135 / 172
第二部 根を張り始めた私
キリングホールまでの旅路
しおりを挟む
「おい、容疑者」
「お忘れかもしれませんがそれは私の名前ではありません」
「でも 容疑者なのは事実だろうが」
「セシル卿が男性であるのも事実ですが 私はセシル卿を『そこの男性』とは呼びません」
神官補と別れて3日目。私は絶賛セシル卿と戦っている。
キリングホールは、この地域の一番大きな都市だ。
領主様のお膝元でもある。
バグズブリッジからは、街道がかなりきちんと整備されていて通常で馬車で7日ほど。でも、いまは雪道なわけで。
春から秋までだと、水路という方法もあるのだけれど、今は川でさえ凍ってしまっている。
つまり、最低でも あと10日以上はこれが続く。
気が重いのは名前を覚えてもらえないからだけではない。 食事のまずさも大きな原因の一つだ。
夜は民家に泊めてもらうことが多いので、寒さも凌げるし、火も使えるのだけれど、神殿騎士たちは、そもそもあまり美味しいものを食べつけていないことがわかった。
干し肉をお湯に入れてふやかしたもの、とか。
カラカラのパンとか。
そんなものしか食べてない。せっかく火が使えるのに!
「メシ? 栄養が取れれば良いだろう」
って感じ。
神官補にもその傾向はあるけれど、神官補は甘いものが好きだから一緒に食事していて楽しい。
バグズブリッジで、神官補とお別れしたあとは、誰一人美味しいものを食べようという意欲がなくて、一緒にいて辛かった。
しばらくはお湯と干し肉と硬いパンの食事に耐えていたのだけれど、そのうちどうしても温かい物が食べたい欲に耐えられなくなって、ある日の夕食時、干し肉のお湯漬けを大きめの瓶に入れてもらった。
そこに干した野菜やオーツ麦を入れて手元の布物でぐるぐる巻きにする。
鍋帽子の応用だよ!
干した生姜とか、干したニンニクとか、鞄に入れてきて正解だった。
部屋の隅で食べているとチラチラと視線を感じる。
気になるよね。美味しい匂いがするもんね。
ちょっと手を加えただけだけど前よりずっと美味しくなった。
「おい、 容疑者、 何を食べているんだ」
「干し肉のスープ みたいなもんですよ。同じものを召し上がってるじゃないですか」
「いや、同じじゃないだろう。お前の方が」
「……私の方が何なんですか」
「……うまそうだ」
「味見してみますか」
「……容疑者から食べ物をもらうことはできない」
ですよねえ。
ていうかもともと、もうちょっとマシな食品を持って来ればいいんですよ。
「ちなみにこれは正確に言うなら干し肉のリゾットです。 干したにんにくで味をつけてみました」
「くそ……うまそうじゃないか。容疑者のくせに生意気だ」
「それ、容疑者関係あります?」
やんわりと言い返したら セシル卿はプイと馬車を離れ、どこかに行ってしまった。
残りの3人には話し相手もしてもらえないから、日中は薄暗い馬車の中でワードバンクを使って単語や例文を暗記したり、それに飽きたらかぎ針編みをしたり。
そんな日々に慣れ始めた頃、キリングホールに到着したのだった。
村を出てから 半月近く経っていた。
ちょっと痩せた。
「お忘れかもしれませんがそれは私の名前ではありません」
「でも 容疑者なのは事実だろうが」
「セシル卿が男性であるのも事実ですが 私はセシル卿を『そこの男性』とは呼びません」
神官補と別れて3日目。私は絶賛セシル卿と戦っている。
キリングホールは、この地域の一番大きな都市だ。
領主様のお膝元でもある。
バグズブリッジからは、街道がかなりきちんと整備されていて通常で馬車で7日ほど。でも、いまは雪道なわけで。
春から秋までだと、水路という方法もあるのだけれど、今は川でさえ凍ってしまっている。
つまり、最低でも あと10日以上はこれが続く。
気が重いのは名前を覚えてもらえないからだけではない。 食事のまずさも大きな原因の一つだ。
夜は民家に泊めてもらうことが多いので、寒さも凌げるし、火も使えるのだけれど、神殿騎士たちは、そもそもあまり美味しいものを食べつけていないことがわかった。
干し肉をお湯に入れてふやかしたもの、とか。
カラカラのパンとか。
そんなものしか食べてない。せっかく火が使えるのに!
「メシ? 栄養が取れれば良いだろう」
って感じ。
神官補にもその傾向はあるけれど、神官補は甘いものが好きだから一緒に食事していて楽しい。
バグズブリッジで、神官補とお別れしたあとは、誰一人美味しいものを食べようという意欲がなくて、一緒にいて辛かった。
しばらくはお湯と干し肉と硬いパンの食事に耐えていたのだけれど、そのうちどうしても温かい物が食べたい欲に耐えられなくなって、ある日の夕食時、干し肉のお湯漬けを大きめの瓶に入れてもらった。
そこに干した野菜やオーツ麦を入れて手元の布物でぐるぐる巻きにする。
鍋帽子の応用だよ!
干した生姜とか、干したニンニクとか、鞄に入れてきて正解だった。
部屋の隅で食べているとチラチラと視線を感じる。
気になるよね。美味しい匂いがするもんね。
ちょっと手を加えただけだけど前よりずっと美味しくなった。
「おい、 容疑者、 何を食べているんだ」
「干し肉のスープ みたいなもんですよ。同じものを召し上がってるじゃないですか」
「いや、同じじゃないだろう。お前の方が」
「……私の方が何なんですか」
「……うまそうだ」
「味見してみますか」
「……容疑者から食べ物をもらうことはできない」
ですよねえ。
ていうかもともと、もうちょっとマシな食品を持って来ればいいんですよ。
「ちなみにこれは正確に言うなら干し肉のリゾットです。 干したにんにくで味をつけてみました」
「くそ……うまそうじゃないか。容疑者のくせに生意気だ」
「それ、容疑者関係あります?」
やんわりと言い返したら セシル卿はプイと馬車を離れ、どこかに行ってしまった。
残りの3人には話し相手もしてもらえないから、日中は薄暗い馬車の中でワードバンクを使って単語や例文を暗記したり、それに飽きたらかぎ針編みをしたり。
そんな日々に慣れ始めた頃、キリングホールに到着したのだった。
村を出てから 半月近く経っていた。
ちょっと痩せた。
10
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
異世界でスローライフを満喫する為に
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる