異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第一部 綿毛のようにたどり着きました

神縛契約

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「神縛契約ということでいいですね」

契約神官補の口調は淡々としていた。

「ええ。こちらのお嬢さんが契約絡みでゴネていましてね」
「それは……」
神官補は肩をすくめた。
「私とは関係のないことです。神前の契約は神聖なものですから、それだけ理解しておいていただければ」
「いやあ、もうそれはそれは……」

答えるハーマンさんに私はジトッとした視線を向ける。

「契約するなんて言ってません」
「いやあ、そんなことを言っても、このままでは出るところに出なくちゃいけないんですよ」
ハーマンさんは満面の笑顔だ。
「ギルドの筆跡鑑定士の鑑定結果は出てるわけですしねえ……」
「鑑定結果がどうであれ、私はそもそもの契約にもサインしてませんし、それなのに神縛契約だなんて……」

「まあ、いい加減に気持ちの整理をつけてください。新しい契約書はここにありますから、契約内容を読み上げますね」
ハーマンさんは、喜々として契約内容を読み上げる。

予想はしてたけど、ひどい内容だ。こんなのサインした日には自分のペースで仕事をするなんて不可能に近い。

「ちょっとそれ……」
内容も酷いしここに至るまでのやり取りも酷いし、これはちょっと……と口を開きかけると、神官補のまとう空気が冷たくなった。
「神縛契約は神聖なものです。おわかりではないかもしれませんが」
神官補は私をギロッと睨みつけた。
「遊び半分でサインをされては困る」

いや、何で私が睨まれてるの?!

「神罰」は過去百年近く発動していないらしい、とは「知識」で知っていたけれど、だからといつて私が神縛契約を軽く見ているわけないじゃないですか!

理由を説明できないのがもどかしいよ!

「まあ、私からサインをしましょう」
ハーマンさんはニコニコとペンを取り、自分の名前を書き込んだ。
「えっ…ちょ……やめて!」
私が大声で制止しようとしたのと、
「うぎゃー」
という、悲鳴がハーマンさんから上がったのが同時だった。

「な、何が……?!」

慌てて駆け寄ったギルドの男性が蒼白になった。
「うわあああ」
パニックしている、としか形容できない悲鳴がハーマンさんから上がる。
ハーマンさんの右手は肩から先が石化していた。相当重いのだろう。左手で必死に支えている。

「え、ええ……!」
それを見た鑑定士も悲鳴を上げる。
「手が……手が………!」
彼の右手も手首から石化している。

「神罰が……発動したんだ……」

チャーリーの茫然とした声が、部屋に響いた。
うん。だから、やめようよって言ったのに……。

「……神罰の、ようですね」

神官補は目を細める。

「このようなケースは私も初めてです。何か思い当たることは?」

聞かれると思ったよ。

「オーロラの儀式をしてあります」
「結婚の……?」
思わず、といった様子で今まで沈黙を守っていたトーマスさんが尋ねる。
「いえ、古いしきたりのように、ただ意志を伝えて誓いを立てただけです」

「……内容を聞いても?」
神官補は淡々と聞く。
胆力のある人だ。他の人達はみんな相当ショックを受けているのに。というか、私もショックだ。
「母の死後、一人で暮らして行けていることへの感謝を述べ、主神ないしは三大神の神託なしには専属契約をしないこと、及びどのような契約をするにしても、利益の1割を主神ないしは三大神への寄進とすること、、オーロラ神を始めとした神々の加護を得られるようにと願ってあります」

「なるほど……」
神官補は納得がいった、という様子で頷いた。
「神への寄進の誓いを立てていたので、単に意志の儀式で誓ったことを破らされそうになっただけでなく神の物を盗もうとした、とされたわけですね」
道理で……と、神官補の切れ長の目が言う。

うん、多分そうだと思う。と、私も目で答える。

「これはギルド長にすぐに報告するべきですね。契約の協力者にも神罰が下りてますし、ギルド全体が協力者と見なされるのはあまり良くないでしょう」
「……!」
言われて、ガタタンと大きな音を立ててギルド職員が立ち上がった。
「そ、そうですね……!」
神官補はギルドの男性が部屋を出ると「神殿にも報告せねば……」と小声で独り言を言った。それからため息。仕事が増えたのだろう。
苛立ったように細い指がタタタンと机を叩く。

うん。それはわかるけど!
やめておいてって言ったのに押し通そうとしたのはハーマンさんだから! 何で私を睨むの!
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