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第一部 綿毛のようにたどり着きました
バグズブリッジ街歩き
しおりを挟む荷物を置き、宿舎のキッチンをゆっくり見せてもらう。
スタンピードランチの当日までここで仕込みをしたりできるんだ。実際の調理は広場でするようだけどね。
アリスちゃんは何もかも物珍しそうで目をまんまるにしてキッチンを見ている。農場の台所とはだいぶ違うもんね。
「それじゃあ、アリス、いい子にするのよ。マージョの言うことを良く聞いてね」
「うん!」
ある程度休んだところでリジーさんはアリスちゃんを抱きしめてお別れを言うと、ヒルトップ村へ帰っていった。
アリスちゃんはほんの少しだけ不安げだった。ま、そうだよね。
私とアリスちゃんはそこから街歩きだ。
7歳のアリスちゃんを一人で歩かせることに不安がないわけじゃないけれど、この世界ではもっと小さい子供も一人で歩き回っているのだ。実際にアリスちゃんが担うことになる仕事も多分、伝言だとか、お使いが多いはず。
危ないところや遠い距離はもちろん避けるけれど、一緒にいるのであれば仕事をしてもらわないわけにはいかない。
このあたりは同じくらいの年齢の徒弟の子と同じ。
だったらギルド近所の街並みや困った時に駆け込めるところをきちんと覚えておいた方がいい。
色々考えてそういう結論に至ったのだった。
まずは一緒に商人ギルドの場所を確認して、それから、ブルーベル工房へ向かう。
「すごい……人がたくさん」
アリスちゃんが気圧されたようにつぶやく。
ぎゅっと私のスカートを持つ手に力が入ってる。
そうだね。馬車の上の高い視点から見ている時と実際に街を歩いている時で感覚は違うよね。
「それでここを曲がると、ほら」
ブルーベルの花と小さい手綱の絵が描かれた看板がある。
「かわせいひん」
小さく描かれた文字をアリスちゃんが読む。うん。ちゃんと読めてる。えらいね。
「すみません、アナベルさんはいらっしゃいますか?」
声をかけるとアナベルさんがパタパタと奥から出てきた。
「あ、マージョさん! ちょうどよかった。足型ができてるんです!」
ええっ、二週間かかるって言っていなかった?
「そうだったんですけど、夏雪草乙女会の話をしたら、親方が、それじゃあ、そっちに集中してみろって言ってくれて……。これから1ヶ月は時間の余裕をもらえることになったんです」
なんと! すごい!!
「マージョさんの靴は大特急で作りますよ。だって、これからたくさん歩くことになるでしょう。それにいろんな人も見るだろうし……」
あ、そうか。
「はい。うまく行ったらこれが『マスターピース』になるかもしれないって言われました」
マスターピース。
能力があると親方が認めた徒弟が満を期して作る作品だ。それが良い水準に達しているとなったら、他の同業者の親方が2名その出来を確認する。
みんながその技能を認めたら一人前の「親方」として自分の工房を持つことができる。
実際にはそこまで行くにはお金を貯めなくちゃいけないから、すぐに独立する人は多くはないけないけどね。
でも今の親方さんの所にとどまるにしてもずいぶん待遇も変わってくるはずだ。
「急いだのは、自分のためでもあるんです……」
アナベルさんは、ちょっと恥ずかしそうに言う。
え?
「マージョさんはこれからしばらくギルドに滞在されるでしょう? 靴が色々な人の目にとまることもあるかな……って」
……!
「図々しいでしょうか……」
「ううん! 全然!!」
アナベルさんすごい! うんうん、そんな感じの広告塔にだったらなっちゃうよ!
思う存分売り込むからね!
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