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商人ギルド
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「だ……大丈夫ですか?」
アナベルさんが恐る恐るといった風情で聞く。
「俺、一緒に行く」
チャーリーがエレンさんの後ろからひょっこりと顔を出した。
「俺、マージョの筆跡知ってるから」
「おやおや、今マージョさんから文字を習っている子供ですね。かわいらしい」
ハーマンさんが「文字を習っている」と「子供」に力を入れて言う。
「あ、私も行って良いですか。勉強になりそうです」
おずおずとトーマスさんが手を挙げる。
おお、なんかすごい大人数になりそうだね。
「もちろん、私は構いませんよ」
ハーマンさんがやけに素直に頷く。
うーむ。なんかやな感じ。商人ギルドってどのくらい公正な機関なんだろう?
「商人ギルドはそんなに遠くないわよ。長くかかりそうならお昼ごはんを食べてから行ったほうがいいけれど……」
「いや、そんなにかかりませんよ」
ハーマンさんが笑顔で請け負う。
というわけでエレンさんに店番を頼んでとりあえずはハーマンさんについていくことになった。
うー。
市場巡り楽しみにしてたのに!
どうしてこの人は毎回毎回私の楽しみのじゃまをするの!
††††
そんなわけで、やってきた商人ギルドは、話通り本当に市場から近かった。歩いて十分くらい。
大きな石造りの建物で外壁には主神アナスタシアと、三大神のレリーフが。
今のこの世界は特に信心深いという印象はないのだけれど昔は違ったんじゃないだろうか、とこういうのを見ると思うな。
なんというか、もう生活の一部になっちゃっているから、この世界の人は今更意識しないのだろうけれど、私が見ると、とても目立つよ。
ギルドに入ると、ハーマンさんは勝手がわかっているようでスタスタと進んでいく。
「今日はなんのご用ですか?」
受付の若い男性はハーマンさんをよく知っているみたいだ。
「いや、契約のギルド承認をしてもらおうと思ってね」
「おや、そんなに大口の契約なのですか」
「そんなことはないのだが、契約相手がサインをしてないと言い出してしまってね……」
ちょ……
それ、どういう説明の仕方?!
すっごく!
カチンとくるんですけど?!
でも受付の男性は特に深く聞くことはせずに、「契約関連のトラブルですね」と、軽く頷いた。
「それでは筆跡鑑定士と契約神官補を呼びましょう」
筆跡鑑定士はわかるけど、契約神官補って?
疑問に思って「知識」を検索して、私はちょっと慌てた。
契約神官補は神官に準ずる立場で商業契約関連の神力に限定して使うことができる、とあったからだ。
つまり、彼らが見届けた契約には二重の強制力がかかる。人の世の法的な強制力だけでなく、神罰だ。
現実には神罰はもう百年以上発動していないのだけれど、契約不履行は神官が神力で察知できるからずっと力が強い契約だとされている。
それは、ちょっとマズイ。
ハーマンさんは神罰なんて信じてないのかもしれないけど、アーロンとか何気に結構力持ちだよね。
こちらの人には半分迷信扱いなんだろうけど、日々会話してる私には神罰ってものすごくリアルだし、何よりもできれば発動させたくないもののダントツ一位だ。
「いや、契約神官補はいらないでしょう? 単に契約が間違えてるだけなんですから」
「いや、間違えてはいませんよ、お嬢さん。そう思っているのはベルボームさんだけです」
「いや、でもそんなことを言っても実際サインしてませんし……日付けだって一昨日になってますけど、一昨日は私はバグズブリッジにはいませんでしたし」
「いや、私がベルボームさんのお宅に伺ったじゃないですか」
「な……」
あまりにもさらっと嘘をつかれて、私は固まってしまった。
チャーリーが不安げにこちらを見ている。
トーマスさんの表情はよくわからない。
「まあ、とりあえずこちらに……」
受付の男性が苦笑して私達を別室に案内してくれた。実務的な部屋で、小さな祭壇が隅にある。
何ていうんだろう、企業の建物の端にお稲荷さんがあったりするのをふと思いだした。
そんな感じ。
私たちとハーマンさんは向き合って座る。トーマスさんは部屋の隅の方にそっと立った。
全体が見えるようなところを選んだんだね。
しばらく待っていると、筆跡鑑定士がやってきた。
「おお、いつもお世話になっています」
初っ端からハーマンさんと握手を交わしている。
何?
知り合いなの、この二人?
