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スタンピードランチ

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「……なるほど。なぜギルド長が契約を望んでいらっしゃるのかわかりました」

副ギルド長は小さくため息をつく。

「これは確かに魅力的です」

……!
副ギルド長が! ラノリンクリームの実力に気づくとは!

「とはいえ、実績はないのでどうすれば考えなくてはなりませんね」

「あ、あの、とりあえずは一年契約というのは……」

「もちろんそのつもりです」

あ。ソウナンデスネー

「それでも口さがない人間が何をいうかわからないくらいに商人ギルドの後ろ盾は重いんです。そのくらい重くなるまでに、私達もそれなりの努力を積み上げてきたんですよ」

「副ギルド長、それは僕もわかっているよ……」

「いえ、とてもわかっているようには見受けられないから申し上げているんです!」


おー。
フェリックスさんが怒られてる。

でも、私、この副ギルド長嫌いじゃないな。
厳しいけどフェアな人という感じがする。
線引も割としっかりしてる。公私混同とかしなさそう。

「そこまでおっしゃるからには何かお考えがあるんじゃないかと思うんですが……?」

そう言うと部屋中の視線が私に集中した。

「そうですね……」

コホン。
副ギルド長が小さく咳払いをした。

「マージョさん。スタンピードランチを仕切るつもりはありませんか?」


+++
晩夏に傭兵たちがバグズブリッジに集まる。
秋になる前に北の森の魔物を間引くのが仕事だ。
秋に森の恵みを魔物が食べてしまうと、数も増えるし体も大きくなる。結果、冬、食べ物がなくなった時に、食べ物を探して人里に魔物が大挙して降りてくるからだ。

これをスタンピードという。

だから傭兵たちが晩夏の10日間北の森で魔物を間引くのはとても大切なことだ。
街道の街も我こそと広場に食事を用意する。

しかし、傭兵集団は荒くれ者の集まりだ。
彼らの食べっぷりときたら魔物に勝るとも劣らない。だから彼らに供する食事をこう呼ぶ。
「スタンピードランチ」。

スタンピードを防ぎに行く人々を勇気づけるランチという意味と彼ら自身がほぼスタンピード並みの災厄だという裏の意味の両方がある。

「いつもは街の宿屋と飲食店が張り切って、私達はほんの少し手を出すくらいですむんですよ、いつもは」

ということは今年は違うんですね?

「領主一行が来るんです。しかも街の宿に泊まられる」

をを?

この時期に来るのは珍しいのかな?

「この時期にスタンピードランチの鼓舞に来るのは珍しくありません。先代もなさっていた。この時期にいらして、バグズブリッジの宿屋に泊まるのが珍しいんです」

ただでさえ足りない宿屋が余計足りなくなる上に、ちょっと気の利いた料理店は領主とその一行につきっきりでスタンピードランチどころではないのだという。

「例年だと半数は街で食べるでしょうから、お金のあまりない若手だけを相手にしていれば良かったのですが、今年は私達がかなりの人数に昼食を提供することになるかと思います」

おお……ちなみに何名ほど?

「そうですね……ざっと200人前後かと。町外れの広場を使っていただくことになると思います」

うおお。いきなり200人の成人男性?!
えっと、それって結構大仕事ですね?

「はい。職人に料理の采配を頼むのはお門違いですが、職人集団からなる企画団体であるとすれば……」

そうですね。職人を含むプロデュース団体みたいなものだったらこういう食事を準備していても変ではない。

「男性若手職人にはできる人がほぼいない上に、今回限りは地元の飲食店の恨みも買わない。その上、それぞれの特殊技能との結びつきも特に強くはないので個々人の印象は強くならずに女子会の印象だけが強くなるはずです。こちらとしては、とても困ったときに助け舟を出していただいたので一年お礼のための契約を結んだと言いやすい」

「……副ギルド長」

「何ですか、マージョさん」

「もしかして、この件、随分色々と考えてくださっていらっしゃいました?」

考えてみるとそうとしか思えない。
そう言うと副ギルド長は、ほんの少しだけ微笑んだ。

「ギルド長が契約の話を始めたときから実は調べさせていただいていました」

そそそうなんですか?

「マージョさん、羊の毛刈りで大人数に美味しい料理を振る舞われたとか」

大人数に……と言っても30人ですけどね!

「お一人でそれができるならスタンピードランチの采配もおできにならないことはないだろうと判断しました。もちろんこちらからも目立たないようにサポートをすることはできます。いかがですか、この案は?」
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