46 / 172
第一部 綿毛のようにたどり着きました
革製品屋さん
しおりを挟む
パールを引き受けたところで、チャーリーが、「それじゃあ、俺、マージョと革製品やさんに行くよ」と、トーマスさんに言った。
「革製品やさん?」
「馬具が必用だから」
「そうですね。任せていいですか、チャーリー?」
今の手綱は古いものだから、新しいのを買って、つけかえたら、ここに持って来ればお金が返ってくるんだと教えてくれた。
デポジットみたいなものだね。
「ついでに靴も見つくろうといいですよ」
トーマスさんはニコニコしている。
「靴屋さんよりは安いけどストウブリッジの革製品やさんよりは質が良い」
馬具は馬具の、靴は靴の専門店があるんだけれど、汎用の革製品店もあって、大抵のものはそこで用が足りるのだという。
ここは私とチャーリーに任せてホワイトさんの手伝いに戻ると言う。
そうか! 私の毛糸玉、しっかり売ってください。
「革製品やさんは、ここで皮なめしをしてるの?」
「まさか! こんな町中で皮なめしなんかもできないよ」
羊毛の処理も臭かったけれど革の処理はその比べ物にならないくらい臭いのだ。
そうだった。
確かに「知識」がそう言ってたっけ。
歩きながら、チャーリーの説明を聞く。
これから行く工房はなめし革をなめし工房から買って加工する工房だという。
「俺も前に一回行ったけれど、いい感じの店だった」
え。
チャーリー、自信たっぷりに話してたけど、一度しか行ったことがないの?
大丈夫?!
私は来たことのない町だし、しっかりしているように見えるけどチャーリーはまだ13歳だ。
「大丈夫だ」
チャーリーは胸を張った。
「そこにいる人に聞くからな!」
……どうやら私が気づかなかっただけでとうに迷っていたらしい。
「あの、すみません」
私はチャーリーが指さした私と同年齢程度の若い女性に声をかけ、ちょっと口ごもった。
「あ……」
女性の目は赤く腫れていて明らかに泣いていたからだ。
「はい、どうしましたか?」
でも、返ってきた声は明るかった。
気丈な人だ。
「あの、ブルーベル革工房を探していたのですが迷ってしまって」
「あら、それなら私の勤めている工房です。ご一緒しますよ。すぐそこです」
女性の名前はアナベル。18歳で、ブルーベル工房の唯一の女性徒弟だった。ものすごくおっとりとした風情の人だ。
「革工房で女性が働いているとは思いませんでした」
「縫い物みたいなものですけど、確かに力を使いますからね。割りと珍しいと思います」
今の領主が女性を徒弟として雇った工房は税金を優遇すると決めたらしく、今は特に小さな工房に女性が増えているんだと、アナベルは教えてくれた。
「女好きの領主様のおかげで、徒弟に入ることができたんですけど、やっぱり風当たりも強くて」
そこ、女好き関係ありますか?
「大有りです。女たちを工房に入れれば金回りが良くなってきれいな女が街中に増えてよりどりみどりだって言ったんだそうですよ!」
なんてこと!
領主様適当に見繕うだけではなく領内の女性の見た目の底上げまで目指しているの?!
「まあ、バグズブリッジには、ほとんどこない人だから、直接被害に合う可能性はなさそうなんですけど……」
革工房には、昔はあまり女の人がいなかったのでまだ珍しいのだそうだ。
「親方も兄弟子さんたちもみんないい人なんです……」
口ごもる様子から察してしまった。
領主様がやってこなくても女性だからの苦労があるんだね。
「うちだけじゃないです。どこでも増えてますけど、まあ、うまくいくとは限らないし、嫌なことを言われる可能性があるから……」
口調はしっかりしてるけど、悔しい思いをしたんだろうな……と、思う。
何をするにしてもパイオニアは大変だね。
「今の領主様がいらないことをするから……って言う人もいます」
んー。でも、それは、工房で働く女の人が増えれば変わることだからな……。
この世界の女の人はみんなよく働く。農家だったり商家だったり。
ただ、お金をたくさん扱えるような大きな商店や、工房が、分野によっては女性がものすごく少ない。
革工房や、木工、鍛冶などは女性がとても少ないのだそうだ。
「だから、時々みんなで集まってわ~ってグチを言うんですよ」
うふふ。と、アナベルさんは笑った。
「そうすると、また頑張ろうって思えるんです。だって、私、好きなんです、革。一生使えるものができますしね」
あら。
おっとりしてるように見えて、アナベルさん、意外と熱い?