不安しかないんですけど?!
アナベルさんが恐る恐るといった風情で聞く。
「俺、一緒に行く」
チャーリーがエレンさんの後ろからひょっこりと顔を出した。
「俺、マージョの筆跡知ってるから」
「おやおや、今マージョさんから文字を習っている子供ですね。かわいらしい」
ハーマンさんが「文字を習っている」と「子供」に力を入れて言う。
「あ、私も行って良いですか。勉強になりそうです」
おずおずとトーマスさんが手を挙げる。
おお、なんかすごい大人数になりそうだね。
「もちろん、私は構いませんよ」
ハーマンさんがやけに素直に頷く。
うーむ。なんかやな感じ。商人ギルドってどのくらい公正な機関なんだろう?
「商人ギルドはそんなに遠くないわよ。長くかかりそうならお昼ごはんを食べてから行ったほうがいいけれど……」
「いや、そんなにかかりませんよ」
ハーマンさんが笑顔で請け負う。
というわけでエレンさんに店番を頼んでとりあえずはハーマンさんについていくことになった。
うー。
市場巡り楽しみにしてたのに!
どうしてこの人は毎回毎回私の楽しみのじゃまをするの!
††††
そんなわけで、やってきた商人ギルドは、話通り本当に市場から近かった。歩いて十分くらい。
大きな石造りの建物で外壁には主神アナスタシアと、三大神のレリーフが。
今のこの世界は特に信心深いという印象はないのだけれど昔は違ったんじゃないだろうか、とこういうのを見ると思うな。
なんというか、もう生活の一部になっちゃっているから、この世界の人は今更意識しないのだろうけれど、私が見ると、とても目立つよ。
ギルドに入ると、ハーマンさんは勝手がわかっているようでスタスタと進んでいく。
「今日はなんのご用ですか?」
受付の若い男性はハーマンさんをよく知っているみたいだ。
「いや、契約のギルド承認をしてもらおうと思ってね」
「おや、そんなに大口の契約なのですか」
「そんなことはないのだが、契約相手がサインをしてないと言い出してしまってね……」
ちょ……
それ、どういう説明の仕方?!
すっごく!
カチンとくるんですけど?!
でも受付の男性は特に深く聞くことはせずに、「契約関連のトラブルですね」と、軽く頷いた。
「それでは筆跡鑑定士と契約神官補を呼びましょう」
筆跡鑑定士はわかるけど、契約神官補って?
疑問に思って「知識」を検索して、私はちょっと慌てた。
契約神官補は神官に準ずる立場で商業契約関連の神力に限定して使うことができる、とあったからだ。
つまり、彼らが見届けた契約には二重の強制力がかかる。人の世の法的な強制力だけでなく、神罰だ。
現実には神罰はもう百年以上発動していないのだけれど、契約不履行は神官が神力で察知できるからずっと力が強い契約だとされている。
それは、ちょっとマズイ。
ハーマンさんは神罰なんて信じてないのかもしれないけど、アーロンとか何気に結構力持ちだよね。
こちらの人には半分迷信扱いなんだろうけど、日々会話してる私には神罰ってものすごくリアルだし、何よりもできれば発動させたくないもののダントツ一位だ。
「いや、契約神官補はいらないでしょう? 単に契約が間違えてるだけなんですから」
「いや、間違えてはいませんよ、お嬢さん。そう思っているのはベルボームさんだけです」
「いや、でもそんなことを言っても実際サインしてませんし……日付けだって一昨日になってますけど、一昨日は私はバグズブリッジにはいませんでしたし」
「いや、私がベルボームさんのお宅に伺ったじゃないですか」
「な……」
あまりにもさらっと嘘をつかれて、私は固まってしまった。
チャーリーが不安げにこちらを見ている。
トーマスさんの表情はよくわからない。
「まあ、とりあえずこちらに……」
受付の男性が苦笑して私達を別室に案内してくれた。実務的な部屋で、小さな祭壇が隅にある。
何ていうんだろう、企業の建物の端にお稲荷さんがあったりするのをふと思いだした。
そんな感じ。
私たちとハーマンさんは向き合って座る。トーマスさんは部屋の隅の方にそっと立った。
全体が見えるようなところを選んだんだね。
しばらく待っていると、筆跡鑑定士がやってきた。
「おお、いつもお世話になっています」
初っ端からハーマンさんと握手を交わしている。
何?
知り合いなの、この二人?
不安しかないんですけど?!
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