異世界転生騒動記

高見 梁川

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7巻

7-3

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 午前中の稽古けいこが終わって、全身を汗と埃に塗れさせた少女は、お腹をかせて家へ駆け込む。しかし、すぐに待ちかまえていたリーシャにつまみ出された。

「ええっ? 何? どうしたのリーシャ母様!」
「そんな格好で奥様の前に出る気かい? とっととお風呂で身体を洗っておいで!」
「まだ沸かしてないよね?」
「当たり前だろう! とっととお行き!」
「は~~~~い!」

 冷たくなったお風呂の水を想像しながら、少女はとぼとぼと風呂場へと足を向ける。
 すっかり日に焼けてしまった褐色の肌を見て、リーシャは思わずため息を吐いた。
 このところまるで野性児となった感のある少女の変貌へんぼうに、リーシャは内心で戸惑いを隠せなかった。
 いや、こうなる素地そじはもともと十分にあった。
 よくよく思い返せば、少女にとって祖父に当たるヴィクトールも、若いころは野性児として腕白わんぱくのかぎりを尽くしたという。
 それにしても、一国の王女たる者を完全に野性児にしてしまってよいものであろうか。
 日々雄々おおしくなっていく少女に、リーシャは一抹いちまつの不安を覚えてしまう。

「まあ、今はそれでよいのだけれど」

 そう、将来のことなどはまだ先に考えればよい。
 今はただ、るべきもののないこの世界で、生き残ることだけが重要なのだから。


「やあ、真っ黒だね。ナイ」
「マールお姉様、綺麗!」

 湯あみを終えて居間に戻った少女を、輝くばかりの銀髪の少女が出迎えた。
 ――厳密には、非常に美しい少年である。ざっくりとしたショートカットの少女とは対照的に、腰まで伸びた美しい銀髪のかつらを被っている。
 まだ七歳とは思えない、しっとりした気品に満ちた少年の物腰に、少女はうっとりと頬を染めた。

「やっぱりマールお姉様は、お姫様だね!」

 困ったように首をかしげて、マールという愛称で呼ばれた少年――ナイジェルは、マルグリットに微笑んだ。
 この屋敷に来てから、二人の立場は逆転していた。


『実は本当の子はナイジェルのほうだったの。私のような側室が男の子を生んだと知れたらいつ殺されるかわからないから、リーシャに子供の取り換えを頼んだのよ』

 ダリアがマルグリットにそう説明したのは、この屋敷に着いて間もなくのことである。
 第一王妃のベルティーナに嫡子ちゃくしがない状況で、側室とはいえ伯爵家出身のダリアに男子が誕生することは危険すぎた。
 暗殺か毒殺か、いずれにしろ万難を排して殺されることは明らかであった。
 実際これまで王家に生まれた二人の男子は、いずれも生まれてひと月を過ごすことすら叶わなかったのである。
 一計を案じたダリアは、たまたま女子を出産していたリーシャの子と入れ替えることを思いついた――つまり、本当のダリアの子はナイジェルであり、マルグリットはリーシャの子だとうそを教えたのだ。
 よく考えれば穴だらけの話であった。
 守るべきがナイジェルなら、わざわざ狙われている王女にふんする道理はないし、ナイジェルがマルグリットより年上な時点で、そもそも時系列が合わない。
 ただ、マルグリットのほうがナイジェルよりはるかに発育がよいことから、マルグリットが実は年上という嘘に説得力がないわけではなかった。
 そして、何より大好きな二人の母――ダリアとリーシャの言葉を、マルグリットは素直に信じたのである。

