって来るだけでも珍しいのに、一人で、しかも疲労困憊ひろうこんぱいしていると聞いてバルドは慌てた。
 絶対に深刻な問題が発生したに違いない。
 バルドの姿を認めて、ウィリアムは地面に額を叩きつけるようにして土下座どげざした。

「頼む! 俺にできることは、この命に代えてなんでも言うことを聞く! だから、どうかレイチェル姉様を迎えてやってくれ!」
「な、何を言ってるんだ? ウィリアム?」

 ウィリアムは気さくな性格であるとはいえ、王族である。
 いきなり土下座するなど王族の沽券こけんに関わるし、それほど安い頭を持った男ではなかった。
 立場はどうあれ、バルドはウィリアムを友人だと思っている。
 いささかシスコンの気があるが、頭が柔らかく信義を大切にできる人間は、王族と貴族を問わず貴重だ。
 だからこそいろいろ秘密の多すぎるアントリムを、バルドはウィリアムに託すことに決めたのである。

「ちょっと待て……レイチェル殿下に何があった?」

 聞き違いでなければ、今ウィリアムは、レイチェルを迎えてやってくれ、と言った。
 正直なところ獣人の血統を公表した時点で、レイチェルとの結婚はかなり難しくなったとバルドは思っていた。
 祝勝会での演出はあからさまではあったが、バルドとレイチェルの関係は、おおやけには発表されていない。
 だからレイチェルがとばっちりを食うことはないだろう、とバルドは考えていたのだが、想定外の事態が起こったのだろうか。

「レイチェル姉様は――お前への純情を貫くために、父上からのオーガストとの婚約命令を断った。正確には、オーガストを婚約者として愛していないと法務元老院に訴えでた」
「なんて無茶を……!」

 まさかレイチェルにそんな非常識な決断ができたとは。
 心のどこかで、バルドはレイチェルの育ちの良い人当たりに安らぎを覚えていた。
 それはマゴットをはじめとする周囲の女性陣が、あまりに苛烈かれつしんが強かったからだが、レイチェルにもそんな激しく戦う矜持きょうじがあることを、バルドは初めて知った。
 感情はどうあれ、レイチェルがウェルキンの言うことに正面から逆らうとは思ってもみなかったのだ。

「――もう姉様は王族ではない。ただの平民だ。身分も、財産も、政治力も何ひとつ持ってはいない。あるのはただ、お前への愛情だけだ」

 何も持っていないだけではない。
 国王に逆らい、十大貴族のリッチモンド公爵家に喧嘩けんかを売ったも同然のレイチェルは、マウリシアで暮らす者にとって疫病神やくびょうがみに等しかった。
 彼女を守ることができるとすれば、マウリシア王国に留まらぬバルドをおいてほかにない。

「頼む。もうお前にしか頼めないんだ。今はマーガレット姉様が保護しているけど、いつまでも王宮に置いておけないし、マーガレット姉様自身の縁談もある」

 実はマーガレットには、ハウレリアの新国王ジャンの王太子、アンリとの縁談が持ち上がっていたのである。
 アンリにはすでに妻がいるが、まさかジャンが国王になるとは思ってもみなかったため身分が低く、将来の国王に相応しい正室が求められていた。
 相手も乗り気であることから、この婚姻が成立する可能性は高い。
 戦役に敗北し、復興に莫大な予算を必要とするハウレリア王家は、今まで以上にマウリシア王家との結びつきを高めようとしていたのだ。
 おそらくマーガレットがレイチェルをかくまっていられる時間はもう長くない。

「頼む! 俺にできることならなんでも言ってくれ! お前に見捨てられたら、姉様は……!」

 ただの平民になったレイチェルが世間に放り出されれば、たちまち悪党の食い物にされるのは確実であった。
 温室育ちの令嬢が、後ろ盾なしに生きていけるほど世間は甘いものではない。十中八九、レイチェルは悪党にだまされ娼館しょうかんに売られるだろう。
 これまで平民に落とされた貴族の令嬢は、ほとんどの場合そういう道を辿たどってきた。

「任せておけ」

 バルドには、そう答える以外の選択肢はなかった。
 ある程度ウェルキンから距離を置かなくてはならなくなるのはわかっていた。
 しかし、ここでウィリアムを怒らせるほうがよほど問題である。彼の協力なしに、アントリムの秘密をうまく取捨選択して引き継がせるのは不可能だからだ。
 それに、幸いリッチモンド公爵家のオーガストには貸しがある。

「ある意味、これでいろいろと問題が解決するかもしれん。計算のうちだとすれば、陛下も食えない男だな」

 心の底から嫌そうにバルドは顔をしかめた。
 この手の、女子供を操る謀略がバルドは好きではなかった。

「――どういう意味だ?」

 良くも悪くもウィリアムは武人であり、単純な性格をしている。
 バルドの言っている意味が少しも理解できず、首をひねるばかりであった。

「僕はトリストヴィーの王になる。そうした意味で、正室の座はシルクで動かない。レイチェル殿下をめとるのは立場的に難しくなってたんだよ」

 それにシルクやセイルーンたちほど、レイチェルとは心を通わせていない。

「将来トリストヴィー王国が復活し、サンファン王国、ノルトランド帝国、ハウレリア王国が連合すれば、大陸の統一連合体を構成することも夢ではなくなる」

 もちろんアンサラー王国を打倒すればの話だ。
 逆に言えばアンサラー王国しかマウリシア王国の対抗馬はいない。

「その中心で影響力を行使するためには、マウリシア王家は綺麗でいる必要がある。少なくともアンサラー王国を打倒するまでの間は、ね」

 既存の大陸秩序を破壊するのではなく再構築する。
 それはあくまでも現実を見据えた手段であった。滅ぼすか滅ぼされるかの全面戦争など、為政者が選択してよいはずがない。
 もしウェルキンがそこまで読んで落とし所を探っているのなら、真実恐ろしい男だとバルドは背中に冷たいものが走るのを覚えた。

「何より、このままレイチェル殿下を放っておかない人をもう一人忘れているよ? しかもその国は今、喉から手が出るほど僕との接点を欲しがっているはず」
「ああっ! ベアトリス姉様かっ!」

 遅れてウィリアムも気づく。
 妹を愛するノルトランド帝国皇太子妃ベアトリスが、このままレイチェルを放置しておくはずがなかった。
 謀略系美女の彼女が、この機会を逃すわけがない。
 今やバルドは獣人族の希望の星であり、少なからぬ獣人がバルドのもとにつどおうとしている。
 その影響は、隣国ガルトレイクにも及びつつある。
 なんとしても将来のために繋がりを持ちたい。
 しかし適当な相手がノルトランド王家にはいなかった。
 二人いた王女はすでにどちらも嫁いでしまっており、見目良い養女をとって送り出そうかと考えていた矢先であったのである。
 レイチェルをノルトランド皇帝の養女にすれば、一石三鳥で全てが解決するはずであった。

「賭けてもいいけど、すぐにベアトリス殿下から使者が来ると思うよ?」
「俺もそんな気がする」

 張りつめていた緊張がけて、ウィリアムはがっくりと腰を下ろした。
 このところレイチェルの件で心労が重なっていたうえに、徹夜で馬を飛ばしてきた疲労はすでに限界を超えていた。

「――悪いが少し寝るぞ」
「ゆっくり休みな。起きたらいろいろと協力してもらうことになるだろうから」

 バルドの予想通り、ベアトリスから使者がやってきたのは四日ほど後のことであった。
 ノルトランドからの距離を考えればあまりに早い反応である。

「……それが、前もって王太子のリチャード様がベアトリス殿下に知らせていたらしく」
「ほう……王太子殿下が」

 使者の言葉にバルドは頷いた。
 父親に忠実で影の薄い男だが、肉親の情は厚いのだろうか?
 これまで特に接点がなかった王太子の姿を、バルドは脳裏に思い浮かべる。温厚そうな笑みをたたえながら、どこか茫洋ぼうようとして内面を見せない風貌をしていたはず。

「殿下のお考えでは、レイチェル殿下を教唆きょうさしたのはリチャード様であろう、と」
「最初から計算通りだと?」
「そのようで」

 思っていたよりリチャードという存在は、警戒すべきなのかもしれない。
 バルドは王太子への認識を新たにした。

「それと、アントリム卿に殿下から伝言が」
つつしんでうけたまわろう」
「公平なローテーションが夫婦円満の秘訣だと」
「そっちの話かよ!」




「――まったく、忙しすぎて身体の休まる暇がないぜ」

 そうぼやいたのは、犬耳を持つトリストヴィーの海運商人アウグスト。
 隣では、愛人カトリーヌがアントリムの街並みに目を見張っていた。

「随分とにぎわっておりますのね。辺境でこれほどの都市を見るのは久しぶりですわ」
「甘くていい匂いがするの~~!」

 秘書ラウラのほうは、どうやら色気より食い気のようだ。
 陽気な海の男らしい笑みを浮かべながらも、アウグストは油断なく周囲を観察していた。

(もったいねえ……せっかくここまで育てた街なのによ……)