「どうぞ、こちらです。親方に言えば色々相談に乗るはずです」
そう言いながらアナベルさんはドアを開けた。
「おお、アナベル。遅かったな。お客さんか?」
兄弟子らしい男性が声をかける。
「そうなんです。馬具と靴を探してらっしゃるって……。親方は……?」
「あー、なんか取引先が来ていて少し時間がかかるって言ってたな」
男性は私達に軽く会釈した。
「アナベル、お前が色々ご説明しろ」
「え……でも私の作ったものなんか……」
「何を言ってる。こないだの靴は親方も褒めていたぞ」
「えっ……!本当ですか?!」
アナベルさん、本当に革工房の仕事が好きなんだね。目がキラキラしている。
「本当だぞ。俺は契約を受けた仕事をやっているところだし、お前の作ったものを見てもらえ」
「あ……! はい……!」
アナベルさんは真っ赤になって私を見た。
そして
「あのじゃぁ、わちゃしの作った物を……!」
……盛大に噛んだ。
「革製品やさん?」
「馬具が必用だから」
「そうですね。任せていいですか、チャーリー?」
今の手綱は古いものだから、新しいのを買って、つけかえたら、ここに持って来ればお金が返ってくるんだと教えてくれた。
デポジットみたいなものだね。
「ついでに靴も見つくろうといいですよ」
トーマスさんはニコニコしている。
「靴屋さんよりは安いけどストウブリッジの革製品やさんよりは質が良い」
馬具は馬具の、靴は靴の専門店があるんだけれど、汎用の革製品店もあって、大抵のものはそこで用が足りるのだという。
ここは私とチャーリーに任せてホワイトさんの手伝いに戻ると言う。
そうか! 私の毛糸玉、しっかり売ってください。
「革製品やさんは、ここで皮なめしをしてるの?」
「まさか! こんな町中で皮なめしなんかもできないよ」
羊毛の処理も臭かったけれど革の処理はその比べ物にならないくらい臭いのだ。
そうだった。
確かに「知識」がそう言ってたっけ。
歩きながら、チャーリーの説明を聞く。
これから行く工房はなめし革をなめし工房から買って加工する工房だという。
「俺も前に一回行ったけれど、いい感じの店だった」
え。
チャーリー、自信たっぷりに話してたけど、一度しか行ったことがないの?
大丈夫?!
私は来たことのない町だし、しっかりしているように見えるけどチャーリーはまだ13歳だ。
「大丈夫だ」
チャーリーは胸を張った。
「そこにいる人に聞くからな!」
……どうやら私が気づかなかっただけでとうに迷っていたらしい。
「あの、すみません」
私はチャーリーが指さした私と同年齢程度の若い女性に声をかけ、ちょっと口ごもった。
「あ……」
女性の目は赤く腫れていて明らかに泣いていたからだ。
「はい、どうしましたか?」
でも、返ってきた声は明るかった。
気丈な人だ。
「あの、ブルーベル革工房を探していたのですが迷ってしまって」
「あら、それなら私の勤めている工房です。ご一緒しますよ。すぐそこです」
女性の名前はアナベル。18歳で、ブルーベル工房の唯一の女性徒弟だった。ものすごくおっとりとした風情の人だ。
「革工房で女性が働いているとは思いませんでした」
「縫い物みたいなものですけど、確かに力を使いますからね。割りと珍しいと思います」
今の領主が女性を徒弟として雇った工房は税金を優遇すると決めたらしく、今は特に小さな工房に女性が増えているんだと、アナベルは教えてくれた。
「女好きの領主様のおかげで、徒弟に入ることができたんですけど、やっぱり風当たりも強くて」
そこ、女好き関係ありますか?
