80 / 172
第一部 綿毛のようにたどり着きました
バグズブリッジ街歩き
しおりを挟む荷物を置き、宿舎のキッチンをゆっくり見せてもらう。
スタンピードランチの当日までここで仕込みをしたりできるんだ。実際の調理は広場でするようだけどね。
アリスちゃんは何もかも物珍しそうで目をまんまるにしてキッチンを見ている。農場の台所とはだいぶ違うもんね。
「それじゃあ、アリス、いい子にするのよ。マージョの言うことを良く聞いてね」
「うん!」
ある程度休んだところでリジーさんはアリスちゃんを抱きしめてお別れを言うと、ヒルトップ村へ帰っていった。
アリスちゃんはほんの少しだけ不安げだった。ま、そうだよね。
私とアリスちゃんはそこから街歩きだ。
7歳のアリスちゃんを一人で歩かせることに不安がないわけじゃないけれど、この世界ではもっと小さい子供も一人で歩き回っているのだ。実際にアリスちゃんが担うことになる仕事も多分、伝言だとか、お使いが多いはず。
危ないところや遠い距離はもちろん避けるけれど、一緒にいるのであれば仕事をしてもらわないわけにはいかない。
このあたりは同じくらいの年齢の徒弟の子と同じ。
だったらギルド近所の街並みや困った時に駆け込めるところをきちんと覚えておいた方がいい。
色々考えてそういう結論に至ったのだった。
まずは一緒に商人ギルドの場所を確認して、それから、ブルーベル工房へ向かう。
「すごい……人がたくさん」
アリスちゃんが気圧されたようにつぶやく。
ぎゅっと私のスカートを持つ手に力が入ってる。
そうだね。馬車の上の高い視点から見ている時と実際に街を歩いている時で感覚は違うよね。
「それでここを曲がると、ほら」
ブルーベルの花と小さい手綱の絵が描かれた看板がある。
「かわせいひん」
小さく描かれた文字をアリスちゃんが読む。うん。ちゃんと読めてる。えらいね。
「すみません、アナベルさんはいらっしゃいますか?」
声をかけるとアナベルさんがパタパタと奥から出てきた。
「あ、マージョさん! ちょうどよかった。足型ができてるんです!」
ええっ、二週間かかるって言っていなかった?
「そうだったんですけど、夏雪草乙女会の話をしたら、親方が、それじゃあ、そっちに集中してみろって言ってくれて……。これから1ヶ月は時間の余裕をもらえることになったんです」
なんと! すごい!!
「マージョさんの靴は大特急で作りますよ。だって、これからたくさん歩くことになるでしょう。それにいろんな人も見るだろうし……」
あ、そうか。
「はい。うまく行ったらこれが『マスターピース』になるかもしれないって言われました」
マスターピース。
能力があると親方が認めた徒弟が満を期して作る作品だ。それが良い水準に達しているとなったら、他の同業者の親方が2名その出来を確認する。
みんながその技能を認めたら一人前の「親方」として自分の工房を持つことができる。
実際にはそこまで行くにはお金を貯めなくちゃいけないから、すぐに独立する人は多くはないけないけどね。
でも今の親方さんの所にとどまるにしてもずいぶん待遇も変わってくるはずだ。
「急いだのは、自分のためでもあるんです……」
アナベルさんは、ちょっと恥ずかしそうに言う。
え?
「マージョさんはこれからしばらくギルドに滞在されるでしょう? 靴が色々な人の目にとまることもあるかな……って」
……!
「図々しいでしょうか……」
「ううん! 全然!!」
アナベルさんすごい! うんうん、そんな感じの広告塔にだったらなっちゃうよ!
思う存分売り込むからね!
32
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。
異世界でスローライフを満喫する為に
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
道端に落ちてた竜を拾ったら、ウチの家政夫になりました!
椿蛍
ファンタジー
森で染物の仕事をしているアリーチェ十六歳。
なぜか誤解されて魔女呼ばわり。
家はメモリアルの宝庫、思い出を捨てられない私。
(つまり、家は荒れ放題)
そんな私が拾ったのは竜!?
拾った竜は伝説の竜人族で、彼の名前はラウリ。
蟻の卵ほどの謙虚さしかないラウリは私の城(森の家)をゴミ小屋扱い。
せめてゴミ屋敷って言ってくれたらいいのに。
ラウリは私に借金を作り(作らせた)、家政夫となったけど――彼には秘密があった。
※まったり系
※コメディファンタジー
※3日目から1日1回更新12時
※他サイトでも連載してます。
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる