異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第二部 根を張り始めた私

キリングホールまでの旅路

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「おい、容疑者」
「お忘れかもしれませんがそれは私の名前ではありません」
「でも 容疑者なのは事実だろうが」
「セシル卿が男性であるのも事実ですが 私はセシル卿を『そこの男性』とは呼びません」

神官補と別れて3日目。私は絶賛セシル卿と戦っている。

キリングホールは、この地域の一番大きな都市だ。
領主様のお膝元でもある。
バグズブリッジからは、街道がかなりきちんと整備されていて通常で馬車で7日ほど。でも、いまは雪道なわけで。
春から秋までだと、水路という方法もあるのだけれど、今は川でさえ凍ってしまっている。

つまり、最低でも あと10日以上はこれが続く。


気が重いのは名前を覚えてもらえないからだけではない。 食事のまずさも大きな原因の一つだ。
夜は民家に泊めてもらうことが多いので、寒さも凌げるし、火も使えるのだけれど、神殿騎士たちは、そもそもあまり美味しいものを食べつけていないことがわかった。
干し肉をお湯に入れてふやかしたもの、とか。
カラカラのパンとか。
そんなものしか食べてない。せっかく火が使えるのに!


「メシ? 栄養が取れれば良いだろう」
って感じ。
神官補にもその傾向はあるけれど、神官補は甘いものが好きだから一緒に食事していて楽しい。

バグズブリッジで、神官補とお別れしたあとは、誰一人美味しいものを食べようという意欲がなくて、一緒にいて辛かった。
しばらくはお湯と干し肉と硬いパンの食事に耐えていたのだけれど、そのうちどうしても温かい物が食べたい欲に耐えられなくなって、ある日の夕食時、干し肉のお湯漬けを大きめの瓶に入れてもらった。
そこに干した野菜やオーツ麦を入れて手元の布物でぐるぐる巻きにする。
鍋帽子の応用だよ!

干した生姜とか、干したニンニクとか、鞄に入れてきて正解だった。
部屋の隅で食べているとチラチラと視線を感じる。 
気になるよね。美味しい匂いがするもんね。
ちょっと手を加えただけだけど前よりずっと美味しくなった。

「おい、 容疑者、 何を食べているんだ」
「干し肉のスープ みたいなもんですよ。同じものを召し上がってるじゃないですか」
「いや、同じじゃないだろう。お前の方が」
「……私の方が何なんですか」
「……うまそうだ」
「味見してみますか」
「……容疑者から食べ物をもらうことはできない」

ですよねえ。
ていうかもともと、もうちょっとマシな食品を持って来ればいいんですよ。

「ちなみにこれは正確に言うなら干し肉のリゾットです。 干したにんにくで味をつけてみました」
「くそ……うまそうじゃないか。容疑者のくせに生意気だ」
「それ、容疑者関係あります?」

やんわりと言い返したら セシル卿はプイと馬車を離れ、どこかに行ってしまった。

残りの3人には話し相手もしてもらえないから、日中は薄暗い馬車の中でワードバンクを使って単語や例文を暗記したり、それに飽きたらかぎ針編みをしたり。

そんな日々に慣れ始めた頃、キリングホールに到着したのだった。
村を出てから 半月近く経っていた。
ちょっと痩せた。
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