 果たしてバルドがいなくなっても、このアントリムは賑わいを維持できるだろうか?
 バルドが根付かせた産業は残るだろう。
 しかしバルドがトリストヴィーで同じことを始めれば、競争で不利になるのは確実である。

(いや、地の利があるか。ノルトランドともハウレリアとも貿易できるこの地は貴重だ)

 この地をマウリシア王家が手に入れるメリットは思ったより大きそうだ。
 将来ここに兵力を常駐させれば、ハウレリアが弱体化した今、国内を監視する有効な予備兵力となるだろう。
 今後は代々、王子が世襲せしゅうすることになるのだろうな。

「それで、サバラン商会というのはどのあたりなのかしら? 以前もらったリンスとシャンプーをまた買いたいわ」
「最近はサバラン製の化粧水も流行はやってるのよ!」
「そうか。セリーナ会頭かいとうにお願いしてみるとしよう。ほら、あの建物だよ」

 商店街の奥まったところに、ひと際大きな石造りの建物がある。
 感じられない人が多いだろうが、明らかに手練てだれた者が身を隠した気配があり、その会頭がアントリム卿の婚約者であることを再認識させた。
 おそらくは護衛の数は五、六人ほどであろうか。
 辺境の商会を守るには場違いな戦力だが、アントリム卿の婚約者を守るためとあらば、まだ少ないほうかもしれない。


「おや、ガリバルディ商会の若様、直接おいでになるのはいつ以来でしょう」
「ロロナ殿、いつお会いしても美しい。あなたのためにガリシアの珊瑚細工さんございくを手に入れました」

 楚々そそとしたたたずまいのなかにますます色気を増した、サバラン商会の番頭ばんとうロロナは、アウグストの称賛しょうさんを軽く受け流した。

「美しいお連れですが、また新しくいたしましたの?」
「こ、これは手厳しい。私は決して不実な真似をしたわけではございませんよ?」

 カトリーヌの前に愛人にしていた女は、金を貯めてれた男と宿屋を始めたのだ。
 別に追い出したわけでもないし、目移りしたわけでもない。
 確かに一人寝がさびしくてすぐ愛人を探したが、アウグストの主観的に、それは不実な行動ではないはずであった。

「――年増としまじゃん。アウグストはこういうのも好みなの?」

 ピキリ。
 ラウラの毒舌に、ロロナのこめかみに青筋が走る。
 それを見て、アウグストは慌ててラウラの口を押さえ込んだ。

「そういう悪い口の子は、次からお留守番をさせるよ?」
「ふええっ? ごめんなさい! もう言わないから!」
「謝るのは俺にじゃないだろう」
「ごめんなさい。アウグストがめるから、つい……」
「よろしいのですよ? 私も最近若くないと感じることが多いのです」

 まったく内心を読ませない鉄壁の微笑である。が、ロロナもそろそろ本気で年齢が気になる微妙なお年頃ではあった。

「その辺で勘弁しとき」
「セリーナ会頭、助かります!」

 心底安堵したようにアウグストはため息をついた。
 スタイル抜群ばつぐんのロロナはアウグストの好みど真ん中なのだが、感情を読ませないポーカーフェイスだけは苦手なのだ。

「ま、長い付き合いやしな」

 アウグストのガリバルディ商会とは、ダウディング商会と組んで売り出す前からの付き合いである。
 セリーナからすれば、優良な顧客のなかでももっともなじみがあり、取引の信頼は高かった。
 取り扱い量が増加するに従い、海運に頼る部分はますます大きくなり、独自のガリバルディ商会とのパイプはサバラン商会にとっても貴重であった。

「今日はどないしたんや? まだ船団が出る時期やないやろ?」
「ああ、実は……」

 アウグストが口を開きかけた時である。

「ここにいるっていう領主の嫁、出てくるにゃ!」

 露出の多い活動的な衣装の少女が、サバラン商会の暖簾のれんをくぐった。

「まずいですって! お嬢!」

 お目つけ役らしい壮年の男性が困ったように少女の肩を押さえるが、少女は一向に止まる気配はない。

「群れなきゃ何もできない犬嫁より、私のほうがずっと役に立つことを教えてやるにゃ!」
「――その喧嘩けんかうたで!」

 もとより気の短いセリーナは、ドンと机を叩くと胸をらして立ち上がった。

「ふん、貧相な女やな」
「お、おっぱいが大きい女は頭が悪いっていうにゃ!」

 初対面のセリーナと巫女姫サツキの初戦は、まずはセリーナの圧勝であった。
 いまだ婚約止まりとはいえ、公私ともにバルドという恋人を得たセリーナは、今や女として大輪の花を咲かせていた。
 歩く姿勢や息をく仕草にすら、男の背筋をしびれさせるような色気が漂う。
 余談だが、その急激な女としての成長ぶりは、ダウディング商会の副会頭にのし上がったトーマス・フィリップスにも、甚大じんだいな影響をもたらしていた。

「せ、セリーナさん……ぼかぁ、ぼかぁ、もうっ!」
「落ちついてください! 誰が『ぼかぁ』ですか! せっかく副会頭になったんですから正気に戻ってください!」
「ごぶはぁっっ!」

 容赦なく平手打ちする秘書がいなければ、果たしてトーマスが理性を保っていられたかどうか。
 このところとみに男性受けが良いことに、セリーナ自身も満更ではなかった。
 何より獣人であることに多少なりコンプレックスを感じていたセリーナにとって、バルド自身も獣人の血を引いているとわかったことの解放感は大きかった。
 ――サツキとて、ひなにも稀な美少女であることは確かなのだ。
 しかし動きやすそうな実用一点張りの軽鎧姿に、おおざっぱに髪を後ろで束ねただけのサツキと、今や重要な輸出品となったトリートメントや化粧水を贅沢ぜいたくに使ったセリーナとでは、貫録かんろくが違いすぎた。
 それは、サツキでさえも認めぬわけにはいかぬ事実であった。

「で? わざわざバルドの嫁であるうちに、喧嘩を売りにきたんはどこの誰さんなんや?」

 余裕の笑みを浮かべるセリーナに、サツキは口をへの字にして主張する。

「――ガルトレイクの氏族うじぞくカゲツの巫女姫、サツキ・カゲツとは私のことにゃっ!」

 どやっ! と言わんばかりにサツキは胸を張った。
 確かにカゲツ家はガルトレイクの猫耳族で、もっとも尊いとされる巫女筋の家系である。
 が、当然のことながら、セリーナがそんな事情を知るはずもない。
 サバラン商会はノルトランドの販路を開拓しているが、ガルトレイクとは没交渉なのであった。

「そのサツキ・カゲツはんが何の用や?」
「へ……? 私、巫女姫……」

 名乗りがあっさりスルーされたことにサツキは困惑する。ガルトレイクでは母サクヤの雷名もあって、サツキを知らぬ者などいないのだ。

(なんであなたがここにいるの――っ!)

 一方、思わず叫ばなかったのが不思議なほどアウグストはうろたえていた。
 彼の構想では、ガルトレイクとの交渉は、バルドがトリストヴィーの国王として暫定ざんてい的な政府を作ってから――つまりバルドをマルベリーに迎え入れてから行うつもりでいた。
 まさかガルトレイクのほうから、しかも巫女姫などという切り札を投じてくるとは思わなかったのである。

(巫女頭サクヤの力量を読み間違えたな。こんなあっさりとバルドの存在を受け入れるとは思わなかった)
「ガルトレイクから遠路はるばるごくろうはん。で? いい加減うちに喧嘩を売った理由を聞かせてくれへん?」
「うう~~っ! お前みたいなやつが嫁とは、アントリム辺境伯とやらもとんだ色ボケなのにゃ! これなら私が試すまでもないのにゃ!」
「自分が色気ないからって、人のせいにするとか、お笑いやな」
「しゃ――っ!」

 全身の髪を逆立たせてサツキは逆上した。

「そんな子供みたいな華奢きゃしゃな手をして、お前なんか狩りも満足にできないくせに……!」
「は……? 狩り……?」

 はてなマークを頭上に乱舞らんぶさせるセリーナに、決まり悪そうにアウグストは解説した。

「ガルトレイクの猫耳族は、狩りで獲物を競う習わしがあるのですよ。より多くの獲物を狩ってくるのがよい嫁です」
「そのとおり! そこの犬耳はよくわかってるにゃ!」
「お嬢! ここは他国なのだから、もう少し言葉を控えてですね……ってぬわあ?」

 サツキについていた従者の一人が、アウグストを見て奇声を上げた。

「か、褐色かっしょくの若獅子――どうしてここにっ!」
「やだなあ、その若さゆえのあやまちっぽい渾名あだな、俺嫌いなんだけど」

 するとサツキが反応する。

「なんにゃ? その素敵な渾名は?」
「トリストヴィーの商船で、絶対に手出ししちゃならないって噂の凄腕すごうでですよ!」
「――私も巫女姫じゃなく、そういう渾名が欲しいにゃ」

 いきなり喧嘩を売られたと思ったら、何もなかったかのように渾名をおねだりである。
 思った以上にサツキという少女は子供であるらしい。

与太話よたばなしなら外でやれや、あほんだら!」

 セリーナがサツキは喧嘩の相手にあたいしない、と見捨てかけたときである。


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