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第一部 綿毛のようにたどり着きました

ギルド長 フェリックス

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「はじめまして。ギルド長のフェリックス・ウォーフです」

やがて長身の優男が入ってきた。なんか見たことがある人だなあ……とぼんやりしていたら、彼の目が大きく見開かれた。
「おや……あなたは……」

何週間か前、ストウブリッジの市で声をかけてきた優男だ。金髪で洒脱な服を着ていて、人当たりも柔らかそうな人だ。
でも権力者っぽいと思って逃げたんだったよ。若いのにギルド長だったんだね。
私の直感は当たっていた。

「ストウブリッジで楽しそうに市場の噂話を聞いて回っていたお嬢さんですね」
向こうもしっかり私のことを覚えていた。



「ギルド長!」
「フェリックスさん!」

今まで言葉もなくヘナヘナと座り込んでいた二人が切迫詰まった声を上げた。
半分悲鳴のような声だ。

「神罰が下ったと聞きましたが……説明してもらいましょうか」
優男はギルド職員と契約神官補に目をやった。



††††

「なるほど……」
ギルド長の声は深刻だった。ギルド会員に神罰が下るというのは余程のことだ。外聞もとても悪い。
「ハーマン商会には力をつけつつある女性層の開拓をお願いしていたのですが……」

「人選ミスですね」

思わず言うと部屋の中の全員がぎょっとした顔でこちらを見た。
「人選ミス……」
直接にギルド長を批判することになるから、私のような若い女性のセリフとしては衝撃的なのだろうけれど。
でも、そういう発想がこれを引き起こしたんだよ。

「他の分野で能力はお有りになるかもしれませんが、現状ここまで男尊女卑の人に女性対応を任せるのは無茶だと思いますよ」

私が誰かということにも、アナベルさんがどんな職人かということにも興味がなく、ハーマンさんは「若い女性」という一点しか見ていなかったのだもの。

「これは手厳しい」

フェリックスさんは私の言葉の先を促す。そのあたりは、やはりひとかどの人なのだな。
でも、これ以上言うことはないんだよね。

「契約関係の虚偽申告も相手が若い女性だからやっても大丈夫だとハーマンさんは考えられたのだと思いますけど……。それが御本人の考えだったにせよ、そういう人にプロジェクトを任せたわけですよね」

これ、若い徒弟の女性たちに知られたらギルドの信頼はだだ下がりだと思う。
そして最終的な責任はそういうプロジェクトをハーマンさんに任せたギルド長にある。

それは自分でも嫌というほどわかっていたのだろう。

フェリックスさんは眉を寄せて額に手を当てた。

「……神罰は、一生残るものですか……」
フェリックスさんが契約神官補に目を向けると、神官補は淡々と「お二人にかかっているのは、一定条件を満たしさえすればそのうち消えると思いますよ」と告げた。

「そ、そのうち、というのは……」
ハーマンさんがおそるおそる聞く。
「その前にまず条件を満たさないといけませんがね」

神官補は素っ気なく切り捨てる。
わかった、この人素がこんな感じなのね。

「そんなことよりギルドに神罰がかからないようにするのが先だと思いますが……」
神官補は厳しい。というか、ハーマンさんの神罰は「そんなこと」扱い?!


「今は神罰が留保されているだけの状態だと思いますから、ギルドの出方次第ではかなり広範囲に神罰が下される可能性があります」

神官補の説明に、フェリックスさんは真顔になった。

そう。ここで手早く処分を下さないとギルドに波及する。
そう気づいた瞬間からフェリックスさんは早かった。

「……まず、ハーマンは除名処分とする」
フェリックスさんはギルド職員に告げる。
「鑑定士も同様。これは決定事項だ」
「……」
神官補も私も黙ってフェリックスさんを見ている。
と、ため息をつかれた。
「何か言いたいことがあるんじゃないですか、お嬢さん」

「このままではハーマンさんに余罪があるかどうかわかりません。どのように再発が防止されるのかも」

余罪の追求は大事だ。アナベルさんのところにも酷い条件の契約を持ちかけていたし、多分泣いている子がいる。

そのあたりは、フェリックスさんにも思い当たるところがあつたのだろう。ピキッと顔が引きつった。
「もちろん、余罪は調査させる。今回の件は公表し……」
「ギルド長!」
職員が慌てた声をあげる。

公表したときのギルドの名誉や信頼は大きく損なわれるだろうからだ。
「……仕方ないだろう。こういうのは隠しておけるものではない」
うん。私もそう思う。
でも。
「私の名前は出さないで頂きたいです」
本当に目をつけられただけで災難なのに、この上噂のタネになるとかイヤだよ。

「わかった」

フェリックスさんは頷いてくれた。

「公表の範囲は適宜検討するが、おおむね公表。契約神官補とともに再発防止に努めよう」

落とし所としてはこれが順当なところだろうか。

「わかりました。それでは私はここで」

チャーリーやトーマスさんに目配せして席を立とうとしたら「いや、ちょっと待って」と引き止められた。

「まだ、お話を伺いたいんです。マージョさん、今日はバグズブリッジに泊まることはできますか? もちろん帰りは村までお送りします」

泊まるって……どこに?

「ギルドの貴賓室でもいいですし宿屋の手配もできます」



えええ~。気合を入れてお弁当を作ったのに!

「お弁当?!」

いえ、こっちの話です。
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