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第一部 綿毛のようにたどり着きました
意思の儀式
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多分バグズブリッジのパン屋さんはどこもめちゃくちゃ忙しくなると思うのだ。そりゃあ、市が立つ日は多くの人が入ってくるからこの街は人の増減には、そこそこ強いと思う。
でも、冒険者の集団と領主一行が同時に動くなんてそんなにあることではない。
しかも領主は数日滞在するのだ。
私がパン屋さんだったらこのかき込み時をのがさずに領主一行に売りつけるよなあ。いつものお得意さんや契約もあるだろうし。
「どうなるかわからないけど、食べ物の値段が上がりそうだよね……」
「日持ちがするものは今年はあまり値崩れしなさそう……」
心配する職人女子たちの声を聞きながら、私は「とりあえず、予算は早めに出してもらおう……」と固く決意した。
ここはギルドとの交渉次第だね。買付も一月前の今からじゃ遅いかも、という気がしてきた……。
で、まあ、問題は山積みなんだけれど、とりあえずギルドにいるうちにやらなくてはならないのが意思の儀式だ。アーロンにも言われたしね!
お互いの個人情報を守ることや、契約を遵守することなどを意思の儀式で確認しておきたい。特に私に関してはな~。あんまり表に出たくないから。
細かいことは後で話し合って決めるとして、とりあえずはお互いを支え合う意志があると誓っておかないと。
「会ってすぐだから、決められないかもしれないけど……」
私が、口を濁すと夏雪草のみんなは笑った。
「わざわざ悪気を持って裏切ったりしないっていう約束でしよ」
「守れなくなったときは会に言うっていう項目を入れればいいよ」
「マージョさん、意外と心配性だよね」
なんか、みんな思いっきりが良い。
でもせっかくみんながその気になっているんだからと神官補にお願いをしに行くと、なぜかギョッとした顔をされた。
みんなに聞こえないようなヒソヒソ声で言われる。
「あんなことがあった後でオーロラの儀式をやろうと言うんですか、あなたは……?!」
えー。
あの後だからオーロラの儀式がしたいんじゃんね~。
無体なことをされそうになったら守ってもらえるってわかったし。
そんな顔をしていたら、私では埒が明かないと思ったのだろう。神官補は夏雪草のみんなに向き直った。
「オーロラの儀式は神聖なもので神罰が降る可能性もあるんですよ。わかっていますね?」
みんなウンウンと頷いている。
そんなのわかりきってます、という顔だ。
これは……
「情報が……漏れてる……」
同室にいたギルド受付のお兄さんが茫然と呟く。
神官補が私をジトっと睨んだけど、いや、これ、私が漏らしたわけじゃないからね!
「マージョさんのせいじゃないですよ」
アナベルさんが笑いを噛み殺したような顔で言う。
「ハーマンさんの奥さんです。愛想をつかして出ていったんだけど、ついでにダンナの悪口を言ってまわってるから……」
……あー。
そりゃあギルドの箝口令なんか効かないわ……。
「話半分に聞いてたんだけど本当だったんですね」
マルタさんがクスクス笑う。
「ノーコメントです!」
神官補はめちゃくちゃ不機嫌な顔をして、そう言うと、私達に儀式を施してくれた。
不満たらたらな顔をしていた割に、儀式のやり方は丁寧だった。
「マージョさんの情報は出てないですよ」
こそっとアナベルさんが耳打ちしてくれた。
「さすがのハーマンさんもそこまでは奥さんに言わなかったみたいです」
あ、そうか。
ハーマンさんだって口止めされてたんだもの、これ、ここまでの情報が外に出たこと自体彼の責任だよね……。
「……ということですね。マージョさんの情報がもれなくて良かった」
ほんとうに!
でも、冒険者の集団と領主一行が同時に動くなんてそんなにあることではない。
しかも領主は数日滞在するのだ。
私がパン屋さんだったらこのかき込み時をのがさずに領主一行に売りつけるよなあ。いつものお得意さんや契約もあるだろうし。
「どうなるかわからないけど、食べ物の値段が上がりそうだよね……」
「日持ちがするものは今年はあまり値崩れしなさそう……」
心配する職人女子たちの声を聞きながら、私は「とりあえず、予算は早めに出してもらおう……」と固く決意した。
ここはギルドとの交渉次第だね。買付も一月前の今からじゃ遅いかも、という気がしてきた……。
で、まあ、問題は山積みなんだけれど、とりあえずギルドにいるうちにやらなくてはならないのが意思の儀式だ。アーロンにも言われたしね!
お互いの個人情報を守ることや、契約を遵守することなどを意思の儀式で確認しておきたい。特に私に関してはな~。あんまり表に出たくないから。
細かいことは後で話し合って決めるとして、とりあえずはお互いを支え合う意志があると誓っておかないと。
「会ってすぐだから、決められないかもしれないけど……」
私が、口を濁すと夏雪草のみんなは笑った。
「わざわざ悪気を持って裏切ったりしないっていう約束でしよ」
「守れなくなったときは会に言うっていう項目を入れればいいよ」
「マージョさん、意外と心配性だよね」
なんか、みんな思いっきりが良い。
でもせっかくみんながその気になっているんだからと神官補にお願いをしに行くと、なぜかギョッとした顔をされた。
みんなに聞こえないようなヒソヒソ声で言われる。
「あんなことがあった後でオーロラの儀式をやろうと言うんですか、あなたは……?!」
えー。
あの後だからオーロラの儀式がしたいんじゃんね~。
無体なことをされそうになったら守ってもらえるってわかったし。
そんな顔をしていたら、私では埒が明かないと思ったのだろう。神官補は夏雪草のみんなに向き直った。
「オーロラの儀式は神聖なもので神罰が降る可能性もあるんですよ。わかっていますね?」
みんなウンウンと頷いている。
そんなのわかりきってます、という顔だ。
これは……
「情報が……漏れてる……」
同室にいたギルド受付のお兄さんが茫然と呟く。
神官補が私をジトっと睨んだけど、いや、これ、私が漏らしたわけじゃないからね!
「マージョさんのせいじゃないですよ」
アナベルさんが笑いを噛み殺したような顔で言う。
「ハーマンさんの奥さんです。愛想をつかして出ていったんだけど、ついでにダンナの悪口を言ってまわってるから……」
……あー。
そりゃあギルドの箝口令なんか効かないわ……。
「話半分に聞いてたんだけど本当だったんですね」
マルタさんがクスクス笑う。
「ノーコメントです!」
神官補はめちゃくちゃ不機嫌な顔をして、そう言うと、私達に儀式を施してくれた。
不満たらたらな顔をしていた割に、儀式のやり方は丁寧だった。
「マージョさんの情報は出てないですよ」
こそっとアナベルさんが耳打ちしてくれた。
「さすがのハーマンさんもそこまでは奥さんに言わなかったみたいです」
あ、そうか。
ハーマンさんだって口止めされてたんだもの、これ、ここまでの情報が外に出たこと自体彼の責任だよね……。
「……ということですね。マージョさんの情報がもれなくて良かった」
ほんとうに!
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