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契約神官補

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で、嫌な予感は的中した。

筆跡鑑定士は私のサインを見て、ハーマンさんの持っていた契約書を見ると、すぐさま私が嘘をついていると宣言したのだ。

「ベルボームさんは、私の前でサインをするとき、不自然に時間をかけていました。これは、署名偽造をするときによくあることです」

署名偽造も何も、私はこの世界で署名したことないんですけどね!

「いや、でもそうなると、最悪の場合は法廷に出ることになりますし、そうでなくてもギルドから何らかのペナルティが課せられることになるわけですが……」

ギルドの人がやや慌てた調子で口をはさむ。それをハーマンさんが余裕綽々よゆうしゃくしゃくでなだめる。

「いやいや、若いお嬢さんです。気後れしてしまったんでしょうから、ここは、ちょっと大人の対応をできませんかねえ」

「そうですねえ」

私をそっちのけで二人の会話は続いていく。

「マージョが嘘をつくわけなんかないだろ!」

ここでチャーリーが大声で叫んだ。

「これがマージョのいつもの字体だよ!」

うん。
チャーリーの気持ちはありがたい。
ありがたいけど、多分、これはいいようにあしらわれちゃうよ。

そう思っていると、案の定、ハーマンさんは笑みを深くした。

「文字を熱心に勉強しているんですよね。感心です」

そう言いながら筆跡鑑定士を見る。

「ただ、字体の見分けをつけるのは、勉強途中の子供にはむりなんですよ。そうですね」
「はい。こんな子供にすぐに見分けがつくようでしたら私たちの仕事は必要ありませんね」

わはは、と大人二人が笑う。

「な……!」


チャーリーは耳まで真っ赤になって俯いてしまった。
うん。気持ちはわかる。
わかるけど、まあ、まずは試験に全部受かろう。受かって正式に神官補佐になった日には誰もそんなことを言えなくなるから。

「それで、百歩譲って、私が筆跡をごまかしていたとして、その場合はどうするつもりなんですか」

そう尋ねると、

「そうですねえ。契約神官補の立ち合いの元、もう一度契約をしてもらうことになりますかねえ」と、答えが返ってきた。
なるほど。
偽の契約書はそれで破棄できるから証拠は残らないし、新しい契約さえしてしまえば神力で束縛できると。
考えたね。

「それは嫌なんですけれど」
「困りましたねえ」

ハーマンさんはにやにや笑う。
「こちらとしても、大事おおごとにはしたくないんですよ。でもそんなに意地を張られるとどうしても法的な手段に出ないわけにはいかなくなりますからねえ……まずは、神官補をお呼びしてくれますかね」

ハーマンさんの要請を受けて、ギルドの男性が慌てて部屋を出て行った。

「お呼びになりましたか」

しばらくして入ってきたのは、やたら伶俐な印象の、痩せた男性だった。
整った……顔立ちなのだろうか。とにかく無表情な人だ。

「契約神官補です」

名前を名乗らないのかな。役職だけで名乗るのが普通なのだろうか。
ていうか、ちょっと、これ、ピンチじゃないですか?!
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