異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第一部 綿毛のようにたどり着きました

女の作った手綱

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アナベルさんの馬具はどれも丁寧に作られたものだった。

手渡された手綱をためつすがめつ検分したチャーリーは「とてもいいと思う」と、短く言った。
「丁寧に作ってあるし、サイズもパールにちょうどいいと思う」


「これは、他のお客様のために作ったものなんですけど、私を見たら怒ってしまわれて……」

女が作った手綱など、と面と向かって言われたのだそうだ。

現代日本の感覚がある私としてはかなり引くけど、そうか……この世界ではそれはまだスタンダードに近い反応なのかもしれない。

でも、そりゃあ涙も出るよね。

「口惜しくて」
うんうん。
「親方や工房に迷惑をかけていると思うと苦しいし」
うんうん。

「でもね、今はちょうど靴の作り方を習っているところなんです。兄弟子に一人、靴工房から来た人がいて……」

おや、それは珍しい。普通、技術の流出を恐れてそうそう簡単によその業種には行かないのに。

「はい。職人の仁義と言いますか……。うちみたいに色々広く浅くやる工房もありますけど、大抵大まかな専門範囲が決まってます。あまり、他所様の工房から引き抜いてると見られると良くないので気を使います。でもこれは仕方なかったんです」


火事が起きて工房そのものがなくなってしまったのだそうだ。

「きちんとした靴の作り方をこの工房では一番良く知ってますから、今、つきまとって教わっているところなんです。そこにあるのが作ったばかりの靴なんですよ。友人にあげようと思って」

指さした先にはきれいな編み上げブーツがあった。
足の木型から作ったのだそうだ。

あ、いいなこういうの。色もいいしデザインもいい。なんてことないのだけど素敵。

こちらもチャーリーがしげしげと眺めて何やら頷いた。

「これ、作ってもらおうと思ったらおいくらぐらいに……」

と、言いかけた時だった。
壮年の男性が二人笑いながら奥から出てきた。

「おお、アナベル、帰ってきていたのか」
「親方!」
「いや、お前に話があってね、こちらの方がお前の作ったものをまとめて買ってくれると言うんだよ」
「え! 本当ですか……?!」

信じられない、といった表情のアナベルさんだ。嬉しそうだ。

「はい。良ければうちの商会と専属契約をしてほしいんですが、どうでしょう、こんな感じで……」

親方と呼ばれた男性の後ろにいた壮年の男性が顔を出した。そのヒゲモジャの顔を見て私は固まる。

ストウブリッジのハーマンさんだ!
しかも呈示した額はさっきアナベルさんが言っていた額より3割も低い。これじゃ手間賃が出ないんじゃないかってくらい。

「女性の作った革製品はなかなか売れないですが、私どもが引き取れば誰が作ったと知らせずに売りさばくことができますしね。お任せいただければ、と……!」

は?

……は?!


……なにそれ。


女性が作ったからと3割も買い叩いておいて、売るときはそれを言わずに通常の値段で売るつもりってこと?!

親方は何も言わずにアナベルさんを見つめている。
アナベルさんは、何も言えないようで真っ赤になって唇を噛み、うつむいてしまった。

あー!!
だめ、私こういうのだめなんだよ!!

アナベルさん、頑張ってるじゃんか!
ちゃんと評価しようよ。


気づいたら私は大きな声を出していた。

「困ったわ……。今、口約束ですけど、靴を発注してしまったばかりでしたの。それに馬具も」

ハーマンさんが、びっくりしたようにこちらを見て、私に気づき、二重に驚いた顔をした。

「申し訳ないんですけれど、私はこの値段で買おうと言ったばかりで……」

さっきアナベルさんが言った値段に少し色を付けて提示すれば、「えっ」と、親方もハーマンさんも驚いた顔をした。
いや、アナベルさん、あなたは驚いた顔をしちゃだめだよ!
これで合意したっていう話にするつもりなんだから!

「な、なんで女が作ったものにそんな値段を……」

いや、ハーマンさん、それを言っちゃだめでしょ。私とも専属契約したかったんじゃないの?

「だって靴を作るには足を見てもらわなくてはならないじゃないですか。男性よりも女性の方がずっと気安いです」

当たり前のことですよね?
と、首をかしげると

「なるほど!」と、アナベルさんが私の手を取った。

「その視点はなかったです。ありがとうございます!!!」

ぶんぶん! と、元気に両手を振られてなんだかこそばゆい気持ちになる。

いや、ハーマンさんの前だからね!

「ということで、本当にありがたいのですが、もうすでにこの先しばらくの仕事は入ってしまったんです。今回はご縁がなかったということで……!」
「いや、それだったらあの……」
「本当にありがとうございます。ぜひまたの機会に!」

アナベルさんは、私の手をブンブンした明るさのまま非常にいい笑顔でハーマンさんを追い返した。

ハーマンさんが工房を出るとき、コチラをギラッと見たので私はにこやかに革製品の質問をしているふりをした。

知らないったら知らないよ!
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