異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第二部 根を張り始めた私

鹿肉の燻製は美味しいとはいえ

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もとはといえば、領主様がいけない。

 痛み止めが効くまで、神官補のそばについていると、訥々と話をしてくれた。
そうやって色々と神官補から話を聞いた今、私は、断言できる。


神官補が足を怪我したのも、私のお一人様冬至祭の予定が大幅に狂ったのも領主様のせいだ。

ピクニックのように、床にご馳走をならべ、神官補と差し向かいで冬至祭の夕食を食べることになったのは、ちょっと楽しくはあった。
それは認めるけど、神官補は痛い目にあったし、私だって結構怖い思いをした。
今だって深夜に目を覚ます羽目になったし、これからだって看護が待ってる。
領主様のせいだ。



「スタンピードランチの後、なぜか領主様は結局狩りをなさいましてね」

疲れ切った様子の神官補の声は冷ややかだった。
オレンジピールがものすごい勢いで消える。

相変わらず甘いものが好きなのね。
こんなに細いのに!

「ずいぶんと鹿肉を仕留められたようで、燻製された鹿肉が大量に神殿に届けられましてね」

はあ……。

「領民に分かち与えよということで、配達の仕事が私に振り与えられました」

……!

この、冬の時期に?
何を考えているの?!

「遠方の村はここまで遅くならなかったのですが、この村は私の管轄で、近い分後回しにしていたらこんな時期になってしまって……。それでも必ず冬至祭の日までに届けろということで……」

かなり無理な日程で、最後にたどり着いたのがヒルトップ村だった。
雪室に鹿肉を入れ、帰ろうと馬に近づいた時、結んでおいた手綱が緩かったのか、馬が突然反対方向に疾走したのだという。

「何か、動物がいたのかもしれません。驚いたのか怯えたのか……すごい勢いで走って行ってしまい……」

追いかけようと、暗がりの中を急ぐ中、足を滑らせて転んだのだという。

「普段は大人しい馬だという触れ込みだったのですが……」

神官補は顔をしかめる。

「……マージョさんが通りがかってくれなかったら……と思うとゾッとします」

私が通りかからなかったら、神官補は確実に凍死していた。
見つけたときの神官補の真青な唇を思い出す。

「……鹿肉は、冬至祭には、もう遅いかもしれませんが、新年には間に合うのではないかと思います」

確かにそれは、助かる家庭も多いだろう。肉が足りないというのはずいぶん村の人達も話していたからね。

これも……領主様の……
領民への心配り……なのでしょうかね?

「意図はそうなのではないかと推測されます。……ありがたいことです」

めちゃくちゃ棒読みだよ、この人。
領主様の気まぐれのせいで死にそうになった神官補の顔は能面のようだ。

大ごとにならなくてよかった。
トーマスさんがプレゼントを忘れなければ私があそこを通りかかることなんてなかったはず。

私がそう言うと、
「アナスタシアのご加護ですね」
と、彼は同意した。それから、申し訳無さそうな声になる。

「足にヒビが入っていそうですから、一月ひとつきは動けないと思います。本当に申し訳ありませんが」

そうですね。しばらくここで暮らすことになるかと。

足が治っても神官補がすぐに雪道を歩くのはなかなかハードルが高い。ヘタをしたら共同生活はもっと長くなるかもしれない。

私にとっても、神官補にとってもとんだ冬休みだ。

どうもキリングホールの領主様は根回しができないというか、段取りが悪いと言うか。
根っこにある発想というか、思いつきは悪くない……ような気がするんだけどな。

スタンピードランチで町の人達がてんやわんやになったのも領主様のせいだった。

そして、今、私が弱りきった神官補の面倒をみる羽目になったのも、領主様のせいだ。

本当に迷惑だ。

さらに言うならば。
痛みに耐えるように眉をひそめる神官補を見て……

なんか、この人、実は結構顔立ちが整ってる……?!
ていうか、妙に色っぽくない?!

などと、私が思わず感じてしまったのも……決して私のせいではなく……あくまでも領主様のせいである。


ひどいな、領主様。

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