「ナイ。マールは王子だと知られないように、女装することになったの」

 ダリアは優しく、の髪をでた。

「だけどラミリーズが守ってくれるから安心よ。これからも仲良くしてあげてね」
「うんっ! それじゃあ、私もを守るよ!」

 マルグリットは当然のように、自分の立場を受け入れた。もともと自分より、ナイジェルのほうが綺麗だと思っていたからなおさらであった。


 ニコニコと笑ってマルグリットはご機嫌である。
 着飾った美しいナイジェルを眺めるのが楽しくてしょうがないのだ。

「ほら、ナイ、ちょっとこっちに来て」
「どうしたの?」
「ここ、怪我してる。いくら強くてもナイは女の子なんだから」

 心配そうにナイジェルは、マルグリットの右手を水にひたしたハンカチで拭った。
 肌理きめこまかな吸いつくような肌のあちこちに、怪我とは言わないまでも小さな打撲だぼくの跡が刻印されているのをナイジェルは見つけた。
 ラミリーズはうまく手加減しているのだが、思っていた以上にマルグリットの上達が早いのだ。
 このままでは早晩そうばん、多少の本気を出さざるを得ないとラミリーズは考えている。
 もちろんそれは、子供相手としては、と注釈ちゅうしゃくがつくべき程度だ。しかしいずれにせよ、もういくらも経たぬうちにマルグリットは大人を相手にできる武力を身につけるはずであった。
 果たしてこの武才は天性のものか。
 ヴィクトールはトリストヴィーでも有数の武人であったが、個人的な武勇でマルグリットほどの才能があったとは、ラミリーズは思わない。
 体力、反射、勘の全てが高次元でよく整備されているマルグリットは、世が世ならば世界最高の武人として名を成すことすら可能であろう。
 生まれのためにそれは叶わぬ夢であると、ラミリーズはマルグリットの才を惜しんだ。
 とはいえ、生き残るためには何より力が必要である。
 それも、無理を押しとおすだけの圧倒的な力が。
 そのためにはいささかの甘えも許されぬとラミリーズは心に決めていた。
 もちろん、ナイジェルにそんな裏事情がわかるはずもない。
 ただ彼は愛しい妹分にして仕えるべき主を、気遣っただけである。
 大好きな兄に手当てされてご機嫌のマルグリットは、目を細めてされるがままになっていた。

「もっと強くなって、私がマールお姉様を守ってあげる!」

 マルグリットは本気でそう思っていた。
 理想のお姫様であるナイジェルを守るのが、リーシャの娘である自分の役割だと、無邪気に信じていたのである。

「うん……ありがとう」

 しかしナイジェルは知っていた。
 ただ一人、この狭い世界で真実を知らぬのはマルグリット一人だけ。
 守られるべきはマルグリット。
 君を守る最後のとりでは僕。
 祖母の代からパザロフ家に忠節と献身を尽くしてきた一族の血は、確かにナイジェルにも受け継がれていた。
 物心ついた日から、母リーシャに「その身はパザロフ家のために」と、擦り込まれるように言い聞かされてきた。
 わずか七歳であっても、いやあるいは七歳であるからこそ、ナイジェルはそんな自分の立場に何らの疑問を抱いてはいなかった。
 そのために、たとえ自分の命を落とそうとも――。

「あら、怪我をしたの? ナイジェル」
「こんなのかすり傷です! 奥様!」

 自分から言い出したことなのに、実の娘から奥様と呼ばれることに、ダリアは内心で忸怩じくじたるものを覚える。
 それでも表面上はおくびにも出さず、ダリアは優しくマルグリットの頭を撫でた。

「そう、ナイジェルは強い子ね」

 同時にその強さは両刃りょうばつるぎであることを、ダリアは知っている。
 それは間違いなく、比類ない戦士であった母ジーナから受け継いだ才能であろうからだ。
 この因習いんしゅう多きトリストヴィーにおいて、王族に獣人族の血が流れているなど醜聞しゅうぶん以外の何物でもない。
 本来ならマルグリットを、そうした武に近づけるべきではなかった。
 しかし侍女の息子ナイジェルとして、この先を生き抜いていくためには、その並外れた武の才が絶対に必要となる。
 ベルティーナの狙いはダリアとその娘で動かないが、腹いせでリーシャやその息子に矛先が向かないとは言い切れなかった。
 それにダリアという庇護ひごを失えば、リーシャたちは後宮から放逐ほうちくされ無職となるのである。
 自分で自分の身を守る力はいくらあっても足りるということはない。
 実際大人になるまで生き延びることができれば、マルグリットはたとえ国家を相手にしても十分にその身を守れるくらいになるであろう。
 ジーナの血が濃く出ているのだから、そのことに関してダリアはいささかも疑ってはいなかった。

