異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第二部 根を張り始めた私

キリングホール本神殿

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キリングホールは大きな町だった。もちろん領都だから大きいだろうとは思っていたわけだけど。

東京を前世で知っている身としては圧倒されはしない。
「この世界にこんな大きな街が!」という驚き方だね。
バグズブリッジとはだいぶ規模が違うな?!っていう。

「なんだ、驚きすぎて声も出ないか、容疑者」
セシル卿が、ふん、と鼻を鳴らす。
「そうですねえ……」
でも、あんたがこの街を大きくしたわけじゃないよね。


と、思ったけど、言いませんでしたよ!
私には大人気おとなげがありますからね。

「な、なんだ、何か失礼なことを考えたな、容疑者?!」
セシル卿は変なところでカンが良い。
「口には出さなくとも心は自由と智慧の神アーロンも言ってらしたと思いますね」

そっけなく答えると「なんだ!ナマイキだ!容疑者のくせに!」と、怒鳴っていた。
……本当にこの人役職付きなの?!
金髪碧眼で、見た目は王子様風なのが余計イラっと来るな……。


本神殿に着くと小さな部屋に通された。 粗末なベッドと小さな机がある。客室というには粗末すぎるが、使用人の部屋と考えるには机が不釣り合いだ。
机の上には小ぶりの洗面器と水差し。水も入っている。凍りそうな温度だけれど、かろうじて凍っていない。
暖炉もあって、1束だけだけれど薪が置いてあった。
これは、平民の容疑者だということを考えるとそこそこの待遇だということだ。普通の、特に重要ではない客人に対する対応のような感じ。

「ここがお前の部屋だ、容疑者」

セシル卿は、私には明日神官が対応するとだけ言って部屋を出て行った。

長旅を終えて、今夜一晩はゆっくり休んで良いということか。
そんな事を考えながら暖炉に火を入れる。
周囲を見て回り、誰もいないことを確認してから スキルを発動させた。薪が一束ではとても足りない。 しかしこれ以上薪をもらえる可能性はとても低い。わずかながらも木材をいくらか入手し、薪の下にこっそりと加える。 これで少し長持ちするだろう。

寝台の上の寝具も薄い。
この世界だったら標準だけれど、私は、頑張って冬支度をしたのだよ。せめてもう少し暖かく……。
悩みに悩んでスキルでかぎ針編みのショールを一つ見つける。大判のもので、少しだけタバコの匂いがした。
前の持ち主がタバコを吸う人だったんだね。

匂いは嫌だけれど洗う暇も、手立てもない。
かぎ針編みなら、馬車の中でやっているのも同行の騎士さんたちに見られているし、それほど怪しまれないだろう。与えられた掛け布団の上にこれを載せて、コートも載せれば、相当暖かくなるはず。

夕飯は、小さな椀にシチューのようなものと、パンが部屋まで運ばれてきた。
部屋の外に見張りがいることに気づく。

そうか……。スキルを使ってもアーロンが出てこないと思ったけど……。話し声を聞かれるわけにもいかないものね。

部屋にあった洗面器に温かいお湯を出して顔や身体を拭き、下着類だけ手洗いする。暖炉の前の椅子にかけて乾かしながら、冷たいベッドに潜り込む。

今さらながら、生活魔法でお湯を出せるようにしてもらったことに感謝する。
アナスタシア、ありがとう……!
この熱湯入りジャムの瓶ゆたんぽがなかったら、この部屋は寒すぎてめちゃくちゃ気が滅入っていただろう。
凍りそうな水差しの水ではなくて、温かいお茶を飲めるのも、アナスタシアが生活魔法にちょっと色をつけてくれたからだ。

真冬のこんな時期に無理をして連れてこられたのだ。どう考えても面倒ごとの予感しかしない。

知らない町の知らない部屋で、知らない人のタバコのニオイがするベッドで目を閉じたら、突然涙が出てきた。
理由はわかってるけど、スキルを使った時、私はきっと、ほんの少しだけ、アーロンに慰めてもらえると思っていたのだ……。
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