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第一部 綿毛のようにたどり着きました
市場から帰りましたよ
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「お嬢さんはストウブリッジは初めて? 私が案内してあげようか」
優男は色々と話しかけてきたんだけれど、なんか「どうやって逃げよう」としか考えられなくて、ちょっと困っていたら、誰かが私たちに声をかけてきた。
「フェリックスさん、お久しぶりです」
「おや、テイトさん、こちらこそ」
「いやあ、あの節は本当にお世話になってしまって……」
話しかけてきた人の口調や物越しからわかる。やっぱりこの優男、なんかそこそこの権力者だ……!
なんか面倒な匂いがするから私はそろそろと逃げ出す。
16歳にしては小柄なんだよ、マージョ。
ということで、ちょうど良く歩いてきた男性の集団に隠れてチョロチョロと逃げ出した。
成功!
こんな田舎の小娘にまで人当たりの良い優男とかあんまり信用できないよ!
その後、結構歩き回って、足が棒になったかって思った頃にエレンさんの出店を見つけた。
「楽しかった?」
エレンさんはニコニコしている。あの後私のかごの中のガラスのものは全部売れたということで、まとまった額のお金をもらった。
あと、かごを覆っていたパッチワークの布にも質問が集中したと言っていた。
「売り物じゃなかったのよね……?」と、なんか申し訳なげに聞かれたけど、売り物になるとはそもそも思ってなかったんだよ。
なるのかな?
「なるわよ~。色も鮮やかでキレイだし。裏地をつけたら結構いい値段になるんじゃないかしら」
なんか、それは意外だったのでちょっとびっくりしてしまう。琺瑯のコップに熾火を入れて、熱くなった底をアイロン代わりにしたから処理がきれいなんだね。そこも褒められた。
でも、コップの中はボロボロになってしまった。ホーローって温度に気をつけなくちゃいけなかったんだね……。
ちょっと悲しかったけれど、気を取り直してあのコップはアイロン用と決めたのだった。
ホワイトさんは概ね市場で買い出しの方に専念していた。村のヒトからの注文の物を買い集めてくるのだ。それから、注文はなかったけれど、絶対に需要がありそうなものなんかも買い揃えている。
村では見ない鉄製品とか、蜜蝋の蝋燭とか、いくつか馬車に詰め込んでいる。
「持ってきたものはほとんど売れたね」
「良かった。野菜はいつも気を揉むよ」
エレンさんとだんなさんが嬉しそうに話している横で私も手伝う。ガラスが売れたことで随分懐が潤った。
「冬物のブーツ、持ってる? 持ってないならそのうちバグズブリッジの市場に連れていってあげるから注文すると良いわね」
成長期はもう終わりに近いけど、マージョのブーツは擦り切れているし、ちょっときつい。
安い中古のブーツもあるけど、来週市が立つバグズブリッジには良い靴屋さんや革製品屋さんがいるのだという。ただし注文してからしばらく待たなくてはならないし、出来上がってから履き込んで革を柔らかくしないといけない。
冬に使う予定のものは夏に買い揃えたい。
足型から作ってくれるめちゃくちゃ高いのと、ちょっと安めの「だいたいこんなかんじ?」みたいな作り方をするのと両方あって、後者は革製品屋さんの駆け出しの徒弟が作るんだけれど、ずっとお安いからそっちにしたら? と勧められた。
帰りの馬車の荷台に場所を作ってもらってガタゴト揺られていたら猛烈に眠くなってきた。
昨日スキルをいっぱい使ったからな……。
それに市場で色んな人と話したり色んなものを見たりした。
正直、日本のデパートに比べれば物が多いわけじゃない。でもとにかく雑然としているから疲れるんだよ。
村に帰ったらエレンさんがニコニコ蒸留器を売ってくれた。お金が回収できて嬉しいというのと、あと、これで私が薬を作り始めてくれるかもしれない、というのも嬉しいんだと言っていた。
ついでに壊れないよう木箱に入れて徒弟のトーマスくんに運ばせてくれた。
今日稼いだお金はそういうわけでほとんど飛んだけど、色々と収穫ありの一日だった。物も知識も。
体中埃っぽい気がするけどね!
トーマス君が帰ったところで火を熾す。蒸しタオルで顔や手を拭いてさっぱりした頃には鍋に汲んだ井戸水も温かくなっている。
今日は市場でいい感じの平たいざるを見つけたのだ。
アリスちゃんに頼んでも良かったのだけれど、見るまで思いつかなかった。
で、見たら衝動的に買っちゃったの!
これで蒸し野菜ができるよね! 鶏肉も少しある。これも塩をして陰干ししておいたから味が凝縮しているよ。
もう訪ねてくる人もいないだろうから、パジャマに着替えて蒸し野菜とパンで夕食。メンストンさんの持ってきてくれた胡桃を使ってタレを作っておいたんだけど、これが絶品だった。しょっぱいプリッとした鶏肉と採れたての野菜たっぷりのごはん。
最後に暖炉の火を見ながらコーヒーを飲んでいたら、何だか妙に幸せな気分になった。
タオル地のパジャマが肌に優しくて気持ちよかったっていうのもあるかも。
パッチワーク頑張ろう。
売り物も作りたいけれど、裏地タオル地のキルトを作るんだ。そんな感じのひざ掛けもあってもいい。色が綺麗だと心も華やぐよ。
ガラスはあんまりたくさん一度に売ると怪しまれるだろうから売り物のキルトも作りたい。
それから蒸留器も使ってみたいよ。
「知識」を探して、薬品を作って売れるようになると多分、この世界で怪しまれない商売ができるようになるよね。
なにしろ、我が家、ガラス瓶が無料だからね!
