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お針子さん

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目処がついたらもう、目的に向けて邁進するのみ、で、私達はさっさか自分たちの仕事に戻った。

副ギルド長とハンナさんはガラスペン関連の交渉をし、ジョーさんは夏雪草の焼印をみんなに手渡して帰っていった。
マルタさんは私に夏雪草の木版スタンプを2つくれた。
「たぶん、マージョさんには必要だと思う」と、ささやいて。

トーマスさんは色々な野菜を買い付けてきてくれた。
ヒルトップ村は農業の村だということもあるのだろう、良い目利きだった。
アリスちゃんと私はそういうわけで、ザクザクっと日持ちのしない野菜の下ごしらえをする。
スタンピードランチは3週間後。今漬けたらピクルス類もザワークラウトもギリギリ熟成が終わる。

村から持ってきた大きなガラス瓶をいくつも野菜でいっぱいにしてから、アリスちゃんには宿題を出し、私は街に出る。
お針子さんを探したいのだ。縫い物を頼みたいんだよ。


「お針子……ですか……?!」

私が尋ねるとベンさんはめちゃくちゃ驚いたような顔をしていた。

「いや、そりゃあ花区のあたりにいくつかありますが……女の人なのに行くんですか……」
「……女性は行っちゃいけないんですか?」
「あ、いや、そんなことはないですが……」

なにそれ、失礼じゃないですか。
女性だったら縫い物くらい自分でしろってこと?
私はちょっとプンスカした。

「とりあえず、場所を教えて下さい」
「あ、はい」

ベンさんはまだ驚いたような顔のまま花区までの行き方を教えてくれた。

花区は、宿屋街、飲食店街の奥の方にあった。真っ昼間なのでまだあまり人はいない。このあたり、夜になると酔っぱらいが多そうだな……。

針と糸の絵のある看板を見つけてドアをノックする。

「はい」
すこし気怠げな女性の声がしてドアが開く。リジーさんくらいの年齢のかなりきっちりお化粧をした女性だ。若く見えるけど、たぶん年はそれなりに行ってる。
「……何のご用?」

……あれ? なんか警戒されている?

「あ、あのお針子さんを雇いたくって……」
「雇うって、アンタが?」

あれ?
なんかめちゃくちゃジロジロ見られているんですが。

「はい」
「……どんなコ?」
「え?」
「どんなコがいいの? 仮縫いはどこの宿屋?」
「あ、仮縫いは、必要ないんです。そんなに複雑な仕事じゃないし、服でもないんで……。あの、仕事が早い人だったら誰でも……」

しどろもどろにそう言うと、女の人は突然大声で笑い出した。

「ふはははは! もしかして本気で縫い物の依頼に来たの?!」

えっ、だってお針子さんでしょ?!
縫い物を頼むんならお針子さんだよね?!
違うの?!
なにそれ、この世界独特の決まりとかあったりするの?!
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