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第一部 綿毛のようにたどり着きました
革製品屋さん
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パールを引き受けたところで、チャーリーが、「それじゃあ、俺、マージョと革製品やさんに行くよ」と、トーマスさんに言った。
「革製品やさん?」
「馬具が必用だから」
「そうですね。任せていいですか、チャーリー?」
今の手綱は古いものだから、新しいのを買って、つけかえたら、ここに持って来ればお金が返ってくるんだと教えてくれた。
デポジットみたいなものだね。
「ついでに靴も見つくろうといいですよ」
トーマスさんはニコニコしている。
「靴屋さんよりは安いけどストウブリッジの革製品やさんよりは質が良い」
馬具は馬具の、靴は靴の専門店があるんだけれど、汎用の革製品店もあって、大抵のものはそこで用が足りるのだという。
ここは私とチャーリーに任せてホワイトさんの手伝いに戻ると言う。
そうか! 私の毛糸玉、しっかり売ってください。
「革製品やさんは、ここで皮なめしをしてるの?」
「まさか! こんな町中で皮なめしなんかもできないよ」
羊毛の処理も臭かったけれど革の処理はその比べ物にならないくらい臭いのだ。
そうだった。
確かに「知識」がそう言ってたっけ。
歩きながら、チャーリーの説明を聞く。
これから行く工房はなめし革をなめし工房から買って加工する工房だという。
「俺も前に一回行ったけれど、いい感じの店だった」
え。
チャーリー、自信たっぷりに話してたけど、一度しか行ったことがないの?
大丈夫?!
私は来たことのない町だし、しっかりしているように見えるけどチャーリーはまだ13歳だ。
「大丈夫だ」
チャーリーは胸を張った。
「そこにいる人に聞くからな!」
……どうやら私が気づかなかっただけでとうに迷っていたらしい。
「あの、すみません」
私はチャーリーが指さした私と同年齢程度の若い女性に声をかけ、ちょっと口ごもった。
「あ……」
女性の目は赤く腫れていて明らかに泣いていたからだ。
「はい、どうしましたか?」
でも、返ってきた声は明るかった。
気丈な人だ。
「あの、ブルーベル革工房を探していたのですが迷ってしまって」
「あら、それなら私の勤めている工房です。ご一緒しますよ。すぐそこです」
女性の名前はアナベル。18歳で、ブルーベル工房の唯一の女性徒弟だった。ものすごくおっとりとした風情の人だ。
「革工房で女性が働いているとは思いませんでした」
「縫い物みたいなものですけど、確かに力を使いますからね。割りと珍しいと思います」
今の領主が女性を徒弟として雇った工房は税金を優遇すると決めたらしく、今は特に小さな工房に女性が増えているんだと、アナベルは教えてくれた。
「女好きの領主様のおかげで、徒弟に入ることができたんですけど、やっぱり風当たりも強くて」
そこ、女好き関係ありますか?
「大有りです。女たちを工房に入れれば金回りが良くなってきれいな女が街中に増えてよりどりみどりだって言ったんだそうですよ!」
なんてこと!
領主様適当に見繕うだけではなく領内の女性の見た目の底上げまで目指しているの?!
「まあ、バグズブリッジには、ほとんどこない人だから、直接被害に合う可能性はなさそうなんですけど……」
革工房には、昔はあまり女の人がいなかったのでまだ珍しいのだそうだ。
「親方も兄弟子さんたちもみんないい人なんです……」
口ごもる様子から察してしまった。
領主様がやってこなくても女性だからの苦労があるんだね。
「うちだけじゃないです。どこでも増えてますけど、まあ、うまくいくとは限らないし、嫌なことを言われる可能性があるから……」
口調はしっかりしてるけど、悔しい思いをしたんだろうな……と、思う。
何をするにしてもパイオニアは大変だね。
「今の領主様がいらないことをするから……って言う人もいます」
んー。でも、それは、工房で働く女の人が増えれば変わることだからな……。
この世界の女の人はみんなよく働く。農家だったり商家だったり。
ただ、お金をたくさん扱えるような大きな商店や、工房が、分野によっては女性がものすごく少ない。
革工房や、木工、鍛冶などは女性がとても少ないのだそうだ。
「だから、時々みんなで集まってわ~ってグチを言うんですよ」
うふふ。と、アナベルさんは笑った。
「そうすると、また頑張ろうって思えるんです。だって、私、好きなんです、革。一生使えるものができますしね」
あら。
おっとりしてるように見えて、アナベルさん、意外と熱い?
「どうぞ、こちらです。親方に言えば色々相談に乗るはずです」
そう言いながらアナベルさんはドアを開けた。
「おお、アナベル。遅かったな。お客さんか?」
兄弟子らしい男性が声をかける。
「そうなんです。馬具と靴を探してらっしゃるって……。親方は……?」
「あー、なんか取引先が来ていて少し時間がかかるって言ってたな」
男性は私達に軽く会釈した。
「アナベル、お前が色々ご説明しろ」
「え……でも私の作ったものなんか……」
「何を言ってる。こないだの靴は親方も褒めていたぞ」
「えっ……!本当ですか?!」
アナベルさん、本当に革工房の仕事が好きなんだね。目がキラキラしている。
「本当だぞ。俺は契約を受けた仕事をやっているところだし、お前の作ったものを見てもらえ」
「あ……! はい……!」
アナベルさんは真っ赤になって私を見た。
そして
「あのじゃぁ、わちゃしの作った物を……!」
……盛大に噛んだ。
「革製品やさん?」
「馬具が必用だから」
「そうですね。任せていいですか、チャーリー?」
今の手綱は古いものだから、新しいのを買って、つけかえたら、ここに持って来ればお金が返ってくるんだと教えてくれた。
デポジットみたいなものだね。
「ついでに靴も見つくろうといいですよ」
トーマスさんはニコニコしている。
「靴屋さんよりは安いけどストウブリッジの革製品やさんよりは質が良い」
馬具は馬具の、靴は靴の専門店があるんだけれど、汎用の革製品店もあって、大抵のものはそこで用が足りるのだという。
ここは私とチャーリーに任せてホワイトさんの手伝いに戻ると言う。
そうか! 私の毛糸玉、しっかり売ってください。
「革製品やさんは、ここで皮なめしをしてるの?」
「まさか! こんな町中で皮なめしなんかもできないよ」
羊毛の処理も臭かったけれど革の処理はその比べ物にならないくらい臭いのだ。
そうだった。
確かに「知識」がそう言ってたっけ。
歩きながら、チャーリーの説明を聞く。
これから行く工房はなめし革をなめし工房から買って加工する工房だという。
「俺も前に一回行ったけれど、いい感じの店だった」
え。
チャーリー、自信たっぷりに話してたけど、一度しか行ったことがないの?
大丈夫?!
私は来たことのない町だし、しっかりしているように見えるけどチャーリーはまだ13歳だ。
「大丈夫だ」
チャーリーは胸を張った。
「そこにいる人に聞くからな!」
……どうやら私が気づかなかっただけでとうに迷っていたらしい。
「あの、すみません」
私はチャーリーが指さした私と同年齢程度の若い女性に声をかけ、ちょっと口ごもった。
「あ……」
女性の目は赤く腫れていて明らかに泣いていたからだ。
「はい、どうしましたか?」
でも、返ってきた声は明るかった。
気丈な人だ。
「あの、ブルーベル革工房を探していたのですが迷ってしまって」
「あら、それなら私の勤めている工房です。ご一緒しますよ。すぐそこです」
女性の名前はアナベル。18歳で、ブルーベル工房の唯一の女性徒弟だった。ものすごくおっとりとした風情の人だ。
「革工房で女性が働いているとは思いませんでした」
「縫い物みたいなものですけど、確かに力を使いますからね。割りと珍しいと思います」
今の領主が女性を徒弟として雇った工房は税金を優遇すると決めたらしく、今は特に小さな工房に女性が増えているんだと、アナベルは教えてくれた。
「女好きの領主様のおかげで、徒弟に入ることができたんですけど、やっぱり風当たりも強くて」
そこ、女好き関係ありますか?
「大有りです。女たちを工房に入れれば金回りが良くなってきれいな女が街中に増えてよりどりみどりだって言ったんだそうですよ!」
なんてこと!
領主様適当に見繕うだけではなく領内の女性の見た目の底上げまで目指しているの?!
「まあ、バグズブリッジには、ほとんどこない人だから、直接被害に合う可能性はなさそうなんですけど……」
革工房には、昔はあまり女の人がいなかったのでまだ珍しいのだそうだ。
「親方も兄弟子さんたちもみんないい人なんです……」
口ごもる様子から察してしまった。
領主様がやってこなくても女性だからの苦労があるんだね。
「うちだけじゃないです。どこでも増えてますけど、まあ、うまくいくとは限らないし、嫌なことを言われる可能性があるから……」
口調はしっかりしてるけど、悔しい思いをしたんだろうな……と、思う。
何をするにしてもパイオニアは大変だね。
「今の領主様がいらないことをするから……って言う人もいます」
んー。でも、それは、工房で働く女の人が増えれば変わることだからな……。
この世界の女の人はみんなよく働く。農家だったり商家だったり。
ただ、お金をたくさん扱えるような大きな商店や、工房が、分野によっては女性がものすごく少ない。
革工房や、木工、鍛冶などは女性がとても少ないのだそうだ。
「だから、時々みんなで集まってわ~ってグチを言うんですよ」
うふふ。と、アナベルさんは笑った。
「そうすると、また頑張ろうって思えるんです。だって、私、好きなんです、革。一生使えるものができますしね」
あら。
おっとりしてるように見えて、アナベルさん、意外と熱い?
「どうぞ、こちらです。親方に言えば色々相談に乗るはずです」
そう言いながらアナベルさんはドアを開けた。
「おお、アナベル。遅かったな。お客さんか?」
兄弟子らしい男性が声をかける。
「そうなんです。馬具と靴を探してらっしゃるって……。親方は……?」
「あー、なんか取引先が来ていて少し時間がかかるって言ってたな」
男性は私達に軽く会釈した。
「アナベル、お前が色々ご説明しろ」
「え……でも私の作ったものなんか……」
「何を言ってる。こないだの靴は親方も褒めていたぞ」
「えっ……!本当ですか?!」
アナベルさん、本当に革工房の仕事が好きなんだね。目がキラキラしている。
「本当だぞ。俺は契約を受けた仕事をやっているところだし、お前の作ったものを見てもらえ」
「あ……! はい……!」
アナベルさんは真っ赤になって私を見た。
そして
「あのじゃぁ、わちゃしの作った物を……!」
……盛大に噛んだ。
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