異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第一部 綿毛のようにたどり着きました

神域

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保温調理は一度保温したら鍋まかせなので、思いがけず時間が空いてしまった。
「時間があるんだったら具入りのバオを作りたい!」
アリスちゃんが爆弾発言をする。

うーむ。できる。

材料はある。
「……よい考えです」

突然背後から男性の声がして、私はうひゃーと跳ね上がった。

「神官補……!どうして?」

「大変なことがあったと聞いて何か手伝えるかと、来たのですが……?」
ちょっと不服そうだ。

「あ、はい。それでは……」

そんなことを言うんだったら神官補にもあんまん作りを手伝って貰おう。
「じゃあ、材料を取りに行きますから天幕まで一緒に来てください」


……ということで一緒に天幕まで来たのですが。
あれですよ。
神官補が固まってます。

「マ……」
「マ?」
「マージョさん、こ、こ、これは……」

この人がこんなに取り乱しているところを見るのは珍しい。

「これは、天幕です……?」
まあ、ちょっと冷蔵庫でもあるけど。

「それはわかります!!」


……なぜに逆ギレ?
ていうか、冷蔵庫って知ってたの?

「マージョさん、ここ……ここ、神域が発生してますよ……」

は?

「ですから、この天幕、神域化してますよ!!」

はい?

「なんでわからないんですか?! この神々しい空気……」

「いやいやいやいや。神官補。からかわないでくださいよ~」

私が天幕に入ると「あーっ!」と神官補の叫び声が聞こえた。
「れ、礼もせずに入るとか、何事ですか?! まずは身を清めて……」
「いやいいやいや」

いや、だって、食材取りに行くのにいちいち宗教儀式してらんないですってば。
前世でだってやんなかったですよ、冷蔵庫を開けるたび祈るとか。

どう考えても神官補の勘違いだと思うんですよね~。
「だって神域ってそんなに簡単に発生させられるものじゃないでしょ」
「……私の勘違いという可能性も確かに……しかし……」

ブツブツ言い始めた神官補をなだめて、天幕の隅の方に隠しておいた餡をとり、作業テーブルに戻る。
小豆じゃないけど、似たような感じの豆を見つけて砂糖と一緒に煮込んでおいたんだよ!

あんまんを包みながらみんなでワイワイ話す。

「神官補が、天幕が神域だっていうの~」
「またまた~」
「神官補さまも冗談とか言うんですね」
みんなどっと笑う。

笑うよね。天幕が神域とか!

「大体、神域発生の条件って何なんですか?」

神官補はまだ呆然とした様子で、でも教えてくれる。
「百年以上前の記録では神に特に愛された四人の職人が丹精込めて作った捧げ物を新しい建物の四隅に配置したとされている」

……。
思わず私達は顔を見合わせた。

「神に愛された」
「よにんのしょくにん……」

神に愛されているかどうかはわからないけど、四人の職人……が、確かに丹精込めた飾りを捧げた……な……。
天幕は、確かに建物認定できるのかも……な……?

「いや、しかし、その時の記録には続きがあってな……!」
神官補は慌てて続ける。

「その新しい建物の中で聖人が一晩祈りを捧げることで神域は確立したという……まさか、あの天幕で祈りを一晩中捧げた人間がいるわけではないだろう?」

「オーウェンさん?!」

私達は顔を見合わせて叫んでしまう。

いや、あれほど聖人とかけ離れた人はいないけど……

「ほいほーい、なんだい、お嬢ちゃん?」

自分の名前を聞きつけてオーウェンさんがやってきた。

「まさか、とか思うんですけど……オーウェンさん、泊まっている間、ふしぎな経験をしたり、なんか、こう……お祈りしちゃったり……しました?」

「あー、祈った祈った! 夢かなんかわかんねーけど祈れって言われたから一晩中祈ったよ~」
カラっと言われて私と神官補は顔を見合わせる。

これって……。

「お……落ち着いてください、マージョさん」

どう考えても落ち着いてないのは神官補の方だ。
「と、とにかく神域が崩壊しないように四隅の捧げ物を固定しないと……」

「あ、そうそう、天幕の中のこの飾りなんだけどさ、棚のそばにあるもんで、頭にぶつかっていってーのよ。ちょっと他のところに移してもらいたいんだけど……」

私と神官補の目がオーウェンさんの右手に……

そこには鉄製の飾り物が。
ジョーさんの捧げ物だ。

あ。はい。


神域、崩壊しましたね?
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