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第一部 綿毛のようにたどり着きました

ポニー

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出来上がったラノリンクリームの試作品をエレンさんのところに持っていくと、ガシっと腕をつかまれた。

「マージョ、これはお貴族様に売れるレベルよ!」

そうだろうなー。
油とか精油とかふんだんに使っているし。

「このクオリティになると、安定供給できるわけじゃないんです。だから、そこをわかってもらえない人には売れないなって思ってて……」


事業系資源ごみのスキルはまだ獲得していないから、本気でこのクオリティのものは次にいつ作れるかわからない。

いずれはこの世界で作れるものだけで生産できるようにしたいけれど、それまでは、売るにしても期間限定受注生産だ。
そこをわかってくれないお貴族様とかに下手に気に入られても困るのだ。無理を言われそうだし。

今回は小さなガラス瓶4つにつめた。そのうち2つをエレンさんに渡してある。

「一つは興味を持ちそうな人に渡してください。もう一つはエレンさんのです。すみませんが、エレンさんの瓶は空になったら返却してくれませんか」

「もちろんよ!」

残り2つはそれぞれ私のとリジーさんのだ。
とにかく身近な女性たちの反応を知りたいよ。

「そうそう。マージョに聞きたかったことがあるのよ。マージョ、ポニーとか、馬とか欲しくない?」

「!」

考えたこともなかったけど、そうか、こんな農村に住んでいる以上、自分で市場に行ったりするにはポニーとか、馬とか、いたほうがいいんだね。
それはわかる。

「でも、買うお金もないし、買って面倒見切れるかも、ちょっと……」

最近蒸留器具を買い戻したばかりだし、今後多分素材も買わないといけないだろうしな……

そう思って口ごもると、エレンさんは満面の笑みを浮かべた。

「でしょ? だからうちのトーマスと共同所有しないかって思って」

ポニーの共同所有?!
カーシェアリングみたいな感じですね?!

ホワイトさんのところの徒弟のトーマス君は今年17歳。14で徒弟に来て、あと2年で年期があける。
徒弟の間は基本タダ働きだけれど、独り立ちしたら少なくともポニーくらいは持っている方がいい。
この3年間、ホワイトさんの徒弟をする傍ら、トーマス君は市場で少しずつお金を稼いできたけれど、できたらそろそろ自分のポニーがほしいのだそうだ。
今後2年間、自分の資産を増やしていくのにも大切だしね。

でも、お金は足りない。

だから私に一部出資してくれないか、というお誘いだった。
ポニーは基本的にはホワイトさんの家でトーマス君が面倒を見る。
私はお金を出して今後2年間、月に何回か、合意ができた回数だけポニーの使用権を持つ、という話だ。

「トラブルのもとになることも多いから、共同所有は色々難しいんだけど」
エレンさんはニッコリした。
「マージョは契約書の書き方を知ってそうだし」

この機会にトーマス君に契約書の書き方を勉強させようという考えですね、エレンさん。
抜け目ない。

でも、確かに自分のポニーがあれば、ストウブリッジに買付けに行くのも楽になるな。

農村の人たちは何でも自分で作ってしまうけど、お一人様には他人との繋がりが必須だし、ラノリンも、信頼できる供給源があれば、自分で一から精製しないですむ。
期間限定ということは、トラブルがあっても比較的痛手は少なそう……。

これは、あり、かも。

トーマス君とはストウブリッジに行くときに一度会ったきりだから人となりがちょっとだけ気になるけど、そのあたりはエレンさんの目があるしね。

買ったポニーを酷使して使い物にならなくするようなリスクも低そう。そもそも、馬と違ってポニーだとそんなにスピードも出にくいし、気性も穏やかなことが多いし安心だ。

「乗り気なら、じゃあそのうちトーマスを行かせるわ」
「そうですね。明日は安息日ですから週明けにでも」
「契約内容は二人で決めてちょうだいね」


うん。
エレンさんは、やっぱり契約の仕方を学ばせる気だね!

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