「大有りです。女たちを工房に入れれば金回りが良くなってきれいな女が街中に増えてよりどりみどりだって言ったんだそうですよ!」
なんてこと!
領主様適当に見繕うだけではなく領内の女性の見た目の底上げまで目指しているの?!
「まあ、バグズブリッジには、ほとんどこない人だから、直接被害に合う可能性はなさそうなんですけど……」
革工房には、昔はあまり女の人がいなかったのでまだ珍しいのだそうだ。
「親方も兄弟子さんたちもみんないい人なんです……」
口ごもる様子から察してしまった。
領主様がやってこなくても女性だからの苦労があるんだね。
「うちだけじゃないです。どこでも増えてますけど、まあ、うまくいくとは限らないし、嫌なことを言われる可能性があるから……」
口調はしっかりしてるけど、悔しい思いをしたんだろうな……と、思う。
何をするにしてもパイオニアは大変だね。
「今の領主様がいらないことをするから……って言う人もいます」
んー。でも、それは、工房で働く女の人が増えれば変わることだからな……。
この世界の女の人はみんなよく働く。農家だったり商家だったり。
ただ、お金をたくさん扱えるような大きな商店や、工房が、分野によっては女性がものすごく少ない。
革工房や、木工、鍛冶などは女性がとても少ないのだそうだ。
「だから、時々みんなで集まってわ~ってグチを言うんですよ」
うふふ。と、アナベルさんは笑った。
「そうすると、また頑張ろうって思えるんです。だって、私、好きなんです、革。一生使えるものができますしね」
あら。
おっとりしてるように見えて、アナベルさん、意外と熱い?
「どうぞ、こちらです。親方に言えば色々相談に乗るはずです」
そう言いながらアナベルさんはドアを開けた。
「おお、アナベル。遅かったな。お客さんか?」
兄弟子らしい男性が声をかける。
「そうなんです。馬具と靴を探してらっしゃるって……。親方は……?」
「あー、なんか取引先が来ていて少し時間がかかるって言ってたな」
男性は私達に軽く会釈した。
「アナベル、お前が色々ご説明しろ」
「え……でも私の作ったものなんか……」
「何を言ってる。こないだの靴は親方も褒めていたぞ」
「えっ……!本当ですか?!」
アナベルさん、本当に革工房の仕事が好きなんだね。目がキラキラしている。
「本当だぞ。俺は契約を受けた仕事をやっているところだし、お前の作ったものを見てもらえ」
「あ……! はい……!」
アナベルさんは真っ赤になって私を見た。
そして
「あのじゃぁ、わちゃしの作った物を……!」
……盛大に噛んだ。
41
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。
異世界でスローライフを満喫する為に
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
道端に落ちてた竜を拾ったら、ウチの家政夫になりました!
椿蛍
ファンタジー
森で染物の仕事をしているアリーチェ十六歳。
なぜか誤解されて魔女呼ばわり。
家はメモリアルの宝庫、思い出を捨てられない私。
(つまり、家は荒れ放題)
そんな私が拾ったのは竜!?
拾った竜は伝説の竜人族で、彼の名前はラウリ。
蟻の卵ほどの謙虚さしかないラウリは私の城(森の家)をゴミ小屋扱い。
せめてゴミ屋敷って言ってくれたらいいのに。
ラウリは私に借金を作り(作らせた)、家政夫となったけど――彼には秘密があった。
※まったり系
※コメディファンタジー
※3日目から1日1回更新12時
※他サイトでも連載してます。
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる