上 下
80 / 164
第一部 綿毛のようにたどり着きました

バグズブリッジ街歩き

しおりを挟む

荷物を置き、宿舎のキッチンをゆっくり見せてもらう。
スタンピードランチの当日までここで仕込みをしたりできるんだ。実際の調理は広場でするようだけどね。

アリスちゃんは何もかも物珍しそうで目をまんまるにしてキッチンを見ている。農場の台所とはだいぶ違うもんね。

「それじゃあ、アリス、いい子にするのよ。マージョの言うことを良く聞いてね」
「うん!」

ある程度休んだところでリジーさんはアリスちゃんを抱きしめてお別れを言うと、ヒルトップ村へ帰っていった。

アリスちゃんはほんの少しだけ不安げだった。ま、そうだよね。

私とアリスちゃんはそこから街歩きだ。

7歳のアリスちゃんを一人で歩かせることに不安がないわけじゃないけれど、この世界ではもっと小さい子供も一人で歩き回っているのだ。実際にアリスちゃんが担うことになる仕事も多分、伝言だとか、お使いが多いはず。
危ないところや遠い距離はもちろん避けるけれど、一緒にいるのであれば仕事をしてもらわないわけにはいかない。
このあたりは同じくらいの年齢の徒弟の子と同じ。
だったらギルド近所の街並みや困った時に駆け込めるところをきちんと覚えておいた方がいい。

色々考えてそういう結論に至ったのだった。

まずは一緒に商人ギルドの場所を確認して、それから、ブルーベル工房へ向かう。

「すごい……人がたくさん」

アリスちゃんが気圧されたようにつぶやく。
ぎゅっと私のスカートを持つ手に力が入ってる。

そうだね。馬車の上の高い視点から見ている時と実際に街を歩いている時で感覚は違うよね。


「それでここを曲がると、ほら」


ブルーベルの花と小さい手綱の絵が描かれた看板がある。

「かわせいひん」

小さく描かれた文字をアリスちゃんが読む。うん。ちゃんと読めてる。えらいね。


「すみません、アナベルさんはいらっしゃいますか?」

声をかけるとアナベルさんがパタパタと奥から出てきた。


「あ、マージョさん! ちょうどよかった。足型ができてるんです!」

ええっ、二週間かかるって言っていなかった?


「そうだったんですけど、夏雪草乙女会の話をしたら、親方が、それじゃあ、そっちに集中してみろって言ってくれて……。これから1ヶ月は時間の余裕をもらえることになったんです」


なんと! すごい!!


「マージョさんの靴は大特急で作りますよ。だって、これからたくさん歩くことになるでしょう。それにいろんな人も見るだろうし……」

あ、そうか。

「はい。うまく行ったらこれが『マスターピース』になるかもしれないって言われました」


マスターピース。


能力があると親方マスターが認めた徒弟が満を期して作る作品だ。それが良い水準に達しているとなったら、他の同業者の親方が2名その出来を確認する。
みんながその技能を認めたら一人前の「親方」として自分の工房を持つことができる。

実際にはそこまで行くにはお金を貯めなくちゃいけないから、すぐに独立する人は多くはないけないけどね。

でも今の親方さんの所にとどまるにしてもずいぶん待遇も変わってくるはずだ。

「急いだのは、自分のためでもあるんです……」

アナベルさんは、ちょっと恥ずかしそうに言う。
え?

「マージョさんはこれからしばらくギルドに滞在されるでしょう? 靴が色々な人の目にとまることもあるかな……って」

……!

「図々しいでしょうか……」

「ううん! 全然!!」

アナベルさんすごい! うんうん、そんな感じの広告塔にだったらなっちゃうよ!
思う存分売り込むからね!


しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

こうして少女は最強となった

松本鈴歌
ファンタジー
 何やかんやあって母親に家を追い出されたマリア。そんな彼女があてもなく歩いているところに声をかけたのは冒険者の男、ウーノだった。  マリアを放っておけなかったウーノは一晩の宿と食事を与える。  翌日、ウーノはマリアを連れてマリアの母親のもとを訪れるが、返ってきた言葉は拒絶。行き場を失くしたマリアは昨夜のうちに約束を取り付けていた魔術師、ローザに住み込みで約1年、魔術の基礎と礼儀作法を習うこととなる。  そして10歳を迎えた年、貴族だらけの王立魔術学園(通称学園)に(授業料、その他免除で)入学することとなる。 ※落ちしか決まっていない、半分行き当たりばったりの話です。所々矛盾が出ているかもしれませんが、気づき次第修正を入れます。 ※一話1000字程度と短いのでお気軽にお読み下さい。 ※小説家になろうの方でも掲載しています。そちらはこちらの数話を1話に纏めています。 ※しばらくは不定期更新にはなりますが、更新再開しました(2019.3.18)。

処理中です...