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第二部 根を張り始めた私

領主様登場

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「やあ、皆さん勢ぞろいだね!」
 やたら、キラキラした声でスラッとした男性が部屋に入って来た。
なんというか、宝塚の男役的な身体にピッタリした服が似合う人だ。
何となく会ったことがある気がする。
どこで会ったのか思い出せないんだけど……!
うわあ、なんかもどかしい……!

「やあ、神殿長。申し訳ないね!私の養い子がここでお世話になっていると聞いたんだよ」
「そそその養い子とは……」
「おや!そこにいるじゃないか」
領主様はツカツカと私に歩み寄ると、両手を握って顔を覗き込んだ。
長いまつ毛と整った顔立ち。長い指。ふんわりといい匂いがする。ぽっと頬が熱くなった。今私は赤面しているに違いない。
「可哀想にマージョ。何の行き違いか分からないが、怖かっただろうね。もう私が来たから大丈夫だよ」

……すごい女たらしオーラだ!
なんでこの人、娼館なんかに入り浸ってるの?
お金なんか払わなくても女性の方が列を作って並びそうな美形なのに!

マッチョではなく、むしろ中性的な美しさだ。口にバラとかくわえてそう。

「いや、いきなりそんな事を言われても納得ができません。そもそも養い子の証もないではないですか」
「あれ、なかった?おかしいなあ」
領主様は首をかしげた。
「マージョ、なくしていないよね?この前あげた銀のスプーン」
「あ……はい!」


バグズブリッジでギルド長のフェリックスさんがくれたスプーンだ。見張りがついていたから、「ごはんの差し入れ」という形になっていたけれど、本当の目的はこのスプーンを私に渡すことだったんだよね。……っていうか、そうなんじゃないかな、と思ってた。説明されたわけじゃないけど。
銀のスプーンには 精巧な飾りが施されている。中心にあしらってあるのはキリングホール領主の紋章だ。
手にしてすぐに何かの身分証明に使うものだと分かったけれど、まさか養い子の証明だったとは。
これを渡すために面会をねじ込んできたのだな。

「大切に身につけてあります。ほらここに」
「いい子だ、マージョ」
「どうしてそれを早く言わなかったのだ」
神官長が怒鳴る。うん。気持ちはわかる。 平民の女の子を拉致したのと領主の養い子を勝手に神殿に連れてきたのでは 事態の複雑さが違うよね。 責任問題になるしねえ。
何と答えればいいのかよくわからなかったから、とりあえずアーロンのセリフを真似しておくことにした。

「えーと……聞かれなかったから、でしょうか」
「な……!」

絶句する彼を尻目に領主様はあくまでもにこやかだった。むしろ怖い。
「ということで12神殿会議を招集したよ」
「えっ……」
驚きの声は3人から上がった。神殿長、神官長、そして準神官長だ。
「古い規定だけどね。 領主にも12神殿会議招集要請権があるよね。」
「いや、でも この雪の中ですから 集まるかどうか……」
「うん。そう思ってちょっと早めに声をかけておいたんだよね。明日 みんなここに来るよ」
「な……!」
領主様は仕事が早かった。段取りができない人だとか思ってごめんなさい。
「それでね、 今日はもうここまでにしてもらってもいいかな。久しぶりに養い子とゆっくり話もしたいんだよ」
「あ!それでしたら 私の部屋にいらしてください」
白の間、かなり居心地良くなったんだよ。
そう思って声をかけたのに神官長は真っ青になった。
「いやいやいやいや!そういうことでしたらお二人には客間を用意しますから、あの、まずは応接間でごゆっくり……」
え? 私、今更、泊まってる部屋を動きたくないよ。神棚作ったし……!
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