上 下
38 / 113

ラノリン

しおりを挟む
ラノリンは、羊の皮脂みたいなものだ、と思う。

撥水性があって、羊を皮膚病から守るためにある程度の抗菌効果も持っている……はず。たしか。

精製していないものは木製製品にすりこんだり、蝶番の錆止めにしたり、色々使えるんだけど、とにかく、臭い。

当然、臭い。

羊の毛だもの、汗や泥や、とにかく色々なものがくっついていて獣臭い。

でも、丁寧に精製すれば良質のハンドクリームやスキンケア用品が作れる。

これを生計の柱にできないかどうか、考えている。
布ものはあまりいっぺんに放出すると出どころを聞かれそうだから。

ということで今日の授業はラノリン製作と平行して庭で行うことに。
庭には石を積み上げた、簡素なバーベキューっぽい物があったんだけど、なるほど、こういうときに使うんだね。

バーベキューパーティーなんて優雅な話じゃなかったよ!

チャーリーが暖炉でおこしてくれた熾火をもとに火を熾して井戸水たっぷりの鍋をかける。
そこに羊毛を入れる。

うー。汚いけど油っこい。

チャーリーとアリスちゃんは慣れたもので、さっと風上に陣取った。
これか! これを気にしてたのね。

手を洗って、鍋を沸騰させるかたわら、二人と一緒に勉強する。

……本当によくできるんだよね、二人とも。

しばらく勉強していると、匂いがどんどんきつくなる。

お湯が沸騰してきたんだね。

……雑巾をすすいだ後みたいな色だよ!
このお湯からハンドクリームができるというのが、頭ではわかっていても信じられない。


私の顔が面白いらしくて二人はクスクス笑っている。

「マージョ可笑しい」
「初めてラノリンを作るわけじゃないだろ?」

うーん。初めてじゃない(ことになっている)んだけど、今回はこれをもとに顔につけても困らないような物を作ろうとしているから……

そう言うと二人は、そんな、というような顔をした。

「マージョのお母さんはあんまり匂いがしないラノリンを作るのが上手だったけど……」
「顔ねえ」

そんな顔をしても私は前の世界でラノリン配合のクリーム持ってたんだもん。
アラフォーのお肌にも効き目抜群だったよ。

大体煮えたな、と思ったら糸をもう一つの鍋に移してまた茹でる。
最初の鍋は蓋をしてそのまま放置しておく。
熱い泥水が入ってるみたいにしか見えない。

でも新しい鍋の方の羊毛はだいぶきれいな色になってきた。これが終わったらシャボン草水で洗って乾かそう。

これでもらった毛束の一部にしか過ぎないから、ぜんぶ処理するには、これを何度もやることになるんだろうな……とちょっと変な顔になりつつ思った。
なかなかの重労働だ。

チャーリーとアリスちゃんが帰った後はキッチンで昨日大量に取った野菜や果物類の処理をした。
まずはレモンの塩漬け。
モロッコとかで使うあれ。発酵して深みのあるいい味になるはず。
レモンを縦に四分の一に切って塩と交互に瓶につめていく。
柚子は柚子茶に。そのままで食べるのが一番美味しいけれど、さすがに日持ちのことを考えたい。
日本の柚子料理は結構みりんや砂糖と合わせることが多いから、柚子茶が一瓶あるときっと役に立つ。

なますにしても、柚子味噌にしても甘いもの。
日本にいたときも柚子茶で代用してたりしたんだよ。

大根は切り干し大根を目指すし、白菜はキムチにするために塩水に漬けておく。
アミの塩辛なんてないからお味はかなりあっさりめになるはずだけれど、多分それっぽい物ができると思う。

ものすごく大量に瓶詰めを作ったけど、どれも保存食だから、すぐに神々に食べてもらうわけにはいかない。
ちょっと考えてから瓶ごと神棚に供えた。

食べ頃になったら最初の一匙はそれぞれアナスタシアとアーロンに捧げます。
この段階で瓶ごと全部消えられては困るので、とりあえずは約束だけだよ、と念押しをしておく。

ラノリン、ちゃんとできているといいな……
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢はヒロインとの日々のため、大きな決断を下した。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:20

駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:343

気づいたら異世界ライフ、始まっちゃってました!? 

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:924

悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,436pt お気に入り:5,735

処理中です...