「それじゃ悪いけれど、ナイジェルは席を外してもらえるかしら。これからマルグリットにはお習いごとがあるのよ」
「……わかりました」

 目に見えてがっくりと肩を落とすマルグリットに、ナイジェルは優しく微笑む。

「あとで絵本を読んであげるから待っておいで」
「ありがとう! マールお姉様!」
「ではついてらっしゃいマルグリット。今日はお作法の勉強よ」

 幸いにしてダリアたちは、ほとんど誰の目にも触れずにひっそりと暮らしている。
 一年、二年と姿を現さなければ、成長した子供の姿など誰にも想像できないはずだ。
 ましてはっきりと人の目をくナイジェルの美貌である。銀髪という特徴が加われば、しばらく見ない間に王女はなんと美しく成長したのだろう、と他人は考えるはずであった。
 そしてナイジェルが王女マルグリットであると強く印象づけるために、王女として相応しい教養と立ち振る舞いを教えることは必須である。
 幸か不幸かナイジェルには、それに耐えうるだけの意志にも能力にも容姿にも不足はなかった。




 屋敷を守って直立するラミリーズに近づく影がある。
 それがよく見知った男であることを確認しても、いわおのごとく立ちはだかるラミリーズの姿に変わりはなかった。

「精が出るな」
「何の用だ?」

 半ば目的を察していながらも、ラミリーズの言葉は素っ気ない。
 男はラミリーズにとって戦友であり親友でもあるが、情は義に先んずるものではないのである。

「もうよさないか? こんな門番のような真似は」
「俺以外に務められる男がいるとは思えんがな」

 国王の寵愛を失った犯罪者の娘、しかも寵姫ちょうきに命を狙われているダリアを守れるのは真実、ラミリーズだけであった。
 王宮から派遣されてきた兵士程度であれば、とうの昔にダリアとマルグリットは殺されているはずであった。

「陛下からは、お前さえよければまた近衛の隊長に迎える、とのお言葉をいただいている。お前ほどの男がこんなところでくさっていくのが、俺には耐えられんのだ」
「お前らしくもないぞ。腐るというのはな、男がすじを曲げることを言うのだ、オルテン」

 親友の言葉にもラミリーズは揺るぎない。
 初めからオルテンの考えていることなどわかっていた。ラミリーズの実力を誰よりも評価し、ラミリーズもまた背中を預けられる自慢の親友なのだから。

「トリストヴィーには貴様が必要なのだ! アンサラー王国も我が国を狙っているし、貴族と平民の対立も激化する一方だ。貴様が戦場で必要となる日はきっと来る!」

 何より指揮官として兵を操る能力において、自分はラミリーズに及ばないとオルテンは考えている。
 宝石よりもまばゆい才能を持つ親友が、こんなところで用心棒まがいに甘んじているのがオルテンには許せないのであった。

「――何のために戦うというのだ? 出世のためか? 一部の貴族に好き放題させるためか?」
「そ、それは……王国のため……に」

 言葉は辛辣しんらつだがラミリーズの表情はどこまでも優しかった。

「すまんな親友ともよ。俺は思ってしまうのだ。あれほど国を思い、戦ってきたヴィクトール様に無実の罪を着せる国というのは、俺の剣を捧げるに相応しいのだろうか、と」

 オルテンの国を思う至情は誠であろう。
 しかし今のラミリーズは騎士であった昔のように、無邪気に故国を信じる気にはどうしてもなれないのである。
 オルテンはラミリーズの笑みのなかに、くことすらできない深すぎる絶望を見た。
 ――この男の決意を変えることはできない。
 返す返すも惜しい男だが、ここであえて筋を違えさせるのは、親友のなすべきことではなかった。

「せめて死ぬなよ。これはお前の親友としての頼みだ」

 ラミリーズが死ぬということはダリアたちを守る障壁がなくなるということだ。
 静かな自信とともにラミリーズはわらう。

「騎士の誓いを忘れたか? 守るべき者を背中に背負った我らは敗北することを許されんのだ」

 初めて騎士として命を受けたときの言葉を、ラミリーズは片時も忘れたことはない。

「そのとおりだ。そのとおりだが……未練だな」

 これほど騎士の理想を体現した男が、我儘わがままな悪女のせいで、不遇のままに命の危険にさらされている。
 その現実のやるせなさに、オルテンは寂しく口元を歪ませた。




 そしてさらに二年近い月日が経過した。
 夜の闇に紛れて、今夜も複数の刺客がダリアたちが眠る離宮へと足を踏み入れる。
 もっとも、護衛のラミリーズがすっかり刺客殺しとして有名になってしまったため、このところ訪れるのは、世間知らずのごろつきか他国人ばかりとなっていた。

「へっへっ……国王の寵姫か。殺すにしても楽しみたいもんだぜ」
「静かにしろ。ばれたらさすがにあのお方でもかばってはくれないからな」
「へいへい……世知辛せちがらいねえ」

 ため息とともに男は肩をすくめた。
 一度なりといえど、国王の寵愛を受けた側室が美しくないはずがない。どうせ殺すとしても、しかるべき役得があるはずであった。
 もっとも、それがリスクに見合うかどうかは別の話なのであるが。

「それにしてもこの屋敷、手薄すぎんだろ。王族の娘がいるって話じゃなかったか?」
謀反人むほんにんの血を引く娘だから誰も手を出さんのだとさ」
「へっ! その謀反人と一緒に殺しておけば厄介やっかいもなかったろうに」
「おかげでいいネタにありつけたじゃねえか」
「違えねえ」

 たかが女子供と護衛が一人と聞いていた彼らは、どこか危機感を欠いたまま屋敷の庭を無遠慮に進んでいく。
 もともとこうした任務で一番難しいのは、王族の住む城内に潜り込むことである。
 そのもっとも困難なはずの障害を、依頼者の手引きで突破していた彼らは、もはや任務が成功したも同然に思っていた。
 もちろんそれは、ただの思い上がりでしかなかったのだが。

「ん? 月が隠れたか……みんな足元に気をつけろよ?」

 つい先ほどまで煌々こうこうと足元を照らしていてくれた月が、見る間に分厚ぶあつい黒雲に隠されていった。
 城内に配置された常夜灯じょうやとうの数はそれほど多くない。
 まして誰からも見放された離宮など、ほとんど真の暗闇に等しかった。
 夜目に慣れたとはいえ、輪郭りんかくのぼやける視界に男たちが戸惑ったそのとき――。

「――死ね。奥様とマールお姉様を狙うごみどもに慈悲はない」

 もちろん、間抜けなごろつきに暗殺が達成できると思うほど黒幕もおろかではない。
 なんといっても離宮を守る相手はこの二年以上の時間を、ただ一人の犠牲者もなく守り通してきたのである。
 送り込んだ刺客のなかには変装した本物の騎士さえいた。
 にもかかわらずラミリーズは、揺るぎない巌のように彼らをこの世から彼岸ひがん彼方かなたへと送り込み続けていた。
 並みの戦力では相手にもならない。
 もしも親友のオルテンが命を受けたとすれば、正規軍の騎士を一個分隊と騎士隊長クラスの武力を持った指揮官が必要であると申告したであろう。
 それほどラミリーズという男の武力と冷静な判断力は脅威きょういなのだ。
 そんなラミリーズを相手に、街のゴロツキ程度ができることなど何もないのはわかっていた。


「ほう……久しぶりの本職の刺客のようだ」

 庭で始まった剣戟けんげきの音を聞き、すべるように屋敷に身を忍び込ませた刺客は、予想外の言葉にビクリと身を震わせた。
 男が驚くのも無理はない。
 この日のためにゴロツキばかりの襲撃を、すでに五、六度は繰り返させていた。
 いい加減油断するころであり、少なくともゴロツキの襲撃を想定していてしかるべきであった。

「あの程度の陽動ようどうが見抜けないようでは騎士隊長は務まらんよ」
「よいのか? あんなゴロツキどもでも奥方たちを殺すには十分だぞ?」

 あえて挑発するように刺客の男はわらってみせる。
 正面から戦って勝てない相手であることはわかっていた。
 しかしかなしいかなラミリーズの身体はひとつであり、あのゴロツキと目の前の刺客を同時に相手取ることはできない。
 正面から戦わず防御に徹すれば、自分でも時間稼ぎくらいはできると、男は静かに確信していた。
 いや、あせりに動きが鈍ったラミリーズならば、あわよくば倒すことも――。

「心配はいらん。どうせ一人残らず殺す」
「どうやって? 俺を放っていくつもりか? 俺はそれでも構わんが」

 不敵に嗤う刺客に、ラミリーズはただ哀れそうに笑みを浮かべるだけであった。

「――何がおかしい?」

 何かが狂っている。
 自分の想定とは違う何かが起きているのか?
 困惑しながら男がそんな思いをめぐらせたときである。

「かひゅっ!」

 ――男にとっては聞き慣れた、喉の頸動脈けいどうみゃくを切り裂いたとき特有の断末魔だんまつまが聞こえてきたのは。


 黒い小さなかたまりが、ゴロツキたちの背後から飛び出した。
 まるで狼の狩りを思わせる、荒々しくも洗練せんれんされた動きであった。
 何の抵抗もできぬまま、朽木くちきが倒れるように一人の男が崩れ落ちると、ようやくにして男たちは誰かに襲われているという事実を認識した。

「く、くそっ! 護衛か?」
「こ、こっちは十人以上いるんだ! 取り囲んでたたんじまえ!」

 仲間のかたきを討とうと右往左往うおうさおうするが、襲撃者を発見する前に、再び二人の男が音もなく倒れた。今度は脊髄せきずいに投げナイフが深々と突き立てられている。
 反撃らしい反撃もできぬまま、仲間が三人も殺されてしまったことに、ゴロツキたちは恐怖した。
 人を殺すことに忌避感きひかんは覚えなくても、自分たちが殺されるという危機感にはいたって敏感びんかんな連中であった。

「ひいいいっ! どこだ? 卑怯ひきょうだぞ、正体を現せ!」
「やばい……やばいよ。早く逃げたほうがいいんじゃ……!」
「馬鹿野郎! 土産みやげもなしに逃げ帰ったら、俺たちの命がねえぞ!」

 依頼主が王宮でもかなり地位の高い人物であることを男たちは承知している。
 もちろん、その黒幕がベルティーナであるとまではつゆにも知らないが、依頼に失敗した自分たちをただではすまさないであろうことは、容易に想像することができた。

「相手はたった一人だ! ちょいと傷でも負わせることができれば……!」

 腕でも足でもよい。
 わずかな怪我でも戦闘力を奪うには十分だと男たちは経験的に判断した。
 だがそれは、あくまでも彼らが街角で弱者を蹂躙じゅうりんするときだけに適応される理屈であった。

「……おとりだからって逃がしてもらえるとは思わないでね」
「まさか……こんな餓鬼がきがっ?」

 ようやく男たちは襲撃者の姿を捉えた。
 夜目にも鮮やかな金髪をたなびかせた可憐な少女。
 まだ六、七歳ほどの細みの身体に血のしたたるショートソードがあまりに不釣り合いで、男たちの眼を引いた。

「こ、この餓鬼……よくもっ!」

 男たちはささやかなプライドを刺激されたのか、恐慌から立ち直って少女を取り囲もうと動き出す。
 しかしすぐに、また一人の仲間が物言わぬ死体となったことに気づかされた。
 いつ殺されたのかすらわからない四人目の犠牲者に、このまま戦うべきか、それともはじ外聞がいぶんもなく逃げ出すべきか、彼らは迷う。
 そんな隙を黙って見逃す少女ではなかった。

「――私の後ろには奥様とマールお姉様とリーシャ母様がいる」

 困惑する男たちの真ん中に飛び込んで、少女はすれ違いざま剣を心臓に叩き込んだ。

「ぐはっ!」

 ――五人目。
 彼らのプライドも忍耐力もそこまでが限界だった。
 まったく戦いらしい戦いもできずに仲間の半数近くが殺されたのだ。このまま戦っても、残る半数もあっけなく殺される可能性は高かった。


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