優男は色々と話しかけてきたんだけれど、なんか「どうやって逃げよう」としか考えられなくて、ちょっと困っていたら、誰かが私たちに声をかけてきた。
「フェリックスさん、お久しぶりです」
「おや、テイトさん、こちらこそ」
「いやあ、あの節は本当にお世話になってしまって……」
話しかけてきた人の口調や物越しからわかる。やっぱりこの優男、なんかそこそこの権力者だ……!
なんか面倒な匂いがするから私はそろそろと逃げ出す。
16歳にしては小柄なんだよ、マージョ。
ということで、ちょうど良く歩いてきた男性の集団に隠れてチョロチョロと逃げ出した。
成功!
こんな田舎の小娘にまで人当たりの良い優男とかあんまり信用できないよ!
その後、結構歩き回って、足が棒になったかって思った頃にエレンさんの出店を見つけた。
「楽しかった?」
エレンさんはニコニコしている。あの後私のかごの中のガラスのものは全部売れたということで、まとまった額のお金をもらった。
あと、かごを覆っていたパッチワークの布にも質問が集中したと言っていた。
「売り物じゃなかったのよね……?」と、なんか申し訳なげに聞かれたけど、売り物になるとはそもそも思ってなかったんだよ。
なるのかな?
「なるわよ~。色も鮮やかでキレイだし。裏地をつけたら結構いい値段になるんじゃないかしら」
なんか、それは意外だったのでちょっとびっくりしてしまう。琺瑯のコップに熾火を入れて、熱くなった底をアイロン代わりにしたから処理がきれいなんだね。そこも褒められた。
でも、コップの中はボロボロになってしまった。ホーローって温度に気をつけなくちゃいけなかったんだね……。
ちょっと悲しかったけれど、気を取り直してあのコップはアイロン用と決めたのだった。
ホワイトさんは概ね市場で買い出しの方に専念していた。村のヒトからの注文の物を買い集めてくるのだ。それから、注文はなかったけれど、絶対に需要がありそうなものなんかも買い揃えている。
村では見ない鉄製品とか、蜜蝋の蝋燭とか、いくつか馬車に詰め込んでいる。
「持ってきたものはほとんど売れたね」
「良かった。野菜はいつも気を揉むよ」
エレンさんとだんなさんが嬉しそうに話している横で私も手伝う。ガラスが売れたことで随分懐が潤った。
「冬物のブーツ、持ってる? 持ってないならそのうちバグズブリッジの市場に連れていってあげるから注文すると良いわね」
成長期はもう終わりに近いけど、マージョのブーツは擦り切れているし、ちょっときつい。
安い中古のブーツもあるけど、来週市が立つバグズブリッジには良い靴屋さんや革製品屋さんがいるのだという。ただし注文してからしばらく待たなくてはならないし、出来上がってから履き込んで革を柔らかくしないといけない。
冬に使う予定のものは夏に買い揃えたい。
足型から作ってくれるめちゃくちゃ高いのと、ちょっと安めの「だいたいこんなかんじ?」みたいな作り方をするのと両方あって、後者は革製品屋さんの駆け出しの徒弟が作るんだけれど、ずっとお安いからそっちにしたら? と勧められた。
帰りの馬車の荷台に場所を作ってもらってガタゴト揺られていたら猛烈に眠くなってきた。
昨日スキルをいっぱい使ったからな……。
それに市場で色んな人と話したり色んなものを見たりした。
正直、日本のデパートに比べれば物が多いわけじゃない。でもとにかく雑然としているから疲れるんだよ。
村に帰ったらエレンさんがニコニコ蒸留器を売ってくれた。お金が回収できて嬉しいというのと、あと、これで私が薬を作り始めてくれるかもしれない、というのも嬉しいんだと言っていた。
ついでに壊れないよう木箱に入れて徒弟のトーマスくんに運ばせてくれた。
今日稼いだお金はそういうわけでほとんど飛んだけど、色々と収穫ありの一日だった。物も知識も。
体中埃っぽい気がするけどね!
トーマス君が帰ったところで火を熾す。蒸しタオルで顔や手を拭いてさっぱりした頃には鍋に汲んだ井戸水も温かくなっている。
今日は市場でいい感じの平たいざるを見つけたのだ。
アリスちゃんに頼んでも良かったのだけれど、見るまで思いつかなかった。
で、見たら衝動的に買っちゃったの!
これで蒸し野菜ができるよね! 鶏肉も少しある。これも塩をして陰干ししておいたから味が凝縮しているよ。
もう訪ねてくる人もいないだろうから、パジャマに着替えて蒸し野菜とパンで夕食。メンストンさんの持ってきてくれた胡桃を使ってタレを作っておいたんだけど、これが絶品だった。しょっぱいプリッとした鶏肉と採れたての野菜たっぷりのごはん。
最後に暖炉の火を見ながらコーヒーを飲んでいたら、何だか妙に幸せな気分になった。
タオル地のパジャマが肌に優しくて気持ちよかったっていうのもあるかも。
パッチワーク頑張ろう。
売り物も作りたいけれど、裏地タオル地のキルトを作るんだ。そんな感じのひざ掛けもあってもいい。色が綺麗だと心も華やぐよ。
ガラスはあんまりたくさん一度に売ると怪しまれるだろうから売り物のキルトも作りたい。
それから蒸留器も使ってみたいよ。
「知識」を探して、薬品を作って売れるようになると多分、この世界で怪しまれない商売ができるようになるよね。
なにしろ、我が家、ガラス瓶が無料だからね!
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